戸籍の広域交付制度が3月から始まります(注意点を記載しました)

今年の3月からは、本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍証明書・除籍証明書を請求できるようになります(これを広域交付といいます)。

ほしい戸籍の本籍地が全国各地にあっても、1か所の市区町村の窓口でまとめて請求できるようになるわけです。

以前はこれができず、本籍地ごとに手続きをする必要がありましたので、便利になったことは確実でしょう。

 

もっとも、例えば、相続手続きの前提として亡くなった方の出生から死亡までの戸籍一式などが必要となる場合、窓口となる役所から本籍地の役所への問合せなどが必要となり、その場では交付してもらえない場合もあるようです。

 

また、そもそも、役所の窓口では、誰が法定相続人であるかといった判断、どこまでの戸籍を取りつける必要があるかといった判断までしてくれるわけではありません。

(事実上助言をしてもらえることはあるかもしれませんが、責任を持って職務として行ってくれるわけではありません。)

従来どおり、専門家の助言を受けることが必要となるケースも多いでしょう。

 

また、広域交付制度でとれるのは、本人、配偶者、父母・祖父母など(直系尊属)、子・孫など(直系卑属)の戸籍証明書等となっており、兄弟姉妹などの戸籍は対象外ですので、要注意です。

そうすると、「相続人に兄弟姉妹が含まれる場合」には、事案にもよりますが、従来どおり、専門家に兄弟姉妹のそれぞれの本籍地ごとに手続きをして戸籍の取付をしてもらう必要があるということになるでしょう。

故人に子も直系尊属(父母、祖父母等)もおらず、兄弟姉妹(死亡している場合にはその子供、故人からすれば甥姪を含む。)が生存している場合が、「相続人に兄弟姉妹が含まれる場合」になります。

 

さらに、請求する人は、本人が市区町村の戸籍担当窓口に直接出向いて請求する必要があり(郵送)、代理人による請求はできません。

そのため、弁護士などの専門家は代理でこの制度を利用することができず、従来どおり本籍地の役所ごとに手続きをする必要があります。

 

その結果、相続の案件を弁護士に依頼する場合でも、スピードだけ見れば、まずは相続人が自分で最寄りの役所で可能な範囲の戸籍一式を取り付けて、それを弁護士に交付し、それでは不足が生じる部分を弁護士に追加で取ってもらうのが一番早いというケースが多くなるでしょう。

もっとも時間の余裕が多少あるのであれば、面倒なことは全て専門家に任せたい、専門家に任せた方が確実だという考えもあるでしょうから、最初から弁護士に自分以外の戸籍は全て取付を任せるという選択ももちろんあるでしょう。

戸籍取付の進め方については、弁護士と相談の上で決定するとよいでしょう。

 

将来的には、窓口一つで申請すれば、相続手続きに必要となる戸籍一式の取付から、法定相続人の確定~法定相続情報証明書(法務局にて発行)の取付までの一連の作業が可能になれば、大変便利だろうとは思いますが、役所も違いますし、そこまで実現するのはまだまだ先かもしれません。

まずは今回の戸籍の広域交付制度が国民の利便性向上につながっていることが実際に確認されれば、今後も期待できるかもしれませんね。

遺言で会社に対する株式などの遺贈を考えているひとは税金に注意を(2)

前回の続きです。

今回は、会社に遺贈するのがその会社が発行した株式である場合の税金について、説明します。

 

ⅰ)会社の税負担について

この点については、前回のⅰ)とは事情が異なります。

会社にとっての自己株式の取得については、現在の会社法や法人税法のもとでは資本取引(資本の払い戻し)であるとして益金、法人税は発生しないものと基本的に考えられているところだとは思います。

しかしながら、会社に株式の時価相当額の益金が発生したとして法人税がかかるとの見解も見受けられるところではあり、この点は若干不明確なところがあります。

 

ⅱ)故人の税負担について

前回のⅱ)と同じく、亡くなった故人については、遺贈により、その財産を時価相当額で(相続税評価額ではないためより高額になる場合があります)会社に譲渡したものとみなされ、取得時からの値上がり益がある場合には、その譲渡所得について所得税がかかることになります。

それだけでなく、発行会社に対する自己株式の譲渡であるために、譲渡代金のうち一部については会社から配当を受けたものとみなされ、配当所得がかかってしまう場合もあります(この場合、会社は予め支払時に約20%の源泉徴収をしなければなりません。)。

相続開始を知った日から4か月以内に、所得税の準確定申告をして納付する必要があることは変わりません。

 

ⅲ)他の株主の税負担について

基本的に前回のⅲと同じだと考えられます。

 

 

2回にわたってご説明してきましたが、会社に対する遺贈については、他の株主や相続人への税金上の影響がありますし、株式の時価評価額によってはそれらの税金が多額となることもあり、通常の相続の場合と比べて複雑となり、心配しなければならない点があることが分かってもらえるかと思います。

法人への遺贈は税負担のこともよく考えてから!ということになります。

 

皆さま、ご注意ください。

遺言で会社に対する株式などの遺贈を考えているひとは税金に注意を(1)

会社の代表者、オーナーが、重要な財産を同族会社に貸しているような場合(よくあるのは会社の本社ビルが建っている土地が個人所有になっているケースです。)などには、自分が亡くなったときに、遺言で会社へその財産を遺贈したいと考える場合もあるでしょう。

あるいは、保有している会社の株式について相続させる適切なひとが思い当たらない場合に、とりあえず保有株式(の一部)をその会社に遺贈しようとする場合もあるでしょう。

 

しかし、遺言で会社に対して財産を遺贈する場合には、意外な税金の負担が発生することがあるため、注意が必要です。

 

1.まず、会社に不動産など一般的な財産を遺贈する場合について、説明します。

 

ⅰ)会社の税負担について

遺贈により、会社は利益を受けることになるため、法人税等が課されることは当然です(例外的に、「持分の定めのない会社」の場合には、法人であるにもかかわらず相続税がかかることがあります。)。

 

ⅱ)故人の税負担について

次に、亡くなった故人については、遺贈により、その財産を時価相当額で(相続税評価額ではないためより高額になる場合があります)会社に譲渡したものとみなされ、取得時からの値上がり益がある場合には、その譲渡所得について所得税がかかることになります。

実際には相続人がその所得税の納税義務を承継することになるのですが、相続人は、相続開始を知った日から4か月以内に、準確定申告をして税金を納付する必要があるのです。

相続人は、被相続人の死後バタバタしている時期に、短期間で、場合によっては多額の納税をしなければならないわけです。

予め相続人が遺言の内容を知らなければ、あるいは予め納税資金の準備ができている場合でない限り、相続人にとっては大きな負担となるかもしれません。

 

ⅲ)他の株主の税負担について

さらに、場合によっては、会社の他の個人株主について、会社が遺贈を受けたことに伴い、自らの所有株式の価値も増えたことについて、亡くなった故人から贈与(遺贈)を受けたものとみなされ、相続税がかかることもあり得るのです。

 

次回に続きます。

遺留分権利者が受けた特別受益は10年以上前のものでも遺留分侵害額から控除される

 

令和元年7月1日に施行された民法改正により、遺留分を算定するための財産の計算上、相続人に対する贈与(特別受益に限る)については、原則として相続開始前の10年間にされたものに限られることになりました。

 

相続人の特別受益の額について相続財産の額に足し戻して計算をするのは、相続人の具体的な相続分(それぞれの相続人の本来の遺産の取り分のことです)の計算のときも同様ですが、相続人の具体的相続分の計算のときについては、改正がされておらず、従来どおり特別受益について期間の制限はなく、非常に古い特別受益であっても具体的相続分の計算の際に考慮されることになります。

この点については以前、記事を掲載しました(「10年以上前の相続人への生前贈与でも特別受益の持戻しはなされる」)

 

さて、今回は、もう1点、特別受益について期間の制限がなく、非常に古い特別受益であっても計算の際に考慮される場面を挙げておきたいと思います。

 

それは、遺留分侵害額を計算する際に、「遺留分権利者が受けた特別受益の額」を控除するときです。

 

これも誤解されやすいポイントではないかと思います。

 

 

上記のとおり、各相続人(遺留分権利者か義務者かなどにかかわらず)の「遺留分を算定するための財産」には、相続人に対する贈与財産のうち、相続開始前10年間に贈与されたもののみ含まれますが、「遺留分侵害額」を請求しようとする各相続人自身が被相続人から受けた特別受益については、その計算上、相続開始前10年間にされたものに限らず、古いものも全て、控除されることになります(その分、遺留分侵害額は低くなります)。

 

このことは、以下の民法の条文から明らかです。

 

(遺留分侵害額の請求)

第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 〔略〕

三 〔略〕

 

(特別受益者の相続分)

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

※民法903条1項では、上記のとおり「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし・・・」とあり、加えられる贈与について、時期の制限はありません。

 

 

以上、特別受益について期間の制限がない場面として、遺留分侵害額の計算上、遺留分権利者が受けた特別受益の額を控除する場面を挙げました。

 

皆さん、誤解していませんでしたか?

 

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遺言執行中に遺留分侵害額請求がされた場合 の遺言執行者の対応

 

民法改正により、遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権となり、完全な金銭請求権となったことは皆さん既にご存じでしょうか?

さて、今回は、その関連で、遺言執行者の立場で、遺留分減殺請求が遺留分侵害額請求になったことによって受ける影響について、ご説明します。

 

具体的には、遺言者が亡くなり、遺言執行者が遺言を執行しているときに、ある相続人から他の相続人に遺留分侵害額請求がされた場合にどうなるのかという点に、改正の影響がでます。

 

というのは、改正前は、遺留分減殺請求権を行使すると、遺留分を侵害する遺贈等の効力が遺留分を侵害している限度で失われ、その部分の所有権等は遺留分減殺請求者に帰属することになっていました。

そのため、ある不動産を遺贈する遺言などについては、遺留分減殺請求がされると、遺言執行者が遺言を執行できなくなる部分が発生していました。

 

もっとも、具体的に遺贈等をされた遺産のどの程度の割合が遺留分侵害となっているのかは、相続人の特別受益の額がどの程度あるかなどの点によって変わり、遺留分減殺請求をする相続人(権利者)と、請求を受ける者(義務者)との間で協議、確定され、最終的には裁判官が判断する性質の事柄であるため、遺言執行者の立場では容易に判断できませんでした。

 

そのため、実務上は、遺言執行者が権利者と義務者の間の調整を図ってもなお合意に至らない場合は、遺言執行をいったん停止するか、遺言どおりに執行をしてしまうか(最終的には裁判等を通じて是正される場合もありますが。)、難しい選択を迫られていました(いったん停止するケースが多かったのではないかと思います。)。

 

さて、改正後はどうなったかというと、極めて単純な話になりました。

 

遺留分侵害額請求権は金銭債権となり、行使をされても遺産(の帰属、取得割合)には影響が出ないため、遺言執行者は遺言どおりに遺贈等の執行をすればよいということになったと考えられます。

 

もちろん、それとは別に、遺留分の権利者と義務者との間では、遺留分侵害額について協議、確定し、最終的には裁判官に判断してもらったうえで、義務者が権利者に対して遺留分侵害額の金銭を支払うことになりますが。

 

以上のとおり、遺言執行者の立場で、遺留分減殺請求が遺留分侵害額請求になったことによって受ける影響について、ご説明しました。

 

遺言書、遺留分侵害額請求について、ご相談があるかたは、クーリエ法律事務所までどうぞ!

相続人申告登記って皆さん知っていますか?

令和6年4月から開始される相続登記の義務化により、相続登記は3年以内にしなければならないことになりますが、遺産分割がその期限までに成立しない場合には、遺産分割を反映させた相続登記をすることができません。

そういった場合に、どうしたらよいのでしょうか?

 

以前から、遺産分割が成立していない場合に、相続人は単独でも法定相続分による相続登記の申請をすることはできました。

もっとも、この場合、結局、遺産分割成立後には改めて遺産分割登記をする必要があります。正式な登記申請が2回必要となるわけです。

 

そこで、これらの点をふまえて、相続登記の義務化に合わせて新たに導入されることになったのが、「相続人申告登記」(※通称です)の制度です。

相続人申告登記制度は、相続人が、登記名義人が亡くなったこと、自分が登記名義人の法定相続人であることを法務局に申し出るだけで、法務局にその旨の付記登記をしてもらえるというものです。

 

これにより、相続人はとりあえず相続登記の義務を履行したものとみなされることになります。

 

申請自体、相続人単独で可能ですし(全相続人がまとまってする必要はなく、バラバラにしてもよい。)、手続きも簡易なものになるようです。

 

しかも申請の費用自体は無料です(申請になる必要となる戸籍謄本等の発行費用は別として)。

 

もっとも、その後に遺産分割により所有権を取得した場合は、遺産分割の日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。

当然といえば当然ですが、この点誤解のないようにしてください。

 

遅れた場合、10万円以下の過料の制裁を受けることになるおそれがあります。

 

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個人から宗教法人に対する贈与について贈与税をかけた税務署の処分を取り消した裁決のご紹介

 今回は、宗教法人の代表役員を務めていた住職が、生前に自分の預金から出金し、宗教法人の預金に入金した点に関し、税務署が、この金員の移動は持分の定めのない法人に対する財産の贈与で、住職の親族の相続税の負担が不当に減少する結果になるとして、相続税法第66条第4項の規定により、宗教法人を個人とみなして贈与税の決定処分等をしたのに対し、宗教法人が審査請求人として国税不服審判所で争った事案について、税務署の処分を全て取り消した国税不服審判所の令和3年5月20日付の裁決をご紹介します。

 

当時の相続税法第66条第4項の規定によれば、持分の定めのない法人に対する贈与があった場合に、当該贈与により当該贈与をした者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして贈与税を課すこととされています。

通常、贈与税は個人間の贈与に限り課されるものですが、課税逃れを防ぐために、例外的に法人等に贈与税が課される場合があるわけです。

 

この点について、審判所は、前提として、以下のとおり、相続税法第66条第4項に関する法令解釈を示しました。

「相続税法第66条第4項の趣旨は、持分の定めのない法人に財産の贈与があったときに、その財産の贈与者の親族等が当該贈与財産の使用、収益を事実上享受し、又は当該財産が最終的にこれらの者に帰属するような状況にある場合に、相続税又は贈与税の負担に著しく不公平な結果をもたらすことになることを防止するため、当該持分の定めのない法人を個人とみなして、財産の贈与があった時に、当該法人に対し贈与税を課することとしたものである。

 このような趣旨からすれば、同項所定の贈与者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があり、その時点において、その法人の社会的地位、寄附行為、定款等の定め、役員の構成、収入支出の経理及び財産管理の状況等からみて、財産の提供者等ないしはその特別関係者が、当該法人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実があるかによって判断すべきである。」

 

この法令解釈は通説的な見解と大きく違わないものだといえると思います。

 

次に、審判所は、以下のような判断をしました。

 

「・請求人の経理及び財産管理の状況等について

前住職らによる請求人の業務運営及び財産管理については、請求人の総代が相当程度に監督しているものと認められるほか、前住職らが私的に業務運営や財産管理を行っていたとまでは認められない。

 

・私的な財産の使用・運用の有無(生活費の支出の有無)について

本件各資金移動の時点において、原処分庁が主張する前住職らの生活費として毎月20万円を請求人の財産から支出していた事実を認めることはできず、他にその事実を裏付ける客観的な証拠も認められない。

 

・私的な財産の運用の有無(本件建物の私的利用の有無)について

本件建物は現住職の子が僧侶としての職務を遂行するに当たり必要な庫裏とみるのが相当であり、現住職の子を本件建物に無償で居住させたとしても請求人の財産を私的に利用したということはできない。

 

・その他私的な利益の享受の有無について

そのほか、前住職らが、本件各資金移動の時点において、請求人の財産から私的に財産上の利益を享受した事実は見当たらない。

 

・解散時の財産の帰属について

本件寺院規則第39条の定めをもって、前住職らが恣意的に請求人を解散し、その財産を私的に支配することができるとはいえない。

 

・まとめ

前住職らが、請求人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実は認められない。

 したがって、本件各資金移動により相続税法第66条第4項に規定する贈与者である前住職の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められない。」

 

さて、税務署は相続税法第66条第4項という例外的な否認規定を用いて否認し、宗教法人に対して贈与税を課したわけですが、審判所は税務署の主張を認めませんでした。

税務署からしても否認規定を適用するのは容易なことではないといえるかと思います。

本件は重要な先例となる裁決だと思いましたので、ご紹介しました。

 

税金の処分、調査でお困りの方はクーリエ法律事務所までどうぞ!

自筆遺言の書式、用紙はどうすればよいのか

 

法務局での自筆証書遺言の保管制度が令和2年7月より開始しています。

実際に利用された方もかなりの数に上っているようです。

さて、これから利用しようとしている方、利用するか考えている方は、法務省の以下のホームページに関連事項がまとまっていますので、目を通してみられるとよいでしょう。

 

法務省「03 遺言書の様式等についての注意事項」

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

 

さて、実際に遺言書に書く内容が大体決まったときに次は、何にどのように書くのか?が気になる方がいらっしゃるでしょう。

 

自筆遺言については民法上、決まった用紙、書式などはありませんが、法務局の保管制度を利用する場合には、以下の決まりがありますので、注意が必要です。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

・用紙については、A4で、文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの(一般的な罫線はもちろん問題ありません)に限られます。

 

必ず、最低限、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をそれぞれ確保する必要があります。

 

・片面のみに記載してください(財産目録も同様です)。

 

・各ページにページ番号を記載してください。

例えば「1/2」「2/2」といったように、総ページ数も分かるように記載してください。

 

※※ページ番号も必ず余白内に書く必要があります!

 

・複数ページある場合でも、ホチキス等で綴じてはいけません!

 

全てのページをバラバラのまま提出します(封筒も不要です。)。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

以上のとおり、ページ番号の記入や余白の確保に気をつけなければなりませんが、ご安心ください。

 

さて、上記の法務省のホームページでは、記載例が載せられているだけでなく、親切なことに用紙(書式)まで用意してくれています。

 

法務省「遺言書の用紙例」

https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/001321932.pdf

 

右下の枠の中にページ番号を記入することになります。

 

こちらの書式をA4用紙に片面印刷して、利用されるとよいのではないでしょうか。

 

参考になったでしょうか。

 

弁護士と相談してから遺言書を作成したいと考えておられる方は、クーリエ法律事務所までどうぞ!

 

住所変更登記登記、忘れていませんか?

住所等変更登記の申請義務化は、令和6年4月1日施行からの施行となっていますが、施行前の住所変更にも適用されますので注意が必要です。

 

住所等の変更登記の申請義務化は、相続登記義務化以上に多くの人に影響が出るであろうと予測されます。

 

内容は下の条文に記載したとおりです。

 

不動産登記法第76条の5(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)

所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。

 

※164条では、正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、五万円以下の過料に処することとされています。

 

住所変更だけでなく、結婚、離婚などで氏名の変更があったときも対象となります。

 

 

さて、不動産の相続については、人生の中で何度もあることではないので、過去の相続のことや、相続の登記をしたかどうかについて覚えているのが通常でしょう。

しかし、住所とは別に不動産を所有している場合に、引越をして住所を変更したら所有不動産について住所の登記を変更しなければならないという意識がなく、住所変更登記をせずにいた人が多数いることだと思います。

そう考えると、今回の住所変更登記の申請義務化の影響は、相続登記申請義務化よりも大きいといえるのではないでしょうか。

 

特に、個人で多数の不動産を持っている人は今後、引越しなどで住所を変更する度に、所有不動産すべての登記を変更しなければならないということになり、大変ですね・・・。

(不動産の法人所有への転換を考えた方がよい場合もがあるかもしれませんね。)

 

また、数年おきに住所移転を繰り返していながら、所有不動産の名義人登記について住所変更の登記をしていなかったような場合でも、中間の住所変更登記を省略して、直接現在の住所に変更する登記ができるため、これまでは、例えば不動産を売却するために登記の名義を移転するときなどに、あわせて住所変更登記を1回すればよかったわけです。

 

ところが、今回の登記申請義務化により、今後は住所変更をする度に速やかに変更登記をしなければならないことになり(これを怠れば過料の制裁を受けるおそれがあるということになります)、法令を守ろうとすると事務負担的にも費用的にも負担が重くなる、ということになるように思われます。

 

掲載時点で施行まであと2年ありますので、皆さん、今のうちに住所変更登記を済ませておかれるとよいでしょう。 

相続登記の申請義務化は施行前の古い相続にも適用されます

 

 

昨年から、所有者不明土地への対策として、相続登記等が義務化されることについて、何度かご説明しております。

一般の方に影響が広く及ぶ相続登記申請義務化、住所等変更登記申請義務化については、令和6年4月1日施行からとなり、最も遅い施行となっています。

 

さて、この改正が施行される前の古い相続や過去の住所等の変更についても、改正施行後は変更登記をする義務が生じますので、注意が必要です。

このことを知らずに変更登記をしそびれて、過料の制裁をうけることになる人が一定数出てきてしまうのではないかと思われます。

(法務局も相続から3年、あるいは住所変更等から2年を経過していたからといって機械的に過料を課すような運用はしないとは思いますが。) 

 

掲載時点で改正の施行まであと2年以上ありますので、皆さん、今のうちに忘れずに相続登記、住所変更登記をすませておいてください!

 

相続手続きは、クーリエ法律事務所までどうぞ!

遺産分割と遺留分侵害額請求が併存する場合の具体例

 

以前、相続人間での遺産分割と遺留分侵害額請求が併存する場合があること、「遺言がないまま死亡し、遺産はある程度あるものの、生前贈与によって相続人の遺留分が侵害されているというような場合には、遺言書はなくても、遺産分割以外にも、生前贈与による遺留分侵害額請求が問題となる場合があること」についてご説明しました。

今回は、相続人間での遺産分割と遺留分侵害額請求が併存するケースを具体例で説明します。

 

 

相続人間での遺産分割と遺留分侵害額請求が併存する可能性があるケースとしては、1)遺言書があるケース(一部の相続人に対して、一部かつ多額の相続財産の遺贈がされた場合)、2)遺言書がないケース(一部の相続人に対して多額の生前贈与がされていた場合)があります。

 

今回は、2)のケースを、具体例でご説明します。

 

例)父X死亡 母Y、子ABCD4人が相続人

遺産:預金2000万円

死亡2年前に、Aに4000万円を贈与(特別受益)していた

遺言書はなし 〜 遺産分割は必要

 

1 相続分

・みなし相続財産:遺産2000万+特別受益4000万=6000万

 

・本来の相続分

Y:6000万×1/2=3000万

A〜D:6000万×1/2×1/4=各自750万 

 

・具体的相続分の額

通常の計算によれば、以下のとおりとなります。

Y:3000万

A:750万−特別受益4000万<0(マイナス) →0となる

B〜D:各自750万

 

もっとも、3000万+750万×3=5250万>遺産2000万となるため(遺産不足)、調整計算が必要になります。

 

Y: 遺産2000万×(3000万÷5250万)=11,428,571

A: 0

B〜D: 遺産2000万×(750万÷5250万)=各自2,857,143

 

合計:2000万

 

つまり、Aへの生前贈与(特別受益)があったため、Y、B~Dは遺産分割では、本来の相続分を取得することができない結果となるわけです。

 

2 遺留分の侵害

 

次に、生前贈与による遺留分侵害の有無、額について見てみましょう。

 

・遺留分

Y:6000万×1/2×1/2=1500万

B〜D:6000万×1/2×1/2×1/4=各自375万

 

・Aへの生前贈与による遺留分侵害額

Y:遺留分1500万−具体的相続分1142万8571=357万1429

B〜D:遺留分375万−具体的相続分285万7143=各自89万2857

 

 

●以上の計算を踏まえてご説明します。

 

Yでいえば、本来3000万円(最低1500万円)の遺産が取得できたはずですが、既に遺産は2000万円しかありません。

Yが本件で遺産の預金をいくらかでも取得するためには、Aら他の相続人との遺産分割協議が必要となります。

仮に相続人らが具体的相続分にしたがって遺産分割協議をしたとすると、Aは2000万円の預金の内1142万8571円を取得することになり、遺留分の1500万円にも満たないことになってしまいます。

 

したがって、Aへの生前贈与によってYには357万1429円の遺留分侵害が生じていることになり、相続人間の遺産分割協議に基づく預金1142万8571円の取得以外に、Aへの遺留分侵害額請求によって357万1429円をAから回収することで初めて、遺留分相当額1500万円の確保を図ることができるわけです。

 

このように、遺産分割と遺留分侵害額請求は併存することが時々あるわけですが、遺言があるときは遺留分侵害額請求の問題、遺言がないときは遺産分割の問題というように機械的に理解しているひとも多いので、注意が必要です。

 

※以上は、令和元年7月1日以降に発生した相続について記載しています。

 

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他の相続人の相続税申告書の内容を知ることはできるのか?

遺産分割などの事件を担当していると、依頼者から、遺産の内容を把握するために、他の相続人の相続税申告書の内容を知ることはできないの?と質問を受けることがときどきあります。

また、遺産の全容を把握できていない相続人の人が、相続税の申告をするに当たって、遺産の内容を把握している他の相続人の相続税申告書の内容を知りたい、という場面もあります。

 

(なお、共同相続人が同じ税理士に依頼して一通の相続税申告書で共同申告をしていれば、自然と遺産の内容が分かるでしょうから、ここでは別々に申告をしている(あるいは遺産を把握している相続人だけが申告をしている)ケースを前提とした話となります。)

 

 

たしかに、遺産を一手に管理している相続人の相続税申告書が見られれば、遺産の内容が分かって有用であることは確かなのですが、結論的には、今のところ難しい(できない)、ということになります。

 

 

・まず、相続税法において、共同相続人が他の相続人の相続税申告書について閲覧、謄写するような制度は設けられていません。

 

なお、相続税の申告や更正の請求をしようとする者は、他の相続人等が被相続人から受けた相続開始前3年以内の贈与又は相続時精算課税制度適用分の贈与に係る「贈与税の課税価格の合計額」について、開示を請求することが相続税法49条で認められています。

しかし、この制度では、他の相続人が受けた生前贈与(の一部)について金額が分かったとしても、被相続人の遺産の内容を把握することはできません(特別受益の関係では、この制度は利用価値があるとは思いますが)。

※国税庁「贈与税の申告内容の開示請求手続」

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2361.htm

 

 

・次に、裁判所の力を借りて、文書送付嘱託、文書提出命令といった制度で、税務署に他の相続人の相続税申告書を提出させることができないか?ということが考えられますが、これも残念ながら、今のところこれも難しいのが現実です。

 

実際、平成28526日付の福岡高裁宮崎支部の決定では、遺産分割調停事件の相手方が税務署長に対して提出した相続税申告書等を対象とする文書提出命令の申立てについて,当該文書は,その記載内容からみて,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの(民事訴訟法220条4号ロ)に該当するとして文書提出命令の申立てが却下されていますし、これ以前にも同様、類似の判断がされた裁判例もあります。

 

 

以上のとおり、今のところ、他の相続人の相続税申告書の内容を知ることは難しい、というのが結論になります。

参考になれば幸いです。

    

 

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相続放棄後の財産管理の改正について

今回は、所有者不明土地等の解消に向けた民法等の改正のうち、相続放棄関連の改正についてご説明します。

民法940条は以下のとおり、改正されます。

 

現行法:

第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 ↓

改正法:

第940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第925条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

 

まず、相続放棄者が財産管理の義務を負う終期について、今回の改正で具体化、明確化されています。

「放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」

「相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまで」

 

 

次に、今回の改正で、相続放棄者が財産保存の義務を負うのは、相続放棄の時点で現実に占有している相続財産であることが明確にされました。

 

 

改正前は、相続放棄者が放棄後も財産管理義務を負う相続財産の範囲・対象が不明確であったため、相続放棄をしても、自分が管理、占有していない相続財産も含めて、全ての相続財産について、相続人に引き渡しができるまでは、財産管理義務が続くと考えられており、この点が相続放棄を選択するうえでひとつの障害となることがありました。

 

例えば、相続人が全員相続放棄をして相続人が不存在となった場合、相続財産管理人が誰からも選任されず、結果的には相続放棄者にこの財産管理義務が半永久的に続く結果となるおそれがあり、しかも、相続財産に建物が含まれている場合には、相続放棄後も建物の朽廃により何らかの事故が起きたときに、相続放棄者が当該建物の管理者として責任を問われるのではないかとの懸念もあったわけです。

 

改正後も、民法918条1項では「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない」こととされているわけですが(この点は改正されていません)、今回の改正では、相続放棄の時点で現実に占有していない相続財産については財産保存義務を負わないこととなるため、相続放棄を考えている推定相続人にとっては(相続財産の管理義務は一応あるものの)相続財産を占有するのはできるだけ避けたほうがよい、という考え方が出てくるように思われます。

 

熟慮期間中はこの点に注意をしたうえで、相続放棄等について検討する必要がありそうです。

 

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所有者不明土地等の解消に向けた民法等の改正(1):遺産分割の制限

以前、以下のような記事を書いていました。

 

相続登記の義務化が予定されています

 

このときに民法の改正が検討されていることを書いておりましたが、本年(令和3年)4月21日に改正法が成立し、同月28日に公布されています。

施行日は公布後2年(一部3年ないし5年となっています)以内の政令で定める日となっており、具体的にはまだ未定です。

施行はまだ先となりますが、最終的に成立した法律の中身について、何点か注目点をご説明していきたいと思います。

 

 

まず、今回は、長期間経過後の遺産分割における制限について、ご説明します。

もともとは、遺産分割協議がされないまま死後一定期間が経過すると、法定相続分どおりに遺産分割がされたものとするといった案もありましたが、結局、成立した法律では、死後10年経過後は、裁判所では、原則的に法定相続分による遺産分割しかできない(=遺産分割の際に特別受益や寄与分の主張を原則認めない)、という内容になりました。

 

もっとも、裁判所外での遺産分割、つまり遺産分割協議では必ずしもこのとおりに分割する必要があるわけではないので、今後も特別受益や寄与分を考慮した遺産分割協議をすることが妨げられるわけではないでしょう。

 

また、上記の改正と同時に、死後10年経過後は、相続財産である共有持分についても、遺産分割ではなく、共有物分割の手続きによることもできる(相続人が一定の期間内に異議の申出をしなければ、ですが)、ように改正されています。

 

次回に続きます。

 

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徴収金の督促、国税の納税告知、督促も時効中断効があるのは初回のみなのか?

今回は、前回ご紹介した令和2年6月26日最高裁判所第二小法廷判決に関する影響、射程範囲についての考察です。

 

まず、今回の最高裁判決では明確にはなっていませんが、最高裁判決の判断の記載ぶりからすると、地方税の徴収金の納入又は納付の告知だけでなく、地方税の徴収金の「督促」についても時効中断効があるのは初回だけ、ということになってもおかしくないのではないかと思われました。

 

 

次に、今回の最高裁判決の考え方(前回の記事で確認してください。)からすれば、地方団体の徴収金だけでなく、国税についても同様に考えられるのか否かについても、少し考えてみました。

 

まず、地方税の徴収金と同じように、「納税の告知」が行われる国税(関税などの賦課課税方式の国税、源泉所得税など源泉徴収方式の国税などがこれに当たります。)については、国税通則法において、地方税法と同様ないし類似の仕組みが採られているため、前回の最高裁判決はこれらの国税の納税の告知(や督促)にも同様に当てはまり、納税の告知(や督促)についても時効中断効があるのは初回だけということになるのではないかとの推察もできるのではないでしょうか。

 

さらに、通常の所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税といった申告納税方式が採用されている国税については、どうでしょうか?

これらの国税については、納税の告知という方式は採用されていませんが、国税通則法において、徴収の仕組みについては地方税法と同様ないし類似の仕組みが採られているため、前回の最高裁判決はこれらの国税の督促にも同様に当てはまり、督促について時効中断効があるのは初回だけということになるのではないかという推察が成り立つ余地があるのではないでしょうか。

 

 

さて、今回の最高裁判決について非常に重要な点は、その理由付けからすれば、地方税の徴収金の納付又は納入の告知にとどまるような話ではなく、さまざまな税金の徴収(督促等)にまで同様の判断がされる可能性がありそうだ、という点だと思います。

今後、類似の事案の裁判を通じて、今回の最高裁判決の影響、射程範囲が明らかになってくるのではないかと思われます。

 

 

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自分が死んだら生命保険金がおりるって親が言っていたので保険を探したい場合

 

自分が死んだら生命保険金がおりるって親が言っていたのに、死後、生命保険の証券が見つからない、どこの保険会社の保険か分からない、というような方、いらっしゃいませんか。

 

そんな方には、今年(2021年・令和3年)の7月から開始した生命保険契約照会制度の利用がおすすめです。

 

死亡時、認知判断能力の低下時または災害時(死亡もしくは行方不明)に、生命保険の手がかりがない場合、生命保険協会が、所属する生命保険会社各社(現在42社)の生命保険契約の有無について回答してくれる制度です。

利用料は照会1件につき3000円(税込)です。

 

 公式ホームページはこちらになります。

https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/

 

実は従前は、弁護士であれば、弁護士会照会という制度を利用して弁護士会を通じて生命保険協会に照会をかけることで、各社の生命保険契約の有無について回答が得られていた時代が長く続いていましたが、今回の生命保険契約照会制度は一般の方でも利用できるものとなっております。

 

以下は、注意点になります。

 

・上記の「災害時」というのは、災害救助法が適用された地域において被災し、家屋等の流失または焼失等により生命保険契約に関する請求が困難な場合をいうので、かなり重大なものに限られることになりそうです。

 

・生命保険協会から回答が得られるのは各社の生命保険契約の有無のみですので、生命保険契約の存在が確認された場合には、直接その生命保険会社に連絡をする必要があります。

 

・生命保険協会は、照会を受け付けた日に有効に継続している個人保険契約の契約者および被保険者の名寄せをして調査を行います。

 

そのため、過去に存在した契約については回答が得られません。

 

また、支払いが開始した年金保険契約、保険金等が据え置きとなっている保険契約、財形保険契約及び財形年金保険契約も回答の対象から除かれます。

 

今後、広く利用されることになるのではないかと思いますので、生命保険契約照会制度についてご紹介しました。

 

参考になれば幸いです。

 

遺言書がないのに遺留分侵害額請求をすることってあるの?

 

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遺留分を侵害する遺言があったとき、侵害された者は遺留分侵害額請求ができることは、ご存じの方も多いでしょう。

ですが、遺言がない場合には、遺留分侵害の問題ではないのでしょうか?

また、遺言がない場合には、全て遺産分割で処理すればよいのでしょうか?

 

答えは、必ずしもそういうわけではありません。

昔からこういった誤解が散見されるのも事実です。

 

遺留分の侵害が問題となるのは、遺言による場合だけでなく、生前贈与による場合もあります。

ここでいう生前贈与には、以下のものが含まれます。

 

・相続開始前1年間にされた生前贈与

 

・相続人に対する生前贈与のうち特別受益に該当するものについては、相続開始前10年間にされたもの

 

・贈与者(被相続人)と受贈者の双方が遺留分を侵害する認識を持っていた場合の生前贈与(期間に制限なく、古い贈与でも含まれることになります)

 

したがって、遺言がないまま死亡し、遺産はある程度あるものの生前贈与によって相続人の遺留分が侵害されているというような場合には、遺言書がなくても(遺贈がなくても)、遺産分割以外にも、生前贈与による遺留分侵害額請求が問題となることになります。

 

なお、遺留分侵害額は、実際にどのように遺産分割をするかには関係なく、また遺産分割協議が成立する前か後かにも関係なく計算されます。

 

遺留分侵害額やその請求は、基本的に遺産分割の影響を受けないということになります。

 

他方で、こういった場合に、遺留分を侵害された相続人が(遺産分割をせずに)遺留分侵害額請求をするだけで解決することもできません。

 

そもそも、たとえば、遺産となる預金について、相続人が実際に金融機関に申し出てこれを取得するためには、(遺留分侵害額請求とは別に)遺産分割協議をすることが必要となりますし、上記のとおり、遺留分侵害額は、実際の遺産分割協議がなされたか、どのような遺産分割協議がなされたかに関わらず一定額になるように算定されることになっており、また遺留分侵害額の計算上具体的相続分の額は控除されてしまいますので、遺留分を侵害された相続人が具体的相続分の額を実際に取得するためには別途遺産分割による必要があり、遺留分侵害額請求だけをすればよいということにもならないからです。

 

結局、こういった場合には、遺留分権利者である相続人は、遺産分割で具体的相続分を確保するとともに、遺留分侵害額請求で遺留分の額を確保することによって、はじめて遺留分相当額を得ることができるのです。

 

もちろん、遺留分を侵害することになった遺贈や生前贈与を受けた者が第三者ではなく、相続人であり、遺産分割協議の当事者なのであれば、これらの問題を一緒に(あるいは遺産分割に含めて)解決することはできるでしょう。

 

基本的に、遺産の額よりも特別受益の額が大分高いような場合には、このような問題が生じる可能性が高いと考えておけばよいかと思います。

 

※以上は、令和元年7月1日以降に発生した相続について、記載しています。

 

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遺産分割後の遺留分侵害額請求の可否について

 

前回、遺留分侵害額は、実際にどのように遺産分割をするかには関係なく、また遺産分割協議が成立する前か後かにも関係なく計算されることになり、遺留分侵害額請求は、基本的に遺産分割の影響を受けないことについて、説明しました。

 

もっとも、共同相続人が遺産分割協議を成立させた場合、その後に改めて遺留分侵害額請求をすることはそもそも認められるのか?という点に疑問を持たれる方がおられると思いますので、今回はこの点について書きます。

 

この点についてインターネット上で検索してみると、否定的な意見も見られるかと思います。

 

たしかに、相続人らが、取得額が遺留分以下となる相続人が、一部の相続人に対する多額の生前贈与(特別受益)があることを認識しつつ(※特別受益を持ち戻して具体的相続分を算定したうえで遺産分割協議を成立させたようなときには、その認識があったと考えられるかもしれません。)、遺産分割とは別に遺留分侵害額の請求をすることもなかった場合には、他の相続人の立場からするとこれで相続に関する一切の紛争、協議は全て終了したという認識、期待を持つことでしょう(遺産分割の内容によると思われますが。)。

 

この点、遺産分割協議書などに、相続人間に(相続に関して)一切の債権債務がないことや、相続・遺産に関する紛争が全て終了したことを確認する「清算条項」が入っているようなケースでは、当然、その後の遺留分侵害額請求もできなくなっていると考えるべきでしょう。

(また、相続人間にこれで相続・遺産に関する紛争が全て終了したものとするという暗黙の合意が成立したと認定できるケースも同様でしょう。立証の問題はありますが。)

 

もっとも、これらのケースに該当しないのであれば、遺産分割後の遺留分侵害額請求を否定的に考える法律上の根拠は見当たらないでしょう。

 

したがって、遺産分割の際に遺留分侵害額請求権を放棄したといえるような事情(清算条項はその最たるものでしょう)がないのであれば、遺留分侵害請求は遺産分割後でも可能、と考えざるを得ないでしょう。

 

とはいうものの、遺留分を侵害されている相続人が、遺留分侵害額請求の意図を明確にしないまま、遺産分割協議だけを先行して成立させることについては、新たな紛争の元となるおそれがあり、できるだけ避けた方がよいと思いますので、皆さん、この点には気をつけてください!

 

※以上は、令和元年7月1日以降に発生した相続について、記載しています。

 

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遺留分侵害額の計算上、具体的相続分が差し引かれます

 

令和元年の民法相続法制の改正により、遺留分減殺請求権は遺留分侵害額請求権という金銭請求権に変わり、遺留分算定の基礎財産に含まれる相続人の特別受益財産について相続開始前10年間にされたものに限られることになった、というのはもう皆さんもご承知のところかもしれません。

 

しかし、遺留分侵害額の計算については、他にも重要な点が改正、明確化されています。

 

改正後の条文である民法1046条を見てみましょう。

 

(遺留分侵害額の請求) 

第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 

さて、この2項二号には「・・・により相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」とありますね。

これは具体的相続分といわれるもので、法定相続分をもとに、特別受益を考慮したうえで各相続人が具体的に取得すべき相続分、を意味します(具体的相続分は寄与分も考慮した相続分を意味することがありますが、条文上ここでは寄与分については考慮されないことになっています。)。

 

したがって、遺留分を侵害されている額を計算するときに、その相続人の具体的相続分は差し引いて計算されることとなります(今回の改正により明確化されています)。

 

また、遺留分侵害額の計算上、「相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」が控除されるのであって、「遺産分割によって遺留分権利者が取得した遺産の価額」が控除されるわけではありません。

遺産分割をまだしていない場合や遺産分割によって何も取得していない場合には何も控除されない、というわけでもありません。

 

つまり、遺留分侵害額は、実際にどのように遺産分割をするかには関係なく、また遺産分割協議が成立する前か後かにも関係なく計算されることになります。

 

遺留分侵害額やその請求は、基本的に遺産分割の影響を受けないということになります。

 

ただし、注意点もあります。

この点は、次回にご説明します。

 

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相続放棄の効力を後から争うことができるのかどうかについて

 

前回からの流れで、相続放棄の効力を後から争うことができるのかどうかについて説明します。 

 

この点については、相続の放棄に法律上無効原因がある場合には、後日訴訟においてこれを主張することは妨げられないとの判断をした最高裁判例(昭和29年12月24日)があり、争うことができるという結論になります。

 

したがって、相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されたとしても、それで完全に安心できる(相続放棄が絶対的に有効となる)わけではないということになります。

 

そもそも、相続放棄の申請に対して家庭裁判所では申述を受理する旨の審判をしますが、この審判は申述がなされたという事実を公証しているにすぎず、家庭裁判所ではあまり厳格な要件の審査はできないため、厳密にいえば相続放棄の要件を満たしていないのに受理されてしまっている場合もありますし、相続放棄の申述は有効に受理されたものの、その後の行為が原因で相続放棄が無効となっている場合もあり得ます。

 

 

次に、第三者が相続放棄の効力を争うための手続きについて、ご説明します。

まず、相続放棄の申述が受理されたことについて、第三者が相続放棄の申述を受理した家庭裁判所に対して直接、不服申立て(抗告)をすることはできません。

 

ではどうするかというと、たとえば、被相続人に対してお金を貸していた債権者は、相続放棄の申述をした者に対して、(相続放棄は法律上無効であることを前提に)貸付金の返還義務を相続しているとして、貸金返還請求訴訟を起こすことになります。

 

この場合、この裁判の中で相続放棄の有効性について争われることになり、裁判官が最終的に有効性を判断することになります。

 

それでは最後に、相続の放棄に法律上無効原因がある場合というのはどのような場合かという点について、ご説明します。

まずは、前回にふれた法定単純承認の事由がある場合です。

 

相続放棄の申述は家庭裁判所で受理されているものの、実際には申述者が相続放棄「前」に相続財産を「処分」していた場合(民法第921条1号。家庭裁判所が当該事実を把握していなかった場合)とか、相続放棄の申述が受理された「後」であっても(受理される前はもちろんのこと)、相続財産を「隠匿」し、あるいは「自分のために消費」していたような場合(民法第921条1号)には、相続を承認したものとみなされ、相続放棄について法律上の無効原因があると主張することができます。

 

その他にも、相続放棄が熟慮期間内になされていないとか、真意でなされたものではなかったという場合にも、相続放棄について法律上無効となる場合があり得ます。

 

以上、相続放棄について後から効力を争うことができるのかどうかなどについて、ご説明しました。

お分かり頂けたでしょうか?

 

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相続預金からの出金が法定単純承認事由に該当するとして国税が相続放棄の効力を争った事案の裁決の紹介

 

今回は、相続預金からの出金が法定単純承認事由に該当するとして国税が相続放棄の効力を争った事案についての国税不服審判所の令和2年3月17日付裁決をご紹介します。

 

この件は、国税(原処分庁)が、滞納会社の納税保証人が死亡したことから、その配偶者である審査請求人(以下「請求人」という。)が納税保証人の納税義務を承継したとして、請求人名義の不動産を差し押さえたのに対し、請求人が、相続放棄を行ったから納付義務は承継していないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案です。

 

この件で、国側は、

①被相続人名義の預金口座に振り込まれた金員(以下「本件金員」という。)は、被相続人が受け取るべき顧問料を原資としており、被相続人の相続財産に該当し、請求人が本件金員を出金し、生活費として自己の財産に組み入れた行為は、管理行為と考えられる限度を超えている

②請求人が本件金員を振込者に送金して返納した行為は相続放棄者の相続財産の管理義務に反して行われたものであり、相続財産の処分に該当する

などと主張しました。

 

審判所は、

①請求人が口座から出金した本件金員相当額の現金を、相続放棄の申述が受理されるまでに一部でも費消したという事実が認められない限り、相続財産の経済的価値を減少させる行為があったとは言い難いことから、請求人が口座から現金を出金したことのみでは、相続財産の処分に該当する事実があったとはいえない

②民法第921条第1号は、相続の承認も放棄も行っていない相続人が相続財産を処分した場合のみに関する規定であり、相続人がいったん有効に相続放棄を行った後で相続財産を処分した場合に適用される規定ではないと解されている、請求人は相続放棄の申述が有効となった平成〇年〇月〇日より後の同月27日に本件金員相当額をKに送金しており、仮に当該送金が本件金員の返金であり「相続財産の処分」に該当する行為であるとしても、相続放棄の申述が有効となった日より後の行為であるから、この行為に民法第921条第1号を適用することはできない

 

との判断をして請求人の主張を認め、法定単純承認事由に該当する事実は認められないから、請求人の相続放棄の申述は有効であり、請求人は初めから相続人とならなかったものとみなされ、本件滞納国税の納付義務を承継しない、としました。

 

民法第921条第1号〜第3号の法定単純承認事由(※末尾に条文を掲載しておきました。)があると、相続人は単純承認をしたものとみなされ、相続放棄や限定承認ができないことになります。

この限定承認に関し、審判所は上記②のとおり、相続財産の処分に関する民法第921条第1号は相続の承認も放棄も行っていない相続人が相続財産を処分した場合のみに関する規定であると判断しておりますが、この点は従来からの通説・判例どおりの判断であり、特別な判断をしたものではありません。

 

次回は、この裁決とも関連する点、裁決の前提となっている点(相続放棄の効力を後から争うことができるのか否かなど)について、ご説明します。

 

※参考

民法第921条(法定単純承認) 

第九百二十一条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。 

 

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自筆遺言書の日付を誤っても遺言が直ちに無効とならないとした最高裁判例の紹介

今回は、自筆遺言証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって同証書による遺言が無効となるものではないとした最高裁令和3年1月18日判決のご紹介です。

 

名古屋高裁では概ね、以下のような判断がされており、無効とされていました。

『自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず、本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであった。〔略〕よって、本件遺言は、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから無効である。』

 

これに対して、最高裁は、以下のような判断しました。

 

『自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されるところ(最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決)、前記事実関係の下においては、本件遺言が成立した日は、押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり、本件遺言書には、同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず、これと相違する日付が記載されていることになる。』

 

『しかしながら、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、 日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。』

 

『したがって、Aが、入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し、退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。』

 

『本件遺言のその余の無効事由について更に審理を尽くさせるために、これを原審に差し戻すのが相当である。』

 

※なお、今回の最高裁判決で引用されている最高裁昭和52年4月19日判決は、日付以外の部分を記載し署名押印した日の8日後にその日付を記載した自筆遺言証書の効力について、以下のような判断をしたものです。

『民法九六八条によれば、自筆証書によって遺言をするには、遺言者がその全文、日附及び氏名を自書し印をおさなければならず、右の日附の記載は遺言の成立の時期を明確にするために必要とされるのであるから、真実遺言が成立した日の日附を記載しなければならないことはいうまでもない。しかし、遺言者が遺言書のうち日附以外の部分を記載し署名して印をおし、その八日後に当日の日附を記載して遺言書を完成させることは、法の禁ずるところではなく、前記法条の立法趣旨に照らすと、右遺言書は、特段の事情のない限り、右日附が記載された日に成立した遺言として適式なものと解するのが、相当である。』

 

 

実務上、今回の最高裁判決は重要な判例となります。

もっとも、最高裁はどんな日付でもよいといっているわけではないことに注意が必要です。

 

今回の最高裁判決は、この件で遺言書に記載された日付は遺言者が遺言の全文を自書し、自署した日の日付であることや、入退院といった事情なども踏まえて、本件の事実関係の下では、例外的に無効とならないと判断した事例判決であると考えられ、広く一般化することはできませんので、この点誤解のないようにしてください。

 

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所有者不明土地に対する国の対策

 

前回、所有者不明土地について、色々な法的対策が実施されてきたことについてふれていました。

今回はその点について書きます。

 

1.平成30年6月6日に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が成立しています。

http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000022.html

 

この特別措置法では、登記官が、所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地について、登記簿、住民票、戸籍などの公的書類を調査し、亡くなった方の法定相続人等を探索したうえで、職権で、長期間相続登記未了である旨等を登記し、法定相続人等に登記手続を直接促すことなどの不動産登記法の特例が設けられました。

 

行政機関においても、土地の所有者の探索のために必要な公的情報 (固定資産課税台帳、地籍調査票等)を利用できることとなっています。

 

また、所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長等が家庭裁判所に対し財産管理人の選任等を請求することができるようになっています。

 

実際、この法律により、法務局から以下のような「長期間相続登記がされていないことの通知(お知らせ)」が届いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この通知の内容についてはこちらのQ&Aをごらんください。

http://houmukyoku.moj.go.jp/osaka/tyoukisouzokutoukimiryoutuuti.html

 

 

2.次に、一定期間に限られていますが、相続登記の登録免許税の免税措置がもうけられています。

http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html

 

まず、個人が相続(相続人に対する遺贈も含みます。)により土地の所有権を取得した場合において,当該個人が相続登記をする前に死亡したときは、平成30年4月1日から令和3年(2021年)3月31日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さないこととされていました。

 

要するに、たとえば、AからBに相続され、BからCへと所有権が移転したが、登記がAの名義のままとなっている土地について、Cが自分の名義に変更する際、AからBの相続登記については登録免許税が免除されることになります。

 

また、法務大臣が指定する市街化区域外の土地のうち、不動産の価額が10万円以下の土地について、平成30年11月15日から令和3年3月31日までの間に、相続による所有権移転登記を受ける場合には,登録免許税が課されないこととされていました。

 

 

3.その他、令和元年5月17日、「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」が成立しています。

http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000027.html

 

これは一般の方にはあまり直接は関係がないかと思いますが、不動産登記の表題部の所有者欄が正しく記載されていないものについて、登記官に所有者の探索のために必要となる調査権限を付与することや、探索結果を登記に反映させることについて、不動産登記法の特例がつくられたり、また、探索の結果、所有者を特定できない土地について、裁判所の選任した管理者による管理を可能とする制度が作られています。 

 

このように見てくると、所有者不明土地の問題がいかに重大で、国がその対策について本気で取り組んでいるかがよく分かりますね。

 

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相続登記の義務化が予定されています

今、日本では所有者が不明な土地が著しく増えて、有効に利用されていないという問題が深刻になっています。

これまでにも色々な法的対策が実施されてきました。

 

登記簿から所有者が直ちに判明しない、あるいは判明しても連絡がつかない「所有者不明土地」が増加している理由として、人口の減少による土地需要の縮小、都市部への人口集中などを背景に、相続した土地が利用価値もなく、売却も見込めないといった事情で、相続登記もせずに放置されるケースが多いことが指摘されています。

たとえば、田舎の山林などを想定すれば、容易にお分かりいただけるでしょう。

 

そこで、今回はいよいよ相続登記を義務化するという重要な対策が取られる見込みとなりました。

 

報道によれば、最近法制審議会でまとめられた民法や不動産登記法の改正要綱案では、土地の相続登記を義務付け、相続不動産の取得を知ってから3年以内に相続による所有権移転登記しなければ10万円以下の過料を科すこととされたようです。

これまで、相続登記は義務ではなかったのですが、相続登記を適時に行わない例が多く、所有者不明土地の増加要因にもなっていたため、今回義務化されることとなったわけです。

 

もっとも、相続登記が簡単にできるように手続きも簡略化される予定です。

 

あわせて、不動産の名義人の住所や氏名の変更があったときにも2年以内に変更登記の申請をする義務を課し、過料の制裁の対象とすることや(一般に広く影響が出る改正となります。)、一定の場合(更地である、担保に入っていない、土壌汚染がないなど)には相続した土地の所有権を手放し、国庫に帰属させることができる制度(費用負担や法務大臣の承認が必要なようですが)の導入もされる予定となっております。

 

 さらには、なんと、これまで時効がないとされていた遺産分割協議について、遺産分割協議がされないまま死後10年が経過すると、法定相続分どおりに分割されたものとされることになる予定となっています。

 

もし成立すれば重要な改正となることは明白で、本年中にも改正法が成立するかもしれませんので、要注目です。

生活保護受給者が相続に関係する場合に注意すべき点

生活保護を受けている人が相続に関係する場合に注意すべき点について、ご説明します。

 

(1)生活保護を受けている推定相続人は相続放棄や遺産分割が自由にできないときがある!?

 

相続を承認するのか、放棄をするか否かは、本来は推定相続人の自由です。

ただ、相続財産がプラスになる場合で、相続人が生活保護を受けている場合に、その相続人が相続放棄を選択すると、生活保護の受給資格を失う、返金を求められる、受給が停止されてしまうといった思わぬ結果を招いてしまうことがあるので、要注意です。

 

生活保護はあくまで十分な収入、財産がないひとの最低限度の生活を保障するために設けられている補助的な位置づけの制度ですので、相続できる財産があるのにこれを放棄して生活保護を受給することは許されないためです。

 

プラスの相続財産とマイナスの相続財産(負債)を合計して明らかにマイナスとなるようなときは、相続放棄をしても、生活保護に影響が出るようなことはあまりないでしょう。

 

何にしても、生活保護を受けている方が相続放棄をしたいと考えている方は予めケースワーカー、福祉担当者と相談しておかれるとよいでしょう。

 

 

 

(2)生活保護を受けている推定相続人は相続放棄や遺産分割が自由にできないときがある!?

 

前回お話ししたように生活保護を受けている推定相続人が、相続放棄をすることに問題があるのだとすると、遺産分割についても問題が生じる場合があるように思われます。

 

推定相続人の取得額が法定相続分を下回るような遺産分割をすることについても、やはり生活保護の受給資格を失う、返金を求められる、受給が停止されてしまうといった問題が起きかねないということになるでしょう。

 

遺産分割協議に参加しつつ、何も財産を取得せず、実質的に相続放棄をすることについては、当然大きな問題となりえます。

 

また、相続財産が多額で、生活保護者の取得額が法定相続分を大きく下回る場合にも、生活保護との関係で問題となる可能性が高まるでしょう。

 

他の相続人もこの点を分かっておく必要があるでしょう。

むしろ、逆の発想で、生活保護の受給が止まることを恐れたり、費消をおそれて、生活保護者には何も取得させないといった遺産分割をしがちですので、注意が必要です。

 

なお、相続によって取得した財産があるのに、それを秘密にしたまま、生活保護を受給するようなことは、刑事事件にもなりかねませんので、絶対にやめましょう。

 

 

(3)生活保護を受けている推定相続人に遺留分以下しか相続させない遺言をする場合に注意すべき点

まず、推定相続人の中に生活保護者がいるときに、遺言で生活保護者以外の相続人に相続財産を全て相続させるようなことはできるでしょうか?

 

たとえば、生活保護者が、遺言者の兄弟姉妹のように、遺留分を有しない推定相続人なのであれば、遺言で生活保護者以外の方に相続財産を全て相続させても、生活保護との関係では問題は生じないでしょう。

 

他方で、生活保護者が遺言者の配偶者、子供(孫)、親(祖父母)などで、遺留分(民法上最低限保証されている取り分)を持つ相続人に該当する場合には、遺言があったために相続によって遺留分を取得することができなかったのであれば、他の相続人等に対して遺留分侵害額請求権という金銭の請求権を取得することになります。

 

遺留分侵害額請求権も財産ですから、生活保護者である相続人がこれを行使せずにいる、あるいは放棄することもまた、やはり生活保護との関係で問題となる場合があるでしょう(福祉担当者、役所がそのことを知れば)。

 

そのため、生活保護との関係では、原則として生活保護者は相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使せざるを得ないという考え方になりそうです。

 

遺言をするに当たって、浪費などがたたって生活保護に至っているような相続人には相続をさせないといった判断をすることもあるかと思いますが、後に生活保護者から遺留分侵害請求がなされる可能性が高いことにご注意ください。

 

 

 

次に、別のケースで、故人の推定相続人ではない生活保護者に対してプラスとなる財産を遺贈する内容の遺言をした場合に、生活保護者が遺贈を放棄することはできるでしょうか?

 

この点につきましてても、これまでご説明したところからお分かりかと思いますが、やはり生活保護との関係で問題が起こり得る場合があり(福祉担当者、役所がそのことを知れば)、基本的には遺贈を放棄できないという考え方になりそうです。  

 

 

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身内が家の修理費用を負担した場合でも贈与とみなされるかも

 

本日は、税務署から思わぬ贈与税の課税がされてしまった事例に関する国税不服審判所の平成29年5月24日付裁決をご紹介します。

 

本件は、審査請求人(以下「請求人」)の母親が請求人所有の建物の改修工事をしたことによって、請求人が当該改修工事部分の所有権の贈与によって経済的利益を取得したものとみなされる(相続税法第9条)として、税務署から贈与税の決定処分等を受けたため、請求人が改修工事は日常生活に支障が出ていた部分の修理を行ったにすぎないから、経済的利益を受けていないし、仮に利益があったとしても、扶養義務者相互間の生活費に充てるためにした贈与であって、通常必要と認められるものに当たるなどとして、当該処分の取消しを求めて争った事案です。

 

裁決の詳細は省きますが、国税不服審判所は、概ね以下のような判断をしました。

 

・本件改修工事のうち・・・工事部分については、その工事内容等に照らせば、本件居宅から容易に取り外せず、本件居宅の構成部分となっているもの、又は社会通念上本件居宅の一部分と認められるべきものであって、取引上の独立性を有しないといえるから、本件居宅への付合が成立する(以下、本件改修工事のうち、本件除外部分を除いた工事部分を「本件付合部分」という。)。

・本件付合部分については、本件居宅の所有者である請求人がその所有権を取得し、本件付合部分の工事費用を負担した母は、請求人に対し、民法第248条に基づき、付合により生じた損失に相当する費用について償還請求することができる。

・しかしながら、実際には、母が請求人に対し損失に相当する費用の負担を求めたことはなく、請求人が母に対し当該費用に関して何らかの支払をしたこともないこと、請求人が母と本件改修工事に係る費用相当額について金銭消費貸借契約を締結したり、母が請求人に当該契約に係る金銭の返還を請求したこともないことが認められる。

・これらの事実に加えて・・・の事実を併せ考慮すれば、母には、請求人に対する費用償還請求権を行使する意思はおよそなく、当該権利を放棄していたと認められ(現に、請求人

が提出した母に係る相続税の申告書においても、当該権利の記載はない。)、結局、請求人は付合による所有権取得に見合う債務を何ら負担していないということができる。

・したがって、本件付合部分については、請求人は、付合が成立した時点で、母から相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで‥利益を受けた」といえる。

 

 

さて、この裁決については、建物に付合された工事部分の費用について建物所有者が負担しておらず、請求すら受けていなければ、贈与とみなされるという結論や理由付け自体は、税理士や弁護士の観点上おかしいとは思いません。

(むしろ、工事された部分が取り外し可能であって建物に付合していない限り、贈与とみなされる余地はないのか??ということの方が気になったくらいです。)

 

何よりも、身内、特に親子の間では、家の修理費用を負担してあげるというようなことは、世間ではよく見られることであり、税務署に知れてしまえば本件のように課税されてしまうおそれがある、ということで、注意の意味もかねて今回の裁決をご紹介しました。

参考になれば幸いです。

 

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10年以上前の特別受益でも持戻しの対象です

 

本日は令和元年の民法の相続法制改正に伴って生じた誤解についてお話しします。

 

今回の民法改正では、遺留分の額を計算する際に含まれる贈与財産の範囲について変更がありました。

遺留分の額は、 「遺留分を算定するための財産」 に具体的遺留分を掛けて計算するのですが、「遺留分を算定するための財産」について、以下のとおり算定されます。

「遺留分を算定するための財産」=相続時に有していた財産+贈与財産(※)-債務

 

ここで、相続人に対する贈与(特別受益に限る)については、もともと期間の制限なく、古い贈与財産であっても上記の贈与財産に含まれることになっていましたが、令和元年7月1日に施行される民法改正により、同日以降に発生する相続においては、以下のとおり、原則として相続開始前の10年間にされたものに限られることとなったのです。

 

【現行の民法1044条】

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。〔略〕

2〔略〕

3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

 

 

さて、相続人の特別受益の額について相続財産の額に足し戻して計算をするのは、遺留分侵害額の計算のときだけでなく、相続人の具体的な相続分(それぞれの相続人の本来の遺産の取り分のことです)の計算のときも同様です。

 

もっとも、今回の改正で、特別受益の足し戻しの対象となる贈与を相続開始前10年間にされたものに限ることとされたのは、遺留分の計算のときだけであって、具体的相続分の計算のときについては、改正がされておらず、従来どおり特別受益について期間の制限はありません。

 

【現行の民法903条1項】

(特別受益者の相続分) 

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

現行の民法903条1項では、上記のとおり「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし・・・」とあり、加えられる贈与について、時期の制限はありません。

 

このように、令和元年の相続法制改正によって、具体的相続分の計算の際の持戻しの対象となる相続人の特別受益が、相続開始前10年間にされた贈与に限られたわけではないのですが、この点を誤解している人がおられます。

 

※具体的相続分の額は、従前どおり、10年以上前の生前贈与であっても特別受益として相続財産に持ち戻して算定し、それぞれの以下のような計算をすることになります(上記の民法903条1項のとおりです)。

(相続財産の額+特別受益の額)×法定相続分=具体的相続分

※特別受益を受けた相続人については、ここからその分を控除して計算します。

 

ややこしい話ですが、似たような場面の片方についてのみ改正がされてしまったため、このような誤解が生じるようになってしまったのでしょう。

皆さんは誤解しておられませんでしたか?

 

 

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法務局の自筆証書遺言の保管制度の利用を考えておられる方へ

法務局での自筆証書遺言の保管制度が本年7月10日より開始しています。

実際に利用された方はどのくらいおられるのか、気になるところです。

 

さて、これから利用しようとしている方、利用するか考えている方は、法務省の以下のホームページに関連事項がまとまっていますので、目を通してみられるとよいでしょう。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

 

なお、こちらのページに記載されているように、遺言書保管については全ての手続きが予約制となっているので、管轄の法務局(住所地、本籍地または所有不動産の所在地を管轄する法務局)にまずは予約を入れましょう。

予約の方法もこちらのページに記載されています。

こちらの予約専用のHPから予約することも可能です。

https://www.legal-ab.moj.go.jp/houmu.home-t/top/portal_initDisplay.action

 

 

参考になれば幸いです。

 

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民法改正前に作成した遺言書に改正でどのような影響が出るのか

民法改正前に既に遺言書が作成されていた場合に、民法改正によってその遺言書、特に遺留分についてどのような影響が発生するのかについて、書きます。

前回同様、遺留分減殺等の請求をする者を権利者とし、減殺請求等を受けた相手方を義務者とします。

 

まず、改正民法は、経過措置として、改正の施行後に開始した相続について適用され、改正の施行前に開始した相続については,旧法が適用されるのを原則としております。

 

遺留分に関しては、その点について例外的な定めが規定されておりませんので、この原則どおりということになります。

つまり、改正民法の施行後であっても、民法改正の施行前に相続が開始した場合(施行前に死亡した場合)については、改正後の新法の「遺留分侵害額請求」の規定ではなく、改正前の旧法の「遺留分減殺請求」の規定が適用されます。

 

逆に、改正の施行後に相続が開始した場合(施行後に死亡した場合)については、民法改正前に遺言書を作成していた場合であっても、改正前の旧法の「遺留分減殺請求」の規定ではなく、改正後の新法の「遺留分侵害額請求」の規定が適用されます。

 

さて、そうすると、改正後の新法の適用を予定せずに、旧法の適用(遺留分減殺請求制度)を前提に遺言書を作成していた場合に、作成し直すこともないまま民法改正後に死亡した場合には、遺言者は意図せずに、改正法に基づいて遺留分侵害額請求の制度が適用されることとなります。

 

たとえば、遺言者がある相続人の遺留分を侵害する内容の遺言書を作成し、義務者が権利者から遺留分減殺請求権を行使されても、義務者は価額賠償を選択せず、相続財産を共有または返還する結果となること(そうなったとしてもやむを得ない、あるいは当面は構わないとの判断)を前提として、その分の買取資金を義務者に準備していなかったような場合には、遺言者としても、今回の改正で予定が狂う結果となります。

 

義務者は、遺贈された相続財産の現物の一部を権利者に持ってもらうという選択ができず、金銭で権利者に支払いをしなければならず、しかも支払いができなければ相続した財産はもちろん、もとから持っていた固有財産についてまで、強制執行を受けるおそれが生じてしまうことになるからです。

 

その他にも、旧民法1034条但書に基づいて、遺言書に遺贈の減殺方法(順序)について遺言書に定めを置いていたが、改正後に亡くなったという場合に、この定めはどうなるのか、どのように解釈するのかについて、まだ必ずしも明確な答えが定まっていないところがあるようです(詳細は省略させて頂きます。)。

 

このように、民法改正前に作った遺言書については、改正により思わぬ影響を受けたり、あるいはどのような影響を受けるかが必ずしも明確ではない点がありますし、民法改正で配偶者居住権の遺贈などができるようになっていることなどからすると、民法改正前に作成した遺言書については、一度見直してみてはいかがかと思います。

 

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民法改正で遺留分減殺請求が遺留分侵害額請求になって生じている影響

さて、今回の民法改正により、改正前の「遺留分減殺請求」は、「遺留分侵害額請求」に変わりました。

どう変わったのか、その実務上の影響について、ご説明します。

 

遺留分減殺請求権は、行使をすると、遺留分を侵害する遺贈等が遺留分を侵害している限度で効力が失われるものでした(その部分の所有権等は遺留分減殺請求者に復帰することになります)。

 

そのため、減殺請求を受けた相手方(以下「義務者」とします。)は侵害額に相当する相続財産または贈与財産の現物を、遺留分減殺請求をした者(以下「権利者」とします。)に返還する義務を負ったり、侵害額に対応する割合で権利者と義務者との共有状態となっていました。

 

他方で、義務者は対象物件の全部または一部について金銭での弁償を選択することもできました。義務者としては、遺産の現物の返還か、あるいは金銭賠償かを、遺贈等ごとに個別に選択できていたのです。 

 

なお、金銭での弁償がされず、対象物件について権利者と義務者との共有状態が残った場合に、これを解消するためには別途、持分の売却・買取りの交渉や、共有物分割請求の調停・訴訟(場合によっては遺産分割の調停等)などを検討、実行することが必要でした。 

 

令和元年7月1日に施行された民法改正によりこの点は大きく変わりました。

「遺留分侵害額請求」と改められ、権利者が義務者に対して侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利となりました。

 

これにより、遺留分侵害額請求をしても、義務者が相続財産または贈与財産の現物を返還する義務を負ったり、侵害額に対応する割合で権利者と義務者が共有するようなことは発生しなくなりました。

 

そのため、価額弁償という制度もなくなりました。

 

今回の改正でシンプルな制度になったのは確かです。

 

また、たとえば、同族会社の株式について遺言書で会社の後継者となる相続人にすべて相続させようとしても、遺留分を有する他の相続人に遺留分減殺請求権を行使され、一定割合については当然に株式現物を取得されてしまうという心配が今回の改正でなくなったため、事業承継という観点では、基本的にはありがたい改正となっています。

 

※もっとも、義務者が遺留分侵害額侵害額の支払いができなかった場合には、結局、権利者からその支払いを求める訴訟を起こされ、判決等に基づいて遺留分侵害の原因となった贈与・遺贈財産(上の例でいえば同族会社の株式です)のみならず、もとから有している固有財産に対しても、強制執行を受けるおそれがありますので、遺留分侵害額を支払えるよう金銭面で事前に対策をしておくことが一層重要だと考えられます。

 

他方で、たとえば同族会社の株式など遺産の現物をどうしても取得したかった権利者や、遺産の現物の返還か金銭賠償かを常に(しかも遺贈等ごとに個別に)選択できていた義務者の立場からすれば、今回の改正は不利益なものということになってもおかしくありません。

 

特に、義務者が金銭での支払が難しい(価額賠償ができない)ケースで、改正前は、当面権利者と義務者との共有等になったとしても不利益はそこまで大きくないという場合には、価額賠償を選択せず、あえて権利者に現物を持ってもらうという選択を取る余地があったのに、改正後はあくまで金銭を支払う義務を負い、しかも支払いができなければ元から持っていた固有財産まで強制執行を受けるおそれが生じてしまうという点で、不利益が大きいと感じる方もいらっしゃるでしょう。

 

このように、今回の改正は実務上大きな影響を与えるものだといえます。

 

さて、その関係で、既に民法改正前に遺言がなされていた場合に、改正によって(遺留分について)どのような影響が発生するのか、気になっている方もおられることでしょう。

 

この点について、次回以降にご説明をしていきます。

 

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相続法制の改正〜配偶者居住権等を定めた民法改正がもうすぐです

もうすぐ配偶者居住権等の民法改正が施行されます。

 

これを機会に、民法の相続法の改正の施行状況を押さえておきましょう。

 

1.まずは、民法の相続法の改正の施行日の確認をしておきましょう。

原則的な施行日は、令和元年(2019年)7月1日となっており(自筆証書遺言の方式を緩和する方策については、2019年1月13日)、既に昨年中に施行されています。

 

他方で、配偶者居住権・配偶者短期居住権については今年(令和2年・2020年)4月1日、法務局における遺言書の保管等に関する法律は今年の7月10日が施行日となっており、いずれももうすぐ施行されることになります。

 

2.以上を前提として、次に、具体的にその案件、その場面において、改正後の民法の規定が適用されるのか、改正前の規定が適用されるのかをどのように判断したらよいかという点について、整理します。

 

原則的には、相続開始時を基準として、改正法は施行日後に開始した相続について適用されることになっているため、施行日前に開始した相続については、旧法が適用されることになります。

 

ですが、以下のとおり、例外や注意点が色々あります。

 

・配偶者の居住の権利については、(相続開始が施行日以後であっても)施行日前にされた配偶者居住権の遺贈は無効とされます。

(配偶者居住権を遺贈する遺言は、来月4月1日以降にする必要があります。)

 

・自筆証書遺言の方式緩和に関する新法の規定(第968条)は、施行日後に作成された遺言についてのみ適用されます。

(相続開始が施行日以後であっても、施行日前にされた遺言については適用されません。)

 

・遺産分割前の預貯金の払戻し制度については、相続開始が施行日前であっても、改正法が適用されます。

 

・夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する新法の規定(第903条第4項)は、施行日後に行われた贈与等についてのみ適用されます。

(相続開始が施行日以後であっても、施行日前にされた贈与等については適用されません。)

 

・権利の承継の対抗要件について受益相続人による通知を認める特例(第899条の2)は、施行日前に開始した相続について(施行日後に遺産分割により承継が行われる場合に)も、適用されます。

 

例外や注意点は色々とあって複雑ですが、基本的な考え方は押さえておきましょう。

 

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民法の相続法制の改正〜遺産を分割前に処分した場合の処理方法の変更(2)

今回の民法改正により、処分された財産(預金)を遺産に戻すことについて、処分をした人以外の相続人(次男)の同意があれば、処分者(長男)の同意を得ることなく、処分された預貯金を遺産分割の対象に含めることを可能とし、不正出金がなかった場合と同じ結果を実現できるようになりました。

 

前回の事例において、今回の改正でどう変わったのか、を見てみましょう。

 

長男:1000万円(不正出金額)―1000万円(代償金)=0円(相続分)

次男:1000万円(残預金)+1000万円(代償金)=2000万円(相続分)

 

↓ その結果、相続前後の最終的な取り分はこうなります

 

長男:相続分0円+特別受益2000万円=2000万円

次男:相続分2000万円

 

改正により、長男及び次男は、相続前後の最終的な取得額が(本来の取り分)である各2000万円となり、 公平な遺産分割を実現することができるようになりました。

もちろん、長男が代償金1000万円を次男に対してきちんと支払う必要がありますが・・・。

 

※この場合であれば、裁判所の遺産分割審判の条項は、以下のような条項となるものになると考えられています。

・長男に払い戻した預金1000万円を取得させる。

・次男に残預金1000万円を取得させる。

・長男は、次男に代償金1000万円を支払え。

 

以上で、今回の改正の内容がお分かり頂けたでしょうか?

 

改正前から、遺産分割協議や遺産分割調停において改正後と同じような処理をすることは実務上ありましたが、遺産の処分を実行した当事者がこのような処理をすることに同意した場合に限られていました。

 

今回の改正により、処分をした当事者の同意を得ることなく、それ以外の共同相続人の意思で、処分された財産も遺産分割の対象とすることができるようになったのは、実務上非常に大きな意味のある改正だと思います。

 

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民法の相続法制の改正〜遺産を分割前に処分した場合の処理方法の変更(1)

相続人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の処理方法、遺産分割への影響について、今回の相続法改正により、新たに次のような内容の規定が設けられました。

 

1) 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

2) ただし、財産を処分した共同相続人の同意を得ることを要しない。

 

つまり、財産を処分した共同相続人の同意を得ることなく、それ以外の共同相続人の同意で、処分された財産も遺産分割の対象とすることができるということですね。

今回の規定は、相続開始後に共同相続人の一人が遺産を処分した場合に、計算上生じる不公平を是正するために設けられたものです。

 

まず、計算上生じる不公平、とはどんなものでしょうか?

改正前は、相続開始後に共同相続人による遺産の処理をした場合(特に特別受益のある相続人が遺産分割前に遺産を処分した場合)に、不公平な結果が生じていました。

 

(事例)

相続人:長男・次男(法定相続分1/2)

遺産:預金2000万円

特別受益:長男に対する生前贈与2000万円

不正出金:長男が相続開始後に密かに上記の預金の中から1000万円を引き出していたとする。

 

※〔仮に長男の出金がなかった場合〕にはどうなるか?

長男: (預金2000万円+特別受益2000万円)×1/2―2000万=0円(本来の相続分)

次男: (預金2000万円+特別受益2000万円)×1/2=2000万円(本来の相続分)

 

 ↓ その結果、相続前後の最終的な取り分はこうなる

 

長男:相続分0円+特別受益2000万円=2000万円

次男:相続分2000万円

 

これが各自の(本来の取り分)となる。

 

 〔長男による出金がされた上記事例の場合〕

遺産分割時の遺産は、不正出金後の残預金1000万円のみであり、これを分割することになる。

 

長男:0円(相続分)

次男:1000万円(相続分)

 

↓ その結果、相続前後の最終的な取り分はこうなる

 

長男:特別受益2000万円+不正出金1000万円+相続分0円=3000万円

次男:相続分1000万円

 

〜次男は(本来の取り分)に1000万円足りず、不正出金をした長男が(本来の取り分)より1000万円多く取得することになる。

 

※不正出金に対する民事訴訟の可能性はあるものの・・・

不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求といった民事裁判上の請求による救済の可能性はあるものの、不完全な結果となる場合がある。

これらの請求は法定相続分の範囲内にとどまると考えられるため、上記のケースだと不正出金1000万円の法定相続分2分の1=500万円分の請求となり、長男の特別受益を反映した次男の具体的相続分=2000万円を前提とした1000万円の請求ができないことになる。

 

 ↓ 民事訴訟の結果、最終的な取り分はこうなる

 

長男:不正出金・特別受益3000万―返金500万 =2500万円

次男:残余金1000万+返金500万 =1500万円

 

〜やはり、不正出金をした長男に利得が発生することになる。

 

以上が、改正前に生じていた不公平の内容です。

 

次回に続きます。

 

 

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相続法制の改正〜自筆遺言証書の保管制度がつくられました

今回の民法の相続法改正を期に、自筆証書遺言を法務局に保管する制度が開始されます。

平成30年7月6日、法務局における遺言書の保管等に関する法律が成立し(同年7月13日公布)、施行日は令和2年7月10日と定められました。

 

施行前は、自筆証書遺言は、遺言書本人や親族が保管するか、弁護士などに預ける必要があり、公正証書遺言のように公証役場で保管してもらえないため、自筆証書遺言については紛失、隠匿あるいは死後に気付かれないままになるなどの問題がありましたが、施行後は、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえるようになり、遺言書の紛失や隠匿等の防止になり、また遺言書の存在の把握が容易になります。

 

遺言書の保管制度の概要は、以下のとおりです。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

 

・遺言者は、法務局(遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局)に、自筆遺言書(封をしていないものに限る。)の保管を申請することができます。

 

・法務局は、その遺言書が民法が定める方式に適合しているかを外形的に確認し、また、遺言書は画像情報化して保存し、他の法務局からアクセスできるようにします。

 

・遺言者は、遺言書を保管している法務局に対し、遺言書の返還又は閲覧を請求することができます。なお、遺言者の生存中は、遺言者以外の人は、遺言書の閲覧等を行うことはできません。

 

・これらの申請及び請求は、遺言者が自ら法務局に出頭して行わなければなりません。

 

・遺言者の死後は、誰でも、自己(請求者)が相続人、受遺者等となっている遺言書(関係遺言書)が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。

 

・遺言者の相続人、受遺者等は,遺言者の死亡後、遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求や遺言書原本の閲覧請求をすることができます。

 

・法務局は、これらの閲覧や書面の交付をしたときは、遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者に対して、遺言書を保管している旨を通知しなければなりません。

 

・法務局に保管されている遺言書については、裁判所の検認が必要とされません。

 

なお、施行日前には、法務局に対して遺言書の保管を申請することはできませんので、ご注意ください。

 

自筆証書遺言については、死後に家庭裁判所で行う「検認」の手続き(裁判所で遺言書の状況、内容等を確認する手続きです。)が必要ですが、法務局に保管する場合にはこの「検認」が不要になる点は実務上大きなメリットです。

 

しかも、法務局で、故人が死後に自筆の遺言書を残してないか相続人が検索することが可能となります。

 

公正証書遺言の長所(公証役場に保管してもらえる、検認手続きが不要、死後は相続人が検索可能など)を一部取り入れた制度ともいえるでしょう。

 

自筆証書遺言には、作成自体の費用や証人が不要という利点がありましたが、他方で、紛失してしまったり、死後に見つけられず、あるいは破棄されてしまうなどのおそれがありました。

 

今回の改正でこれらの欠点がだいぶ改善されることになると思われます。

 

 もちろん、自筆遺言証書については、本人が自筆するものであるため、無効なもの、法的には意味がよく分からないもの、内容がきちんと特定されていないものになりやすい、という根本的なリスクがあることに変わりありませんが、自筆遺言制度の使い勝手は大きく増すことになるでしょう。

 

 

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民法の相続法制の改正〜遺産分割前の被相続人の預金の払戻し(2)

前回ご説明した遺産分割前の預金払戻し(民法909条の2)とは別に、今回の改正にあわせて、家事事件手続法において、「預貯金債権の仮分割の仮処分」という手続きについて、要件が緩和されています。

こちらは裁判所での保全処分というものになります。

 

以前から、「預貯金債権の仮分割の仮処分」によって、遺産分割確定前に相続人に預金の全部または一部を仮に取得(仮払い)させることは可能でしたが、「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」に限り認められており、要件が厳しく、あまり利用されていませんでした。

 

今回の改正により、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合に、「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるとき」は、他の共同相続人の利益を害しない限り、申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得(仮払い)させることができるようになり、以前より緩やかに認められるようになりました。

 

さて、こちらの制度では、前回ご説明した遺産分割前の預貯金の払戻し(民法909条の2)とは異なり、仮払いができる限度額、範囲が明確に定められておりませんが、他の共同相続人の利益を害しない限りで、との限定があります。

この点は裁判官の判断によることにはなりますが、原則的には、「遺産の総額」に「申立てをした相続人の法定相続分」を乗じた金額の範囲内であれば問題ないように思われますが、事案によっては、支払いを要する債務の額を基準として仮払額を決定したり、「当該預貯金債権の額」に「申立てをした相続人の法定相続分」を乗じた金額の範囲内でのみ仮払いを認めるケースもあり得るでしょう。

 

なお、こちらの制度は、仮の分割、仮払いを認めるものであって、実際の遺産分割をする際には、当該預貯金債権も含めて改めて遺産全体について遺産分割を行う必要があります。

この点は、前回にご説明した遺産分割前の預貯金の払戻しとは異なりますので、ご注意ください。

もっとも、最終的な遺産分割協議書に仮払の対象となった預貯金債権の帰属について記載がされていなかったとしても、仮払いどおりの内容の黙示の遺産分割協議が成立していたものと認定される場合もあるだろうと思いますが。

 

 以上、預貯金債権の仮分割の仮処分について、ご説明しました。

 

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民法の相続法制の改正〜遺産分割前の被相続人の預金の払戻し(1)

今回の改正前には、相続人は、葬儀費用、被相続人が残した債務、相続人の生活費の支払いなどで、お金が必要になった場合でも、遺産分割が終了するまでは被相続人の預貯金の払戻しができませんでした。

 

遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるよう、今回の改正により、遺産分割前にも預貯金債権のうち一定額については、家庭裁判所の手続きを経ることなく、金融機関での払戻しができるようになりました(民法909条の2)。

 

1.改正(制度新設)の理由について

最高裁は、平成28年12月19日決定で、これまでの判断を変更し、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれ、 遺産分割前に共同相続人が単独で払戻しをすることはできないとの判断をしました。

また、銀行はそれ以前から、相続された預貯金債権の払戻しについては、全ての法定相続人による遺産分割協議の成立または全法定相続人の同意が必要とし、各相続人による自身の法定相続分の払戻しの請求にも応じないのを一般的な取扱いとしていました。

その結果、相続人は遺産分割が終了するまでの間は、被相続人の預金の払戻しをすることが一切できず、困ることが多々ありました。

 

2.新たに設けられた規定の内容

新たな規定により、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに以下の計算式で求められる額(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(=150万円)を限度とする。)までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができることになりました。

 

【計算式】

単独での払戻し可能額=(相続開始時の預貯金債権の額)× 1/3 ×(当該相続人の法定相続分)

この規定に基づいて相続人が払戻しを受けた預貯金の取扱いについては、当該共同相続人が遺産の一部分割によってその預貯金債権を取得したものとみなされることになっています。

 

さて、この制度は、裁判所の関与なく利用することができるものですが、実際に払戻しを求めるに当たっては、銀行等の窓口に、戸籍謄本や印鑑証明書を提出して預金払い戻しを求めることになります。

https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/article/F/7705_heritage_leaf.pdf

 

全国銀行協会のHPによると、以下の書類が必要とされています。

1)被相続人(亡くなられた方)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)

2)相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書

3)預金の払戻しを希望される方の 印鑑証明書

 

念のため、あらかじめ取引のある銀行等に必要書類を確認しておくとよいでしょう。

 

さて、上記の式のとおり、(相続開始時の預貯金債権の額)を基準として払戻額が決定されることになります。

相続開始前に預貯金の入出金があろうと、相続開始後に預貯金の入出金があろうと、あくまで(相続開始時の預貯金債権の額)を基準に払戻額が決定されることになるのです。

 

そのため、仮に相続開始後に相続人の一部が無断で預貯金を出金したような場合には、残っている預貯金の額が上記の払戻額を下回り、払戻額どおりの金額の預貯金の払戻しが受けられないケースが発生するおそれがあります。

注意を要するところです。

 

以上、遺産分割前の預金払戻についてご説明したところですが、裁判所の手続きを要することなく払戻を受けられるため、今後は通常、遺産分割前に法定相続人単独での預金払戻しを受けることが非常に増えてくるのではないかと思われますので、以上の内容を理解しておくとよいでしょう。

 

次回は、今回の制度に関連して、裁判所の手続きに基づいて預金の仮払いを受ける方法についてご説明します。

 

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民法の相続法制の改正〜特別受益の持戻免除の推定規定がつくられました(2)

前回の続きです。

 

今回の相続法制の改正により、特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定が設けられたこと(改正後民法903条4項)により、どう変わるのか、具体的な事例でご説明します。

 

 (事例)

・相続人:配偶者と子2名(長男と長女)

・遺産:居住用不動産(持分2分の1)2000万円(相続時の評価額)、その他の財産 6000万円

・婚姻期間が20年以上経過した時点で行われた配偶者への生前贈与:居住用不動産(持分2分の1)2000万円(相続時の評価額)

※特別控除の持戻しを免除する旨の意思表示を積極的に行った遺言書等はなし

 

〔改正前〕

このような生前贈与(特別受益)は遺産の先渡しを受けたものとして、配偶者の相続分を計算する時には生前贈与を受けた財産が相続財産とみなされるため(10年以上前の生前贈与であっても同じです。)、今回の相続による配偶者の遺産分割における相続分は

(8000万+2000万)×1/2―2000万=3000万円

 となり、相続分と贈与財産の取得額の合計額は、

3000万+2000万=5000万円

となります。

 

このように、贈与があった場合とそうでなかった場合とでは、最終的な取得額に差異がないこととなります(むしろ、このような差異が生じないようにするために、特別受益の持戻し計算という仕組みがあります。)。

 

その結果、被相続人が長年連れ添った配偶者に対して居住用不動産の贈与等を行った趣旨が遺産分割の結果に反映されないこととなります。

 

 

〔改正後〕

原則として、このような生前贈与(特別受益)を受けた財産については、相続財産とみなされなくなったため、今回の相続による配偶者の遺産分割における相続分は、

8000万×1/2=4000万円

となり、相続分と贈与財産の取得額の合計額は、

4000万+2000万=6000万円

となります。

 

このように、配偶者は、改正前より多くの財産を遺産分割時に取得(最終的な取得額もより多く取得)できることとなり、このような生前贈与等が行われた趣旨に沿った遺産の分割が可能となります。

 

具体的な事例でイメージが持てたでしょうか?

 

さて、最後になりましたが、特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定については、以下の点も覚えておくとよいでしょう。

 

・長期間婚姻している夫婦間で行われた「配偶者居住権」の遺贈・死因贈与についても、この持戻し免除の意思の推定規定の適用があります。

・あくまで「推定」する規定であるため、配偶者以外の相続人が、被相続人に特別受益の持戻しを免除する旨の意思表示がなかったことについて立証すれば、原則どおり、配偶者の特別受益について持戻し計算がされることになります。

・特別受益の持戻しが免除されたとしても、配偶者への贈与等が他の相続人の遺留分を侵害する場合には、他の相続人から配偶者に対する遺留分侵害額の請求がなされる可能性があります。

 

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民法の相続法制の改正〜特別受益の持戻免除の推定規定がつくられました(1)

今回の相続法改正により、特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定が設けられました(改正後民法903条4項)。

配偶者居住権と同じく配偶者保護のための方策です。

 

どういった規定かというと、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が、他方に対し、その居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合には、民法第903条第3項の「持戻しの免除」の意思表示があったものと推定する規定です。

 

これにより、遺産分割においては、原則として当該居住用不動産の「持戻し」計算を不要とし、当該居住用不動産を相続財産とみなさずに相続分の計算をすることができるようになりました。

 

以下、このような改正がされた理由について、ご説明します。

 

相続人のうち一部が、被相続人から生計の資本等として生前贈与(特別受益)を受けていた場合、相続が発生すると、原則として、そういった生前贈与については遺産の先渡しがされたものとして、その特別受益の財産を相続財産に加算したうえで相続人の相続分の算定を行うことになります(民法903条1項、特別受益の持戻し)。

 

その結果、配偶者が自分の死後に配偶者が生活に困らないようにとの趣旨で生前贈与をしたときでも、配偶者が生前贈与と相続で受け取る財産の総額は、結果的に生前贈与をしないときと変わらず、配偶者が遺産分割において受け取ることができる財産の額がその分減ることになっていました。

 

改正前でも、被相続人が生前に遺言等でこの特別受益の持ち戻し計算を行わないように意思表示することで、持戻しをしないようにすることができました(民法903条3項)が、そういった意思表示がされない場合であっても、上記のような生前贈与の趣旨を尊重した遺産分割を可能とするため、改正により、特別受益の持戻しについて免除する意思表示があったものと推定することとしたものです。

 

これにより、遺産分割時に原則として特別受益の持戻し計算をしないようにすることとし、結果的に配偶者がより多くの相続財産を取得し、生活を安定させることができるようにしたわけです。

 

お分かり頂けたでしょうか?

次回はこの続きで、具体的な事例でどう変わるのかをご説明します!

 

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民法の相続法制の改正〜配偶者短期居住権が創設されました(2)

前回に続き、配偶者短期居住権に関する記事です。

 

配偶者が居住建物の遺産分割に関与しない場合の取扱いについて、ご説明します。

配偶者が被相続人の建物に相続開始時に無償で居住していた場合に、被相続人が居住建物を第三者に遺贈したときや、配偶者が相続放棄をしたときなど、配偶者が居住建物の遺産分割に関与しないときは、配偶者は、居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者に対し、配偶者短期居住権を有することになります。

ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は欠格事由に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでありません。

 

他方で、居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者は、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができ、その申入れをした日から6か月を経過すると、消滅することになります。

 

〜被相続人が居住建物を他の人に遺贈した場合や、被相続人が死後に配偶者が建物を継続して無償使用することについて反対の意思表示をしていた場合であったとしても、配偶者は最低6か月間は、引き続き無償でその建物を使用することができることになります。

 

注意点です。

配偶者短期居住権については、以下の点には留意しておきましょう。

 

・居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分についてのみ無償使用できることになります(この点は、配偶者居住権とは異なります。)。

 

・配偶者短期居住権は、譲渡することができません。

 

・配偶者は、他の全ての相続人の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができません。

 

・配偶者短期居住権は、その存続期間の満了前であっても、配偶者が死亡したとき又は配偶者が配偶者居住権を取得したときは、消滅します。

 

・配偶者短期居住権に基づいて無償で使用、収益をするに当たっては、できることや守らなくてはいけないことなどについて、法律で細かな規定が定められています。

 

配偶者短期居住権について、大体のことが分かってもらえたでしょうか?

 

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民法相続法の改正〜配偶者短期居住権が創設されました(1)

前回まで、配偶者居住権について説明をしました。

今回からは、配偶者「短期」居住権についてご説明します。

 

今回の改正により、配偶者が相続開始時に被相続人の建物(居住建物)に無償で居住していた場合、配偶者は一定期間(最低6ヶ月間)、居住建物を無償で使用する権利(配偶者「短期」居住権)を取得することになりました。

 

これまでは、最高裁平成8年12月17日判決(※)による使用貸借契約の推認により、遺産分割までの間、配偶者との間で使用貸借契約が成立しているとして、配偶者の遺産分割時までの居住の保護を図ってきましたが、第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合や、被相続人が反対の意思を表示した場合には、使用貸借契約の存在が推認されず、配偶者の保護が不十分な場合がありました。

そこで、今回の民法の相続法改正により、配偶者短期居住権が新設されることとなったのです。

 

(※)最高裁は、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される旨の判断をしていました。

 

なお、配偶者短期居住権については、配偶者居住権と異なり、配偶者の具体的相続分からその価額を控除することを要しません。

つまり、この権利を取得することで、他の相続財産の取り分が減ることはありません。

 

配偶者短期居住権については民法上、2つの場面に分けて異なる取扱いが定められているため、以下では場面ごとにご説明をします。

 

まず、配偶者が居住建物について共同相続人として遺産分割をする場合の取扱いについてご説明します。

 

配偶者が、被相続人の建物に相続開始時に無償で居住していた場合に、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすることになるときは、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間(※)、居住建物の所有権を相続により取得した者に対し、居住建物について無償で使用することができる権利を持つことになります。

 

(※)死後最低6か月間は居住建物の無償使用が保証されることになります。

したがって、遺産分割協議が早期に成立しても、死後6か月を経過する日までの間は配偶者短期居住権は失われません。

 

 次回に続きます。

 

民法相続法の改正〜配偶者居住権が創設されました(2)

前回に続き、配偶者居住権に関する記事です。

 

・最初に、配偶者居住権がどのような場合に成立するのか、ご説明します。

配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合に、

1)遺産分割(協議・調停・審判)によって配偶者居住権を取得するものとされたとき、

2)配偶者居住権が配偶者に遺贈されたとき、

3)被相続人と配偶者との間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があったときのいずれかに該当したとき、

配偶者居住権を取得することになります。

 

ただし、 被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立しませんので、ご注意ください。

〜予め建物の名義を確認しておきましょう!

 

なお、遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、

(ア) 共同相続人間に配偶者の配偶者居住権取得について合意が成立しているとき、

(イ) 配偶者が取得を申し出て、居住建物の取得者の不利益を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき、

のいずれかに該当するときに限り、配偶者居住権の審判をすることができます。

 

・次に、配偶者居住権の効果について、ご説明します。

配偶者は居住していた建物(居住建物)の「全部」について、無償で使用及び収益をすることができるようになります。

 

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身(生きている間)となります。

ただし、遺産分割協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において定めたときは、その定めるところによります。

 

・注意点です。

配偶者居住権については、以下の点には留意しておきましょう。

 

● 配偶者居住権は、譲渡することができません。

 

● 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をしたり、第三者に居住建物の使用・収益をさせることができません。

 

● 配偶者居住権に基づいて無償で使用、収益をするに当たっては、できることや守らなくてはいけないこと(権利、義務)などについて、法律で細かな規定が色々と定められています。インターネットや本で調べるか、専門家に聞いて確認するようにしてください。

 

配偶者居住権について、大体のことが分かってもらえたでしょうか?

 

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民法相続法の改正〜配偶者居住権が創設されました(1)

民法(相続法制)改正の目玉の一つが、配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設です。

これらは、残された配偶者の居住権を保護するための権利、制度です。

 

今回の改正の大部分は既に(H31.1.13、R1.7.1)施行されておりますが、配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設については施行日が2020年4月1日(R2.4.1)となっており、この日より前に開始した相続については配偶者居住権、配偶者短期居住権の適用がないため、ご注意ください。

 

今回はまず、配偶者居住権について説明をしていきます。

 

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用を認める権利です。

配偶者に配偶者居住権を取得させることが遺産分割における選択肢の一つとなったほか、被相続人が生前に遺言(遺贈等)をすることによって、配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。

 

このような配偶者居住権が民法改正により創設された理由については、以下のとおりです。

改正前は、配偶者が居住建物を相続により取得できたとしても、その分、他に受け取れる現預金等の財産が大幅に少なくなってしまう、という問題がありました。

 

そこで、建物の権利を「負担付きの所有権」と「配偶者居住権」に分け、遺産分割の際などに、配偶者が「配偶者居住権」を取得し、居住建物の(配偶者以外の)相続人が「負担付きの所有権」を取得することができるようにしたのです。

 

配偶者居住権は、自宅に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なり、人に売ったり、自由に貸したりすることができない分、評価額を低く抑えることができます。

 

その結果、配偶者居住権を取得した配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産も以前より多く取得できるようになり、その後の生活の安定を図ることができるようになる、ということです。

 

実際の例、配偶者居住権の評価方法については、以下の法務省のHPをご確認ください。

http://www.moj.go.jp/content/001263589.pdf

 

配偶者居住権については、個人的に最も皆さんに注意して頂きたい点があります。

遺産分割の際に、配偶者に配偶者居住権を取得するか否かについて選択権があるわけではないという点です。

つまり、残された配偶者が希望すれば、必ず(自宅または)自宅の配偶者居住権が取得できるわけではないということです。

その結果、残される配偶者に確実に配偶者居住権を取得させたいのであれば、生前に配偶者居住権を遺贈する旨の遺言書をしておく必要がある、ということになります。

 

遺言書作成の重要性がさらに高まったといえるでしょう。

 

この点、お分かり頂けたでしょうか?

最高裁で再転相続が起きた場合の熟慮期間の起算点について判決が出ています

民法では、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならないこととされております(民法915条1項)。

この3ヶ月の期間を一般に、熟慮期間といいます。

 

また、民法第916条では、相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算すると定めております。

 

一般に、甲が死亡し、その相続人である乙 が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡し、丙が乙の相続人となるような相続を「再転相続」といいますが、最高裁は令和元年8月9日、再転相続の場合の熟慮期間の起算点に関して判断した初めての判決を出しました。

最高裁は、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきであるとして、再転相続の相続人によってより手厚い法解釈を示したといえるでしょう。

 

判決文はこちらからご確認ください。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88855

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/855/088855_hanrei.pdf 

 

この事件の事実関係をざっくりと簡単に説明すると、以下のとおりです。

・Aの死後、Bは、自己がAの相続人となったことを知らず、Aからの相続について相続放棄の申述をすることなく、平成24年10月19日に死亡した。

・Bの相続人は、妻及び子である被上告人外1名であった。

・被上告人は、平成27年11月11日、「本件債務名義、上記承継執行文の謄本等の送達」を受け、BがAの相続人であり、被上告人がBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。

・被上告人は、平成28年2月5日、Aからの相続について相続放棄の申述をし、同月12日、申述が受理された。

 

この点、原審(大阪高裁)は、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、丙が自己のために乙からの相続が開始したことを知った時をいう」、「同条は、乙が、自己が甲の相続人であることを知っていたが、相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると解すべきであり、BがAの相続人となったことを知らずに死亡した本件に同条は適用されない。」との判断をしていました(甲、乙、丙は上記のとおりです)。

 

本件に関し、最高裁判所は、概ね以下のような判断をしました。

 

・民法916条の趣旨は、・・・丙の認識に基づき、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにある。

・再転相続人である丙は、自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって、当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。

・また、丙は、乙からの相続により、甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの、丙自身において、乙が甲の相続人であったことを知らなければ、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。

・丙が、乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず、丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって、甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。

・以上によれば、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。

・なお、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について、乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは、同条がその適用がある場面につき、「相続人が相続の承認又は放棄をしない で死亡したとき」とのみ規定していること及び同条の前記趣旨から明らかである。

 

以上のとおり、最高裁は、再転相続の場合の熟慮期間の起算点に関し、大阪高裁の法解釈を覆して、再転相続の相続人にとってより手厚い法解釈を示したといえるでしょう。

 

実務上重要な判例ですので、紹介致しました。

 

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限定承認でみなし譲渡による所得税が発生する理由(2)

前回の続きです。

 

限定承認に伴うみなし譲渡は、基本的には、相続後に相続人が相続財産の譲渡をしたときに、被相続人の生存中に発生していた含み益についてまで、譲渡所得(所得税・住民税)が発生し、所得税を納付しなくてすむようにするためのものです。

つまり、相続人の将来の譲渡時における所得税・住民税の負担を軽減するための制度なのです。

 

以下の例で、単純な相続の場合と比べて説明をしていきます。

 

例:被相続人AがH1.1.1に土地を5000万円で取得、H31.1.1に死亡(時価7000万円に値上がり)、R1.6.1に相続人Bが7200万円で売却。

 

1)単純に相続をした場合

 

→相続時:通常の相続税のみ。BはAの土地の取得費・取得時期を引き継ぎます。

 

→売却時:相続人Bのもとで、7200万円 − 5000万円 =2200万円 の譲渡所得(取得費等は省略。以下同様)、これに対応する税金(長期譲渡所得:所得税15%+住民税5%〜概算440万円)が発生することに(復興特別所得税については省略。以下同様)。

 

〜被相続人Aのもとで取得時H1.1.1から死亡時H31.1.1までに発生していた2000万円分の値上がり益(譲渡所得)についてまでBに課税され、税負担が発生する結果になります。

 

 

2)限定承認をした場合

死亡時に被相続人から相続人に対する譲渡があったものとみなされます。

 

→相続時:被相続人Aのもとで、7000万円–  5000万円 =2000万円の譲渡所得(取得費等は省略)、これに対応する所得税(長期譲渡所得:所得税15%〜概算300万円 ※ 死亡したため翌年の住民税の負担は発生しません。)が発生し、相続人Bがこの所得税の支払債務を相続することになります。

 

もっとも、この所得税を含めた相続債務の合計額が相続資産の合計額よりも多い場合には、Bは限定承認をしているのですから、相続資産の範囲を超えて自らの固有財産で所得税の納付をする必要がありません。

 

また、Bには通常どおり相続税が発生しますが、上記の所得税も債務に含めて債務控除をした上で、相続税を計算することになります。

 

 

→売却時:相続人の売却時には、7200万円 –  7000万円(取得価額〜相続時の時価) =200万円の譲渡所得が発生(取得費等は省略)し、対応する税金(短期譲渡所得:所得税30%+住民税9%〜概算78万円)が発生し、納税をすることになります。

 

 

以上のとおり、限定承認をした結果、被相続人のもとで発生していた2000万円分の値上がり益(譲渡所得)については、相続人は相続時に自らの固有財産から所得税を納税する必要がありませんし、将来の売却時に課税されることもないのです。

 

また、単純に相続をした1)の場合と比べて、限定承認をした2)の場合に、相続人の合計の負担税額は減少することになりました。

ただし、もちろん、毎回このような計算結果になるわけではなく、しかも限定承認の場合には、親族間で譲渡したものとみなされるため、税額を軽減する特例(例:居住用財産の譲渡の場合の3000万円特別控除、軽減税率の特例等)が受けられず、限定承認をしたことによって単純に相続を選択した場合と比べて課税の負担が増えてしまう場合が生じてくるので、要注意です。

ですので、ある程度の相続財産があって、限定承認を選択しようとする場合は、事前に税理士さんに相談すべきでしょう。

 

限定承認や相続税・所得税の紛争のご相談は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

限定承認でみなし譲渡による所得税が発生する理由(1)

今回は、限定承認をするに伴って発生する税金であるみなし譲渡(所得税)について記載をしていきます。

 

限定承認をした場合、相続税以外にも、みなし譲渡による所得税が発生することがあります。

被相続人にみなし譲渡(被相続人が相続人に対して譲渡したものとみなされる)による所得税が発生するのですが、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に相続人が準確定申告を行うことでその税額が確定し、相続人はそれを債務として相続する、ということになります。

 

その際、譲渡所得の金額の算定に当たっては、相続税評価額ではなく時価で譲渡収入を算定しなければならず、また被相続人(あるいはそれ以前)の取得価額が分からない場合は特に、譲渡所得、所得税の負担が高額となることがあります。

なお、譲渡所得の基本的な計算方法等についてはこちらでご確認ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm

 

そのため、相続税以外にも(譲渡)所得税が発生することを理由に、限定承認を避けようとする人も多くいらっしゃいます。

 

また、以下のような疑問を持つ人もいらっしゃるでしょう。

・限定承認をすると、なぜそんな余分な税金がかかるのだろうか?

・被相続人から相続人に対して「譲渡」したものとみなして所得税が課されるのであれば、なぜそれに加えて相続人が被相続人から「相続」したものとして相続税もかかるのだろうか(譲渡済みであって相続財産ではないのではないか)?

・相続人は「相続」したものとして相続税がかけられるのに、なぜ被相続人が相続人に対して「譲渡」をしたものとみなして所得税がかけられるのだろうか(相続したのであって譲渡を受けたものではないのではないか)?

 

このような疑問が出るのはごもっともですが、実は、限定承認に伴うみなし譲渡の規定は、相続人にとって単純に負担が増加するもの、というわけではありません。

むしろ、基本的には、相続人のための規定なのです。

 

次回に続きます。

限定承認あれこれ

最近、限定承認に関するご相談が立て続けにありました。

 

相続を放棄するか、承認するか、限定承認するかの判断については、時間制限もありますし、相続人が知らない、把握できない事情や将来の不確定要素まで考慮して判断する必要があることなどから、皆さん、悩まれることが多いのだと思います。

 

そこで、いくつか、限定承認に関する記事を書いておこうと思います。

今日はとりあえず、限定承認について思いついたことをあれこれ書きます。

 

・まず初めに、原則として本年(令和元年)7月1日から、相続に関する民法の改正が施行されておりますが、限定承認については特に改正事項はありません。

 

 

・さて、インターネット上では、限定承認は、相続資産の限度内でのみ債務を引き継ぐものというように記載されていることが多いのですが、むしろ、被相続人の債務を全て相続はするけれども、自分自身の固有資産(相続人がもともと持っている資産、その相続以外の原因で取得する資産)でその相続債務を支払う責任を負わない、という理解をして頂いた方が正確です。

 

 

・限定承認には、相続人が自分自身の固有資産から相続人の債務を支払う責任を負わない、相続放棄と比較して、(結果として相続した財産・負債の収支がプラスになり)相続によって財産を取得できる可能性がある、次の順位の法定相続人に迷惑をかけないですむなどのメリットがありますが、他方で、色々と注意点があります。

まずは、前に書いたこちらの記事をごらんください。

https://www.legalawyer.jp/genteishounin/

 

ここに書かれていること以外にも限定承認について注意すべき点があります。

次回以降、前の記事では記載していなかった限定承認をするに伴って発生する税金や費用について記載をしていきます。

相続に関する民法の改正が施行されました!

本年7月1日から、相続に関する民法改正の大部分が施行されております!

 

全体的な施行のスケジュールは3段階となっており、今回は2段階目でした。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00237.html

 

今回、遺産分割前の預貯金の払戻し制度、遺留分制度の見直し、相続の効力等に関する見直し、特別の寄与等に関する改正が施行されました。

なお、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等の改正は2020年4月 1日施行となっております。

 

いよいよ新民法での相続が本格的に始まりました。

皆さんも変更があった点に気をつけながら相続手続きをするようにしましょう!

 

遺産分割、遺言書など相続のことでご相談がありましたら、クーリエ法律事務所へどうぞ! 

課税処分の取消判決の拘束力と後続の相続税の更正の請求との関係について判断した東京地裁の裁判例(2)

前回の続きです。

 

東京地裁(平成30年1月24日判決)は、概ね以下のような判断をしました。

 

・相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告等における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等)を主張することはできないものと解され、その結果、更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告における価額となる(その後に更正処分があった場合で、申告における価額のうち、当該更正処分によって変更された価額があるときには、その価額を基礎にすべきである。)。また、相続税法35条3項に基づく更正処分における課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額もまた同様に解するべき。

 

・本件のように、相続税の申告後に個々の財産の価額を変更する更正処分がされた上、当該更正処分の取消しの訴えが当該申告をした相続人によって提起され、個々の財産の評価方法ないし価額が争点となり、判決がこの点について認定・判断をし、課税価格及び納付すべき税額につき当該更正処分における金額と異なる金額を認定して、当該更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではないのはもちろんであるが、かといって、当該価額を申告における価額と置き換えることも、当該価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではなく、根拠を欠く。

 

・上記のような場合には、争点となった個々の財産の評価方法ないし価額に係る認定・判断並びにこれらを基礎として算定される課税価格及び相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断として、行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じているということができる上、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分に係る事件についても、同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格及び相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当であって、従前の更正処分について、争点となり、その評価方法ないし価額が判決によって変更されるに至った個々の財産については、課税庁において、同判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならない。

 

 

以上のように、この東京地裁の判決によれば、(個々の財産の評価方法ないし価額を争点とする相続税の)課税処分の取消判決後に、同一事件について相続税法32条1号に基づく更正の請求等が税務署に対してされた際には、税務署に行政事件訴訟法33条1項の拘束力が及び、税務署は、取消判決による変更後の個々の財産の価額を基礎として課税価格を算定して、更正の請求に対する対応(減額更正処分又は拒否通知処分)を決めなければならないことになります。

 

 

今回の判決は、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告等における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等)を主張できず、更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告価額となる、という原則論は肯定した上で、相続税法32条1号に基づく更正の請求に行政事件訴訟法33条の拘束力が及び(行政庁が取消判決に拘束され)、その原則論が修正されることを明らかにしたものといえると思います。

 

行政事件訴訟法33条の取消判決の拘束力が税務において問題となった貴重な裁判例ですので、ご紹介いたしました。

 

更正の請求についてご相談のある方は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

課税処分の取消判決の拘束力と後続の相続税の更正の請求との関係について判断した東京地裁の裁判例(1)

本日は、行政事件訴訟法33条に関する判決(東京地裁平成30年1月24日判決)をご紹介します。

この条文の内容は以下のとおりです。

 

行政事件訴訟法 第33条

処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。

 

取り消された処分と同一事情の基で同一の理由に基づいて同一内容の処分を行うことを防ぐための条文です。

取消判決において処分等が違法であるとの判断を導いた具体的な判決理由について、拘束力が発生することになります。

拘束力というのは、判決の判断内容を尊重し、判決の趣旨に従って行動するよう行政庁を義務づける効力のことです。

税務署等の課税処分にもこの条文の適用があり、課税処分が判決によって取り消されると、その取消処分をした税務署はその取消判決の具体的な判決理由に拘束されることになります。

 

 

さて、本件の裁判の事実関係は概ね、以下のとおりです。

 

・原告の母が死亡し、その相続(本件相続)について相続税の申告を行うに当たり、他の相続人との間で遺産が未分割であるとし、相続税法55条に基づき、相続税の申告(本件申告)をしたところ、税務署長から、遺産のうち株式(以下「本件各株式」という。)の一部の価額が過少であるとして更正処分を受けた。

・そこで、原告は、上記の更正処分の取消しを求めて国を相手に東京地方裁判所に訴えを提起したところ、裁判所は、上記の更正処分(前件更正処分)における本件各株式の一部の価額が過大であるのみならず、本件申告における本件各株式の一部の価額も過大であった旨を判示した上で、前件更正処分のうち本件申告の額を超える部分を取り消す旨の判決を言い渡した。東京高等裁判所もその判断を維持して被告(国)の控訴を棄却し、判決は確定した。

・その後、原告は、遺産分割が成立したとして、税務署長に対し相続税法32条1号(【参考条文】参照)に基づき、本件各株式の価額が前件判決で認定された額と同額であることを前提に更正の請求(本件更正請求)をした。これに対し、同税務署長は、本件各株式の価額は本件申告における額と同額とすべきであるとし、本件更正請求について更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をするとともに、同法35条3項に基づき、相続税の増額更正処分(本件更正処分)をした。

・そこで、原告が、本件更正処分等における本件各株式の価額を不服として、本件更正処分等の一部の取消しを求める訴訟を提起した。

 

次回に続きます。

 

 

【参考条文】

相続税法32条(更正の請求の特則)

第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。

一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。

固定資産税の路線価知っていますか?全国地価マップは使用していますか?

路線価とは、路線ごとに設定されている1㎡当たりの評価額のことで、その路線に面する宅地の評価などに用いられます。

 

一般的には、路線価といえば、国税局長が決めて国税庁が発表する路線価のことを指し、相続税等に関する財産の評価額の算定に用いられます。

この相続税路線価は土地取引の指標となる公示地価(地価公示価格)の8割程度の価格となっております。

以下の国税庁のHP「路線価図・評価倍率表」で実際の土地の路線価を確認することができます。

相続税路線価は毎年7月に発表されます。

 

もっとも、固定資産税にも路線価が存在することはご存じでしょうか。

固定資産税路線価は、公示地価の7割を目途とする価格であり、市町村長(又は都知事)によって定められており、固定資産税評価額等の計算に(間接的に相続税の計算にも)用いられております。

固定資産税路線価は毎年4月以降に発表されています。

 

さて、この固定資産税路線価については、以下の「全国地価マップ」のHPで確認することができます。

この全国地価マップでは、固定資産税路線価だけでなく、相続税路線価や、地価公示価格(地価調査価格)も一気に調べることができるので、便利ですよ!

 

いずれも、その年の1月1日を基準として評価額が決定されることになっていますが、相続税路線価は毎年見直しがされる建前となっているのに対し、固定資産税路線価の見直しは基本的に3年ごととなっています(直近では平成30年度が評価替えの年でした。)。

 

 

一般に、土地については、実勢価格以外に、公示価格(基準地価)、路線価、固定資産税評価額などの価格があることは知られていますが、厳密には、路線価にも相続税路線価と固定資産税路線価があり、その役割等も異なっていることについて、ご理解頂けたでしょうか?

 

相続税評価額のことで税務署と紛争になっている方は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

自筆遺言の財産目録に関する法務省のQ&A

先日の記事で書いた自筆遺言の方式緩和について、法務省のホームページではQ&Aを設けています。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00240.html

 その中で重要と思われるものを以下に抜粋致しておきました。

 

 

Q3 財産目録の形式に決まりはありますか?

 

A3 目録の形式については、署名押印のほかには特段の定めはありません。

したがって、書式は自由で、遺言者本人がパソコン等で作成してもよいですし、遺言者以外の人が作成することもできます。

また、例えば、土地について登記事項証明書を財産目録として添付することや、預貯金について通帳の写しを添付することもできます。

いずれの場合であっても、Q4のとおり、財産目録の各頁に署名押印する必要がありますので、注意してください。

 

 

Q4 財産目録への署名押印はどのようにしたらよいのですか?

 

A4 改正後の民法第968条第2項は、遺言者は、自書によらない財産目録を添付する場合には、その「毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)」に署名押印をしなければならないものと定めています。

つまり、自書によらない記載が用紙の片面のみにある場合には、その面又は裏面の1か所に署名押印をすればよいのですが、自書によらない記載が両面にある場合には、両面にそれぞれ署名押印をしなければなりません。

押印について特別な定めはありませんので、本文で用いる印鑑とは異なる印鑑を用いても構いません。

 

 

Q5 財産目録の添付の方法について決まりはありますか?

 

A5 自筆証書に財産目録を添付する方法について、特別な定めはありません。

したがって、本文と財産目録とをステープラー等でとじたり、契印したりすることは必要ではありませんが、遺言書の一体性を明らかにする観点からは望ましいものであると考えられます。

なお、今回の改正は、自筆証書に財産目録を「添付」する場合に関するものですので、自書によらない財産目録は本文が記載された自筆証書とは別の用紙で作成される必要があり、本文と同一の用紙に自書によらない記載をすることはできませんので注意してください。

 

 

Q6 自書によらない財産目録の中の記載を訂正する場合にはどのようにしたらよいのですか?

 

A6 自書によらない財産目録の中の記載を訂正する場合であっても、自書による部分の訂正と同様に、遺言者が、変更の場所を指示して、これを変更した旨を付記してこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じないこととされています。

 

 

お分かりになりましたか?

登記を目録として利用できることや、1枚でも両面ならば両面ともに署名押印を要するとか、(民法上は)財産目録をステープラー等でとじたり契印したりすることが必要ではないなど、もしかすると意外な点もあったのではないでしょうか。

自筆遺言の方式緩和による財産目録を利用して自筆遺言を作成される皆様は、以上の点について、よくご注意下さい。

 

遺言、遺産分割の相談はクーリエ法律事務所にどうぞ!

いよいよ明後日から自筆遺言の方式が緩和されます。

今年は、昨年7月6日に成立した相続に関する民法改正法による改正の大部分が施行される年です。

 

まず、明後日1月13日からは、自筆証書遺言の方式を緩和する方策が施行され、自筆証書にパソコン等で作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや 不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりして遺言を作成することができるようになります。

 

その他の主な改正については、本年7月1日から施行されます。

 

ただし、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等については、来年4月1日からの施行となります。

 

皆さん、今一度、改正の内容を確認しておかれてはいかがでしょうか?

法務省のHPのリンクを貼っておきます。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html

 

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無償の相続分譲渡が「贈与」に当たるとした最高裁判決で、税務に影響が出るのか?

前回は、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡が遺留分算定の基礎財産に算入すべき「贈与」に当たるとした平成30年10月19日付の最高裁判決をご紹介しましたが、今回はこの判決の税務面への影響について少し気になる点を記載します。

 

というのは、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡について、税務上は従来、相続分の贈与であるとは認識されてこなかった点に影響が出るのかどうかです。

 

つまり、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡があっても、譲渡をした相続人は単に持分的な権利を失い、何らの財産も取得していない以上は相続税を負担せず、他方で、譲渡を受けた相続人が元々の相続分と譲り受けた相続分に応じて取得した財産について相続税を負担するものとされていました。

 

共同相続人らの遺産分割の結果として、相続分を持ちながらも何も財産を取得しなかった相続人は相続税を支払う必要がないのですが、この場合と実質的に変わりがないことなどがその根拠となっています。

相続人らは、それぞれが有する最終的な相続分に応じて被相続人から直接財産を取得したものとして取得財産に応じた相続税のみを負担すればよかったわけです。

 

 

さて、もし仮にですが、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡をあくまで「贈与」だと考えるのであれば、譲渡をした相続人は相続分に応じた相続税を負担したうえで、譲渡を受けた相続人は、自分の元々の相続分に基づいて取得した財産については相続税を、譲り受けた相続分に基づいて取得した財産については贈与税を負担するという複雑で、しかも全体的に税負担が重くなる事態が生じてしまうのではないかというおそれが出てくることになります。

 

相続人が第三者に相続分を無償譲渡した場合には、相続人が相続税を、第三者が贈与税を負担すべきものと考えられていますが、共同相続人間での無償譲渡であっても同じような処理をすべきということになるおそれがあるわけです。

このようなことになるのであれば、おいそれと共同相続人間で相続分を無償譲渡するわけにはいかなくなります。

 

このような危惧が生じてくるのは、今回の最高裁判決の判断の理由づけが一見すると、かなり広範囲に妥当しそうな一般的なものとなっているためです。

つまり、最高裁は、相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができるとし、共同相続人間でされた無償の相続分の譲渡は、その相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たると判断しており、このような理由づけからすると、共同相続人間での無償の相続分譲渡については税務上も「贈与」に当たるとして、先ほど述べたような税務上の処理をすべきという考えが出てきても必ずしも不自然とはいえないように思われるためです。

 

もちろん、今回の最高裁判決は、遺留分減殺請求に関して判断したものであって、税務面については何らの判断をしたものではありませんし、遺留分減殺請求権は相続人間の最低限の公平を図るための権利であり、相続人間での無償の相続分譲渡も贈与と認識して遺留分減殺請求の対象とすべきであるため、従来の税務上での取扱いとは異なる考え方が採用されたものであると理解することは、全くおかしくないと思います。

個人的には、今回の最高裁判決が従来の税務上の取扱いに影響を与えるものではないと考えておりますし、今回の件が単なる杞憂にすぎないことを願っています。

 

遺産分割や遺留分減殺請求のことでご相談のある方は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

最高裁、遺留分減殺請求に関して、相続分譲渡は「贈与」に当たると判断

平成30年10月19日に、遺留分減殺請求に関して、共同相続人間でされた無償の相続分の譲渡は、その相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たると判断した最高裁判決が言い渡されました。

したがって、遺留分侵害の有無を判断する際には、相続分譲渡も計算に入れて判定をすることになります。

 

この判決の詳細は以下のとおりです。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88060

 

 

この事件は、上告人が、自分以外の共同相続人間でされた無償の相続分譲渡によって遺留分を侵害されたとして、被上告人が遺産分割調停で取得した不動産の一部について遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求めたものであり、遺留分の減殺請求について、相続分譲渡が(その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき)「贈与」(民法1044条・903条1項)に当たるか否かが争われた事案です。

 

最高裁は、共同相続人間でされた無償の相続分の譲渡は、その相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たると判断しました。

 

したがって、遺留分侵害の有無を判断する際には、相続分譲渡も計算に入れて判定をすることになります。

 

具体的な財産ではない相続分の譲渡が贈与に当たるか否かは今まで明確ではありませんでしたが、今回の最高裁判決で明確になりました。

 

本件の事実関係は以下のとおりです。

・亡Aは亡Bの妻。

・上告人、被上告人及びCはいずれも亡Bと亡Aとの間の子。

・Dは、被上告人の妻であって、亡B及び亡Aと養子縁組をした。

・亡Bは、平成20年12月に死亡した。

・Bの法定相続人は、亡A、上告人、被上告人、C及びD。

・亡A及びDは、亡Bの遺産についての遺産分割調停手続において、遺産分割が未了の間に、被上告人に対し、各自の相続分を譲渡し、同手続から脱退した。

・亡Aは、平成22年8月、その有する全財産を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言をした。

・亡Bの遺産につき、上告人、被上告人及びCの間において、平成22年1 2月、遺産分割調停が成立し、被上告人は土地、建物、現金及び預貯金並びにその他の財産を取得した。

・亡Aは、平成26年7月に死亡した。

・Aの法定相続人は、上告人、被上告人、C及びD。

・上告人は、平成26年11月、被上告人に対し、亡Aの相続に関して遺留分減殺請求権を行使する意思表示をした。

 

本件について最高裁が示した判断理由は以下のとおりです。

 

・共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。

 

・ そして、相続分の譲渡を受けた共同相続人は、従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり、当該遺産分割手続等において、他の共同相続人に対し、従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。

 

・ このように、相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる。遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは、以上のように解することの妨げとなるものではない。

 

・したがって、共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、 民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。

 

〜さて、最高裁が述べるように、相続分には通常は財産性がありますので、今回の最高裁の判断については基本的に納得できるものです。

もっとも、実務上、遺産が多岐にわたる場合や遺産の範囲・評価額が不明確な場合には、実際には相続分の譲渡がされた段階では、相続分の具体的な金額が容易に特定できず、遺留分侵害の有無も容易に判断できないという場合も多いのではないかと思われます。

 

遺留分減殺請求権には以下のとおり行使期間に制限があるため、相続分の譲渡に関して遺留分侵害の有無の判断が微妙なときには、とりあえず遺留分の侵害があるものとして権利行使せざるを得ない場合が多くなるのではないかと思われます。

 

【参考】

民法第1042条

減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

 

遺留分侵害について悩んでおられる方は、クーリエ法律事務所にご相談ください!

財産債務調書に「価額」を間違って記載したらどうなるのか?

前回に続いて、財産債務調書制度の記事です。

 

1.財産債務調書に記載する価額はどのような金額を記載すれば良いのでしょうか?

2.価額が間違っていたらどうなるのでしょうか?価額を低く記載していたり、高く記載していたら問題になるでしょうか?

今回は、これらの点に関する記事です。

 

まず1.の点ですが、法律上、「価額」は、年末における「時価」、又は取得価額や売買実例価額などを基に財産の現況に応じて合理的な方法によって算定した「見積価額」、を記載することになっています。

詳しくは、国税庁の法令解釈通達や「財産債務調書の提出制度(FAQ)」のⅢ(Q19〜)、Ⅳ(Q40〜)が参考になります。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hotei/130329/01.htm

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_faq.pdf

 

もちろん、ここで定められているようにきちんと価額が記載できていたら良いのですが、そうでない場合にはどうなるのでしょうか。

2.の質問に対する基本的な回答としては、価額の記載誤りそれ自体では具体的にペナルティがあるわけではない、ということになるのではないかと思います。

 

前に、提出期限内に提出がない場合、または提出期限内に提出された財産債務調書に記載すべき財産若しくは債務の記載がない場合(重要な事項の記載が不十分と認められる場合を含みます。)に、その財産債務に関する所得税等の申告漏れが生じたときは、その部分の過少申告加算税等について5%加重されることになっていることをご説明しました。

しかし、これをよく読むと、財産債務調書を提出し、そこに記載すべき財産債務及びその重要事項について記載さえしていれば、過少申告加算税等について5%加重されることがないことが分かります。

つまり、価額が多少誤っていたとしても、財産債務の重要事項についての記載がないことにはならないのだとすれば(※もしこの前提が変われば結論も変わります。)、過少申告加算税等について5%加重されることがないということになるでしょう。

 

もっとも、他方で、たとえば額面1億円の債権や債務の価額を1000万円と評価して記載した財産債務調書を提出したような場合であれば、税務署側としては(時価等が1億円であるとの前提で)そもそも残り9000万円については記載がないという解釈のもとで、過少申告加算税等について5%加重を適用してくる余地が事案によってはあるかもしれませんのでご注意ください(可分な財産債務の場合に起こりえる問題点です。)。

 

※そもそも、財産債務調書に記載すらない場合、重要事項が記載されていない場合であっても、その財産債務に関する所得税等の申告をきちんとしていれば、過少申告加算税等が課されないため、5%加重されることもありません。

 

以上のとおりですので、価額を1円でも誤ったらペナルティを受けるのではないか・・・というような不安は抱く必要がないだろうと思います。

お分かり頂けたでしょうか?

 

 

なお、これまで説明した財産債務調書制度によく似たものに、「国外財産調書制度」というものがあります。

こちらの概要は、以下の国税庁のHPを確認しておいてください。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/kokugai_zaisan/index.htm

 

 

以上4回にわたり、財産債務調書制度についてご説明しました。

財産管理のことでご相談がありましたら、クーリエ法律事務所にどうぞ!

財産債務調書を提出すると納税者にもメリットがあります

続いて、財産債務調書制度の記事です。

 

提出期限内に財産債務調書の提出をすると納税者にもメリットがあります。

期限内に調書の提出をしなかった場合とは逆に、過少申告加算税等の軽減措置を受けることができるのです。

 

財産債務調書に記載がある財産債務に関して生じる所得について、所得税等又は相続税の申告漏れが生じたときであっても、その部分の過少申告加算税等について5%軽減されます。

財産債務調書の提出、記載によって、税務署などの調査を容易にすることや、納税者に恩恵を与えて財産債務調書制度を定着させたいという国の考えによって導入されたものではないかと思われます。

 

財産債務に関して生じる所得の意味、内容は、前回の記事をごらんください。

 

こちらの軽減措置は、相続税や亡くなった人の所得税(準確定申告)についても適用されます。

 

しかも、法律上、提出期限後に財産債務調書を提出した場合であっても、その財産債務に関する所得税等又は相続税について、調査があったことによって更正又は決定の処分がされることを予知して提出されたものでないときは、その調書は提出期限内に提出されたものとみなして、過少申告加算税等の軽減措置の特例を適用することとされています。

このような(例外的な)取扱いを見ると、国がいかに財産債務調書制度を定着させたいと考えているのかがよく分かります。

 

このようなメリットもありますので、財産債務調書の提出を忘れていた方、期限後であっても、今からでも提出を検討されてはいかがでしょうか?

 

財産債務調書制度の記事は、さらに次回に続きます。

財産債務調書を提出しなかったら、どうなるのか?

前回に引き続いて財産債務調書制度の話です。

 

さて、財産債務調書を提出しなかったら、どうなるのか?というところが、納税者にとってはまず気になるところでしょう。

 

今のところ、提出漏れについて刑事罰を受けるようなことはありません。

 

しかし、提出期限内に提出がない場合、または提出期限内に提出された財産債務調書に記載すべき財産若しくは債務の記載がない場合(重要な事項の記載が不十分と認められる場合を含みます。)に、その「財産債務に関する所得税等」の申告漏れが生じたときは、その部分の過少申告加算税等について5%加重されることになっています。

 

※これによれば、提出期限内に財産債務調書の提出がない場合などであっても、その財産債務に関する所得税等の申告をきちんとしたときは、過少申告加算税等が課されないので、5%加重もないということになります。過去に財産債務調書の提出漏れ、記載漏れがあったとしても、その財産を隠すのではなく、財産債務調書を期限後提出するか、期限後提出をしなかったとしても所得税等の申告はきちんと行いましょう。

 

なお、ここでいう所得税等の「等」には、相続税や亡くなった人の所得税(準確定申告)は含まれません。亡くなった人が財産債務調書の提出、記載を怠っていたとしても、それを理由に相続人の過少申告加算税等の加重をするのは酷だからでしょう。

 

さて、上記の「財産債務に関する所得税等」とは具体的に何を指すのかというと、以下の所得に関する所得税等です。

 

・財産から生じる利子所得又は配当所得

・財産の貸付け又は譲渡による所得

・財産が株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利等(いわゆるストックオプション等)である場合におけるその権利の行使による株式の取得に係る所得

・財産が生命保険契約等に関する権利である場合におけるその生命保険契約等に基づき支払を受ける一時金又は年金に係る所得

・財産が特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権その他これらに類するもの(以下「特許権等」といいます。)である場合におけるその特許権等の使用料に係る所得

・債務の免除による所得

・上記1から6までの所得のほか、財産債務に基因して生ずるこれらに類する所得

 

したがって、「財産債務に係る所得税等の申告漏れ」とは、財産債務に直接基因して生ずる上記の所得に関して、所得税等の申告がなかったこと又は申告額が過少であったことをいいます。

 

なお、債務に関する所得税の申告漏れとはどういうことか分かりづらいかもしれませんが、債務者が債権者から債務免除を受けたために、債務者に一時所得が発生しているのに、その全部又は一部について申告をしなかったような場合です。

 

大体お分かり頂けたでしょうか。

財産債務調書制度の記事は、さらに次回に続きます。

財産債務調書、提出を忘れておられませんか?

所得税・相続税の申告の適正性を確保するため、一定の基準を満たす方に対し、保有する財産及び債務に関する調書の提出を求める制度が平成28年1月から施行されています。

いわゆる富裕層の方が調書の提出を要することになりますが、提出を忘れておられる方、国から提出を求める連絡をもらって焦っている方はおられませんか?

 

国税庁のHPは以下のリンクからどうぞ。

 

「財産債務調書制度」のあらまし

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_chirashi.pdf

 

財産債務調書の提出制度(FAQ)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_faq.pdf

 

 

さて、どんな場合に調書の提出が必要となるのでしょうか?

 

調書の提出が必要となるのは、以下の3つの条件を満たす人です。

1.所得税等の確定申告書を提出しなければならない人

2.その年分の退職所得を除く所得金額の合計額が2000万円を超えた人

3.その年の12月31日において、価額の合計額が3億円以上の財産又は価額の合計額が1億円以上の「国外転出特例対象財産」(有価証券等、未決済の信用取引等及び未決済のデリバティブ)を有する人

 

提出時期は、翌年の3月15日まで(翌年3月15日が日曜日に当たるときはその翌日、土曜日に当たるときはその翌々日)となります。期限は所得税の確定申告と同じですね。

提出先は、所得税の納税地の所轄税務署長です。

 

財産債務調書制度の記事は、次回に続きます。

相続時精算課税の適用後の贈与税の申告を忘れてはいませんか?

ときどき、相続時精算課税制度を適用した後のことについて質問を受けるので、記事を書いてみました。

 

相続時精算課税制度については、国税庁の「No.4103相続時精算課税の選択」「No.4409 贈与税の計算(相続時精算課税の選択をした場合)」や、当HPの「相続時精算課税制度を利用すると、相続の放棄はできなくなるのか?」の記事もごらんください。

 

さて、本題ですが、ある人からの贈与について、相続時精算課税制度を選択する届出書とともに贈与税の申告をした後に、同じ人から贈与をうけた年は、申告期限内(翌年3月15日まで)に贈与税の申告をすることが必要となります。

 

ここで注意をしなければいけないのは、贈与を受けた金額にかかわりなく、贈与税の申告をしなければならないことです。

相続時精算課税制度の適用を受けることで、累計2,500万円(特別控除額)までの贈与財産については贈与税がかからないことになりますが、累計2,500万円に達していなくても、贈与税の申告をしなければならないのです。

さらには、相続時精算課税制度の選択をしているということは、通常の暦年課税の適用がないことを意味しますので、暦年課税の基礎控除額110万円に達していなくても、贈与税の申告をしなければならないのです。

 

相続時精算課税制度の対象となった贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降は全てこの制度が適用され(暦年課税の適用はありません。)、また、この制度の贈与者が亡くなったときの相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算することになります。

そこで、国税としては、相続時精算課税制度の選択以後、その制度の対象となる贈与者から贈与された時点での贈与財産の評価額及び累計額がきちんと確認できるようにしておく必要があるため、対象となる贈与者からの贈与があった年については、必ず贈与税の申告をするように求めているものと理解されます。

 

贈与を受けた金額が累計2,500万円以下だったから、あるいは少額だったからといって、贈与税の申告を忘れると、その贈与については、特別控除が使えなくなりますので、一律20%での贈与税が課税されます(この贈与税については、最終的には相続時に精算されることにはなりますが。)。

しかも、延滞税、無申告加算税が課されることになります。

 

なお、贈与税の申告を申告期限内にしなかったため、適用を受けなかった特別控除の額は、翌年以降に繰り越すことができるとされています。

 

 

以上のように、相続時精算課税制度を選択した後に、同じ人から贈与をうけた年は、その金額にかかわりなく、申告期限内(翌年3月15日まで)に贈与税の申告をしなければいけないということを、忘れないようにしてください!

遺産分割から抜ける方法、ご存じですか?

法定相続人であっても、親族間の紛争は嫌だ、長い間続いている遺産分割手続から少しでも早く抜けたいとか、裁判所の手続きに参加するのは負担だから抜けたい、などと考える方は少なくないものです。

そんな方は、「相続分の譲渡」や「相続分の放棄」について検討してみるとよいかもしれません。

法定相続人であっても、親族間の紛争は嫌だ、長い間続いている遺産分割手続から少しでも早く抜けたいとか、裁判所の手続きに参加するのは負担だから抜けたい、などと考える方は少なくないものです。

 

そんな方は、「相続分の譲渡」や「相続分の放棄」について検討してみるとよいかもしれません。

 

●まず「相続分の譲渡」について書きます。

「相続分の譲渡」とは、文字どおり相続人が有している自分の相続分を(他の相続人に)譲渡することです(民法905条参照)。

これにより、譲渡人は以後の遺産分割手続に参加する必要はなくなり、譲受人が遺産分割手続の当事者となります。

 

すでに家庭裁判所で遺産分割の手続中である場合には、譲渡後に裁判所に排除決定をしてもらいます(この決定を受けなければ当事者から外れません)。

 

譲渡は、譲渡人と譲受人の有償又は無償の譲渡契約(贈与契約、売買契約等)によって行い、譲渡人は相続分譲渡証書や印鑑証明書(裁判所の手続中である場合には即時抗告権放棄書も)を提出します。

 

なお、相続人以外の第三者に譲渡することも不可能ではありません(後の遺産分割手続きに第三者が参加することになるため、うまくいかなくなるおそれがありますが。)。

 

ただし、譲渡後であっても、譲渡人が法定相続人であること自体に変わりありませんので、相続人として相続税の申告が必要となるほか、被相続人が負っていた債務の法定相続分について債権者から履行を求められればこれを拒絶することもできません(この点は「相続の放棄」(民法939条)とは異なる点です。)ので、被相続人の負債の有無、金額に注意が必要です。

また、預貯金の相続手続きに当たっては、金融機関が法定相続人である譲渡人の署名、押印を求めてくることも多いようです。 

 

相続分の譲渡をする場合は、税金についても注意が必要です。

大まかに言うと、一般に以下のように考えられていると思います(ただし、相続に詳しい税理士への確認をお忘れなく。)。

 

ⅰ 第三者に相続分を無償で譲渡した場合

譲渡人:相続税(相続分に対して)

譲受人:贈与税

 

ⅱ 第三者に相続分を有償で譲渡とした場合

譲渡人:相続税+(譲渡)所得税

譲受人:-(※低額部分があればその部分について贈与税)

 

ⅲ 相続人に相続分を無償で譲渡した場合

譲渡人:-(ただし相続分をゼロとして相続税の申告をする必要あり)

譲受人:相続税(譲受後の相続分全体に対して)

 

ⅳ 相続人に相続分を有償で譲渡した場合

譲渡人:相続税(譲渡対価に対して)

譲受人:相続税(相続分全体から譲渡対価を除いたものに対して)

 

以上の取扱いからすると、第三者へ相続分を譲渡すると税負担が重くなるので、お勧めできません。

 

 

相続分の譲渡をする場合の登記関係について一言ふれておきます。

以下は一般的な考え方によるものです。

 

まず、相続人に相続分の譲渡をした場合について説明します。

 

1)相続分の譲渡前に、法定相続分による相続登記が行われていた場合

・相続分の譲渡者から譲受人に対する持分移転の登記をすることになります。

その後、遺産分割協議によってその不動産の帰属が決まった場合には、遺産分割を原因として取得者に対する持分移転登記をすることになります。

・相続分の譲渡による持分移転の登記をしないうちに、遺産分割協議が成立した場合であっても、相続分の譲渡による持分移転の登記、遺産分割による持分移転登記を順次することになります。

~どちらのケースでも同じことになります。

 

2)相続分の譲渡前に、法定相続分による相続登記が行われていない場合

・相続分譲渡後の持分で直接被相続人からの相続登記をすることができます。その後、遺産分割協議によってその不動産の帰属が決まった場合には、遺産分割を原因として取得者に対する持分移転登記をすることになります。

・相続登記をしないうちに、特定の相続人にその不動産を帰属させる内容の遺産分割協議が成立した場合には、直接被相続人から遺産分割による取得者に対する単独相続登記(相続を原因とする所有権移転登記)ができ、1回ですませることができます。

~ケースによって結論が異なります。

 

次に、第三者に相続分の譲渡をした場合について説明します。

この場合には、どのようなケースでも、法定相続分による相続登記、相続分の譲渡による第三者に対する持分移転登記、遺産分割による持分移転登記を順次行うことになります。

 

以上のとおり、ケースによって必要となる登記の手続きが変わってくることが分かってもらえたかと思います。

 

●次は「相続分の放棄」についてです。

「相続分の放棄」とは、法定相続人の自らの資産である相続分を放棄するものです。家庭裁判所で行われている手続きから脱退をするために利用されています。

自分の相続分を特定の人に譲渡したいという意図がある場合には「相続分の譲渡」を利用しますが、そうではなくて、自らの相続分を自分と同順位の他の相続人で按分してもらえばよいという考えの場合には、こちらの「相続分の放棄」を利用します。

相続分の放棄をすると、他の相続人の相続分は、当初から相続分を放棄した者が相続人ではなかった場合と同じになります。

 

また、相続分の放棄は、相続分譲渡のような契約ではなく、放棄する人の一方的な意思表示で効力が生じる単独行為ですので、放棄する人のみで手続き可能です。

 

放棄をする人は、手続きをしている家庭裁判所に、相続分放棄書、相続分放棄届出書(脱退申出書)、即時抗告権放棄書、印鑑証明書を提出します。

 

ところで、相続分の譲渡と同じく、相続分の放棄をした人も、法定相続人であること自体に変わりありませんので、例えば、被相続人が負っていた債務の法定相続分について債権者から履行を求められればこれを拒絶することはできませんので、放棄前に被相続人の負債の有無、額に注意が必要です。

 

名前がよく似た「相続の放棄」(民法939条以下)の場合は、相続開始を知ったときから3月以内に家庭裁判所に申述して受理されると、相続の放棄をした人は当初から相続人ではなかったものとみなされ、負債を相続することが一切ありません。

 

相続分の放棄は相続の放棄と名前が似ており、混同される方が多いですが、負債の相続の有無について異なっているので、お気をつけください。

 

なお、相続分の放棄の場合の税金は、以下のようになると思われます。

放棄者:-(ただし相続分をゼロとして相続税の申告をする必要あり)

他の相続人:相続税(放棄によって増加した後に取得した相続分に対して)

 

 

 

以上、参考になりましたでしょうか?

 

遺産分割でお困りの方は、当事務所の法律相談に申込みをしてください!

事業承継セミナーの講師をしてきました!


昨日(2018年2月14日)、大阪の南納税協会さんで事業承継セミナーの講師をしてきました。

主に事業承継の法律面に関するセミナーでした。

そのときのレジュメを以下からダウンロードできるようにしました。

エッセンスがぎゅっと詰まっている!?のではないかと思いますので、ご興味のある方は参考にどうぞ。

事業承継のご相談の方は当事務所までご連絡下さい!

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住宅取得等資金の贈与税の非課税制度、知っていますか?(2)

昨年12月6日の記事からの続きです。

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度の注目ポイントの二つ目です。

 

二つ目は、自宅の新築等の契約の締結日が平成31年4月1日から平成33年12月31日までで、対価又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%であるときは、消費税率8%の場合と比べて非課税限度額が大幅に高く設定されている点です。

 

以下の表のとおり、住宅取得資金を贈与したもらった場合の贈与税の額が大幅に低くなるのです。新築等の契約日、対価等の金額、省エネ住宅か否かによって異なるものの、非課税限度額は、消費税率8%の場合の額と比べて最大で3倍以上になることもあります。 

 

1.住宅用家屋の新築等の消費税等が税率10%である場合

住宅用家屋の取得等に係る契約の日

省エネ等住宅

左記以外の住宅

平成3141日~平成32331

3,000万円

2,500万円

平成3241日~平成33331

1,500万円

1,000万円

平成3341日~平成331231

1,200万円

700万円

 

2.上記1以外の場合

住宅用家屋の取得等に係る契約の日

省エネ等住宅

左記以外の住宅

~平成271231

1,500万円

1,000万円

平成2811日~平成32331

1,200万円

700万円

平成3241日~平成33331

1,000万円

500万円

平成3341日~平成331231

800万円

300万円

 

いうまでもなく、消費税10%への増税が平成31年10月1日に予定されていることにあわせて導入される軽減措置です。

 

消費税率が2%アップするのは痛いですが、これだけの贈与税非課税枠があるので、父母・祖父母から子・孫への贈与資金での住宅取得を考えておられる方々は、住宅取得等資金の贈与の時期・額、契約の時期を改めて検討してから判断するのが賢いかもしれません。

検討の際は、予定している住宅等の金額・種類、予定している贈与額に応じて、消費税増税で増加する消費税と、上記の特例で減税される贈与税の額を比較して判断することになるでしょうか。

税理士さんとよく相談してください。

 

さて、2回にわたって、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度について、注目ポイントを説明してきましたが、いかがだったでしょうか。

皆さんの参考になれば幸いです!

法定相続情報証明制度、利用していますか?

昨年(平成29年)から始まった法定相続情報証明制度はご存じでしょうか。

 

これまで不動産の相続登記や金融機関の相続手続きをするときは、その手続きごとに、亡くなった被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人の戸籍一式を提出する必要がありました。

そのため、各地に不動産があったときや、多くの金融機関に口座を持っているようなときには、戸籍一式を何セットも用意する必要がありました。

法定相続情報証明制度の開始により、戸籍一式が、法務局の登記官の認証つきの「法定相続情報証明一覧図」ですむようになったのです。

 

具体的な制度の内容は、こちらの法務省のHP「法定相続情報証明制度について」をご覧ください。

 

 この制度に関する新聞記事によると、概ね以下のような状況にあるそうです。

・証明書の発行枚数は制度開始後半年で約20万枚(利用者は10万〜20万人)

・金融機関でも証明書を使った手続きが増えている

・証明書は家庭裁判所の遺産分割調停や相続放棄の手続きに利用できる

・証明書は現在のところ、相続税の申告の添付書類としては使えない(証明書では実子、養子を区別しないが、相続税では区別の必要があるため)

 

これによると、この制度は徐々に浸透してきているようですね。

戸籍の収集をはじめ、相続手続きに分からない点がある方は、当事務所の法律相談に申込みをしてください!

中小企業の非上場株式の相続税等について100%猶予の特例ができるか!?

先日、平成30年度の税制改正大綱が発表されました。

その中で個人的に注目しているのが、中小企業の非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の特例の導入です。

従来からあった制度の特例ですが、大幅に課税が緩和される可能性があるので、朗報といえます。

 

現行の納税猶予制度は大まかに言うと、中小企業の代表者から相続、贈与を受けた後継者である筆頭株主(1名)について、発行済株式の3分の2を限度に80%相当の相続税等の額(つまり最大約53%の株式の相続税等相当額)について、納税を猶予するという制度です。

この猶予が認められるための条件、猶予が打ち切られる場合、免除が認められる場合の要件などについて法令で細かい規定がたくさん定められています。

例えば、納税猶予が認められた場合でも、申告期限後5年間の平均で従業員の雇用を8割維持できなければ、納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額を支払わなければならないことになっております。

詳しくは、こちらの国税庁のHPをごらんください。

 

さて、もし今回の税制改正が実現すると、特例により、後継者である株主(同族関係者を含めて最大3名まで)について、最大で、全株式100%の相続税等相当額の納税を猶予することができるようになります。

また、この特例では、申告期限5年間平均で従業員の雇用8割維持という条件を満たさなくても、納税猶予が打ち切られない予定です。

その他、猶予税額についても免除される場面が広がるものと思われます。

 

なお、今回の税制改正大綱によると、今回の特例だけでなく、現行の制度においても、後継者が代表者以外の者から株式を贈与等により取得した場合でも、一定の要件を満たすときは、納税猶予制度の対象とする予定となっています。

 

 

ただし、今回の特例は、平成30年から平成39年までに相続、贈与が行われる場合に適用されるという10年間の期限付きとなっています。

国が、この期間内の相続税、贈与税の負担を軽くすることで、この間に次の世代への事業承継が円滑に行われるように、後押ししているということです。

 

実際のところ、今回の特例が正式導入されるのかどうかはもちろん、正式導入されるときに要件がどこまで緩和されて、実際に使いやすい制度になるかどうかについて、今後も注目です!

 

事業承継のことでお悩みの方は当事務所にご相談ください!

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度、知っていますか?(1)

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度は、ご存じでしょうか?

平成27年1月1日から平成33年12月31日までの間に、父母や祖父母など(直系尊属)からの贈与によって、居住用の自宅の新築、取得又は増改築等(以下「新築等」とします。)の支払いのための金銭(以下「住宅取得等資金」とします。)を取得した場合に、一定の要件を満たせば、一定の非課税限度額まで贈与税が非課税となる制度です。

 

詳細は以下の国税庁のHPでご確認ください。

https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/sozoku/pdf/jutaku27-310630.pdf

 

「No.4508直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」

https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4508.htm

 

さて、この非課税制度について特に私が注目しているポイントをあげていきます。

 

一つ目は、この非課税制度を使った後さらに、通常の暦年課税の場合には贈与税の基礎控除 (110万円)を、また相続時精算課税制度を利用している場合には特別控除(2500 万円)をすることができる点です。

 

「消費税8%」の新築等の場合、現在であれば、通常の暦年課税においては、最大1200万円(省エネ等住宅の場合)+110万円(基礎控除)=1310万円まで贈与税が非課税となり、相続時精算課税制度を利用する場合には、最大1200万円(省エネ等住宅の場合)+2500万円(特別控除)=3700万円まで贈与税が非課税となります。

 

「消費税10%」の新築等の場合、通常の暦年課税においては、最大3000万円(省エネ等住宅の場合)+110万円(基礎控除)=3110万円まで贈与税が非課税となり、相続時精算課税制度を利用する場合には、最大3000万円(省エネ等住宅の場合)+2500万円(特別控除)=5500万円まで贈与税が非課税となります。

 

なお、相続時精算課税には特例があり、平成33年12月31日までに、父母又は祖父母から、自分の居住用の自宅の住宅取得等資金について贈与を受けた場合で、一定の要件を満たせば、贈与者がその贈与年の1月1日に60歳未満である場合であっても相続時精算課税を選択することができることになっています(通常の相続時精算課税制度では、贈与年の1月1日において贈与者が60歳以上であることが必要です。)。

 「No.4503相続時精算課税選択の特例」

https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4503.htm

 

次回に続きます。

被相続人が固定資産税の数倍の金額を支払っていても使用貸借であるとした裁決

今回は、平成29年1月17日裁決の紹介です。

この裁決は、土地上に建物を有していた被相続人が、その土地の所有者に地代として支払っていた金銭(以下「本件金員」とします。)の額が、その土地の固定資産税等年税額を超えていたものの、被相続人がこの土地上に借地権を有していたとは認めることはできないとして、税務署長の処分を全部取り消したという納税者完全勝訴の裁決です。

 

審判所は、以下のような判断をしました。

・被相続人が昭和56年に本件土地の使用収益を開始した当時は、使用貸借契約に基づくものであったと認められ、平成2年に請求人が本件土地を相続により取得した後、被相続人から請求人に対する本件金員の支払いが開始されたのが平成6年であるから、請求人は平成2年に被相続人の土地に関する使用貸借契約の貸主の地位を承継したものといえる

・本件金員の支払開始に当たり、請求人と被相続人との間で契約書が作成されたなどの事情は見当たらず、証拠を見ても本件金員の支払開始の経緯、動機、本件金員の算定根拠が明らかではないこと、被相続人と請求人は親子であり、本件金員の支払が開始された当時、請求人が未成年者であったことを併せ考慮すると、本件金員の支払が開始されたことをもって、賃貸借契約に変更されたとみることはできない

・本件相続開始時においては、本件金員の年額が、本件土地の固定資産税等年税額の約〇倍であったものの、このような事情のみでは、本件金員が、本件土地の使用収益の対価であると認めるに足りず、被相続人による本件土地の使用収益は使用貸借契約に基づくものであったと認めるのが相当であり、被相続人が本件土地上に借地権を有していたとは認めることはできない。

 

 

さて、元国税審判官の弁護士としては、納税者勝訴事案が増えることは良いことだと思っていますが、本件では、審判所はなかなか思い切った判断をしたように思います。

たしかに、金銭の支払いがされていても土地使用の対価とまで認められなければ、有償の賃貸借契約ではなく無償の使用貸借契約であるというのが法律論なのですが、本件では固定資産税年額の数倍が支払われていたわけですので、なかなか難しい判断だったのではないかなと思います。

過去に遡った事実認定や法律論を重視したところをみると、弁護士が国税審判官(任期付公務員)として関わった事案なのかな?などと憶測しました。

 

いずれにせよ、税務署長(国)はこの裁決を不服として裁判を起こすことができないため、本件はこれで確定となります。

節税目的の養子縁組でも有効ですが税務上は否認されるかもしれません

今回は、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、その養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとした最高裁判決(平成29年1月31日第三小法廷判決)のご紹介と注意点を記載しました。

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預貯金に関する最高裁の判例変更が過去の遺産分割へ与える影響は?

報道されておりましたとおり、平成28年12月19日に、最高裁が従前の判例を変更して、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権がいずれも遺産分割の対象となるとの初めての判断を示しました。

相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとの従前の最高裁の判断を変更したものです。

今回の最高裁判例の内容はこちらの最高裁のサイトをご覧ください。

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事業承継に伴う株価対策について(第1回)

所有財産の中に、上場していない同族会社の株式が含まれている会社のオーナーやその相続人にとって、その株式の評価額がいくらになるのかは、相続(相続税)の関係上、非常に重要な問題となることが多くあります。

中小企業、同族会社の非公開株式は、第三者への売却もままならず、換金が容易ではないうえ、実際には手放せないケースも多いにもかかわらず、会社の収益・財務状況によっては非常に多額の評価額がついてしまい、相続税が多額になったり、株式を集中的に相続せざるを得ない会社後継者が現金など株式以外の財産を十分に相続できないという事態が発生してしまうことが多々あるからです。

そこで、相続対策の一環としての非公開株式の株価対策(評価額低下のための方法)にどのようなものがあるのか、次回以降、簡単にご紹介していきたいと思います。

 

今回は、その前提として、まず相続税の世界で、株式評価がどのような方法で行われているのか、簡単にご説明しておきましょう。

非公開株式の相続税実務における評価方法は、相続税の財産評価基本通達(178以降)に詳しく定められています。これは通達ですので、この通達に従った評価額が絶対的に正しいというわけではありませんが、通達に従った評価額であれば税務署からは否認されなくなるため、実務上の基準となっているわけです。

この通達にしたがいますと、株式の評価は、類似業種比準価額方式、純資産価額方式、これらの併用方式、配当還元価額方式のいずれかによることになりますが、一般の事業会社において、株価対策が必要となるような、株主の中で支配的な地位にある株主の株式については、通常、およそ以下のような基準で評価されることになります。

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遺言書があっても、それと異なる内容の遺産分割をすることができます

遺言書がある場合、法定相続人や受遺者らが話し合い、遺言書と異なる内容で遺産分割協議をすることができるのでしょうか。また、相続税以外に贈与税までかかったりしないのでしょうか?

一般的には、自分の権利を譲渡したり放棄することは自由であるため(私的自治の原則)、法定相続人や遺贈を受けた者(受遺者)らが全員同意するのであれば、(遺言にしたがって取得する権利を放棄した上で)改めて遺言書と異なる内容の遺産分割をすることも可能です。税務上も、遺言書による相続とは別の贈与、譲渡、交換などがあったものと認定して、相続税に加えて贈与税や所得税がかけられる可能性は低いといわれています。

ただし、以下のとおり、遺言執行者がいる場合には、状況が若干異なり、税務上も注意が必要となります。

遺言書で指定された遺言執行者が就任し、または家庭裁判所に遺言執行者が選任されると、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務が遺言執行者に帰属します(民法1012条)。また、『遺言執行者がある場合』(※遺言書で執行者として指定を受けた者が「就任を承諾する前」もこれに含まれますが、「就任を承諾しなかった場合」はこれに含まれません。)には、相続人は、相続財産の処分その他遺言執行を妨げる行為ができないとされていますので(民法1013条)。そのため、遺言執行者がいる場合には、相続人らは遺言書と異なる内容の遺産分割協議はできないのではないか(無効となるのではないか)、という点が問題となります。

 

ですが、以下のような場合には有効となると考えられております。

①遺言執行者が遺言書と異なる内容の遺産分割協議について同意、追認した場合

遺言執行者は、遺言書の内容をそのまま実現できない場合やそれが適当でない場合には、遺言の趣旨を害さない範囲で相続人らと協議し、修正した内容で執行することもできるため、遺言執行者が同意、追認した場合には、その遺産分割協議も有効とされています。

②遺言の内容が特定の財産の遺贈(特定遺贈)である場合

特定遺贈については受遺者がいつでも放棄できるので、受遺者の遺贈放棄によって、遺言執行者において特定遺贈の執行ができなくなり、遺贈の対象となった財産は相続人らが共有する遺産に復帰し、改めて相続人らの遺産分割協議の対象となるため、遺言書と異なる内容の遺産分割協議をしているように見えても、遺言執行者の権限を妨げることにならず、有効となります。

(また、以上のような場合でなくとも、そもそも個人間での交換や贈与は当然自由なので、遺言執行者の同意、追認なしに遺産分割協議をしても、③遺言の内容を事後的に変更したものとして、その遺産分割協議が有効になる余地がある、ともいわれているようですが、この点は明確ではありません。)

 

税金面では、以下のように考えられるのではないかと思います。

①の場合、遺言執行者がいない場合(の「遺言書と異なる内容の遺産分割」)と状況があまり異ならないので、相続税に加えて贈与税や所得税がかけられる可能性は高くはないと思われます。

②の場合には、遺贈の放棄後、相続人らの遺産分割協議によって相続人らは遺産を取得したことになるので、相続税以外に贈与税や(譲渡)所得税が課される可能性は低いと思われます。

その他の場合には、税務署が、遺言執行者がいる限り遺言と異なる内容の遺産分割協議はできないので、それは「遺産分割協議」ではなく、遺言による相続後に「別個の交換、贈与」がなされたものと理解して、相続税に加えて、贈与税や所得税がかけられる可能性が理論上あることは否めないのではないかと思われます。税務署には、どのような結果で遺産が分割されることになったとしても、相続税の総額がきちんと支払われるなら厳密な法律論はあえて気にしない、それに加えて贈与税や所得税を重ねてかけたりはしない、という実務感覚があるように思いますが、上記のような課税の可能性が理論上はあることに一応ご注意を!

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相続、事業承継セミナーの講師をします!

10/14,10/28の2日間にわたって、南納税協会主催の相続、事業承継セミナーの講師をつとめさせて頂きます!

場所は大阪社会福祉会館です。


計6時間の長時間ではありますが、私と相続税などの資産税が専門の税理士(国税OBの方です)の二人でやらせて頂くので、なんとか飽きずに聞いて頂けるかと思います。


14日分はレジュメの作成も何とか終了しました。28日分も今から作成しないと! 

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相続預金に使途不明の出金がある場合に、その使途不明金は遺産分割の対象となるのか否か?

遺産分割の対象となる財産は、亡くなった被相続人がその時点で有していた財産のみです。

ですが、相続人が亡くなった被相続人の預金の履歴を調べてみると、生前に、被相続人の生活状況からすると不自然な時期での多額な出金(一般的に「使途不明金」と言われています。)が見つかり、被相続人と同居したり、その看護をしていた一部の相続人が勝手に出金をして懐に入れてしまったのでは?という疑いが発生することが時々あります。

このような場合、他の相続人にとっては、死亡時の預金しか遺産分割の対象とならないとすると不公平であるため、その「使途不明金」も遺産に戻して遺産分割の対象とすべきだ、というような主張がされることになりますが、このような主張は通るのでしょうか?

色々なケースに分けて考えてみましょう。

  1. 前提として、その「使途不明金」について、亡くなった被相続人が自らのために出金していたことが立証された場合には、そのような主張は当然通りません。なお、出金当時、被相続人の判断能力に問題がなかったような場合には、被相続人が自らのために出金した可能性がある以上、遺産分割協議においてそのような主張は通らない可能性が高くなります。

  2. また、その「使途不明金」について、被相続人が一部の相続人から貸りていたお金を返済したものであるとか、立て替え払いをしていた一部の相続人にその支払いをしたものと立証された場合にも、そのような主張は通らないことになります。

  3. 次に、その「使途不明金」が、被相続人が自らの意思で一部の相続人に対して贈与したものと明らかになった場合には、その一部の相続人は「特別受益」を受けたことになりますので、計算上、使途不明金も相続財産に加えて相続人らの相続分を算定した上で、特別受益を受けた一部の相続人はその分について既に遺産の前渡しを受けていたものとして扱われることになります。
    したがいまして、基本的には、他の相続人の主張が通ったのと同じような形になります。
    なお、特別受益の有無について争いがある場合でも、家庭裁判所での遺産分割の調停や審判の中で最終的に解決されることになります。

  4. さらに、その「使途不明金」が、被相続人の意思によらずに、一部の相続人が無断で出金したもの(※被相続人が後に、出金されたお金を相続人のものとすることについて追認した場合には、3.のケースになります。)と明らかになった場合には、被相続人は死亡時点でその相続人に対して、「不法行為に基づく損害賠償請求権」や「不当利得返還請求権」といった金銭の請求権を持っていたことになり、これが被相続人の遺産に含まれていると考えられます。
    ただし、ここで注意をしなければならないのは、最高裁判所の判例では、こういった金銭の請求権は、死亡と同時に相続人らに法律上当然に分割され、相続分に応じて権利承継されることになっているため、原則として遺産分割協議の対象とならないところです。
    ですから、相続人全員が上記の請求権を遺産分割協議の対象とすることに合意した場合には、他の相続人の主張通り遺産分割協議の中で請求権を遺産として分配することが可能となるものの、そうでない場合には、他の相続人は各自、上記の請求権の自分の相続分について、遺産分割協議とは別に、出金をした一部の相続人に対して民事で支払いを求めていくことになり、場合によっては調停や裁判を要することになります。

 

さて、以上がおおまかな整理ですが、実際には、そもそも上記のどのケースに当たるのかの立証自体が困難なケースが多いのではないかと思います。

事実関係を明確にするための証拠が不十分であるのに、「使途不明金」にこだわり続けてしまうと、最終解決までに要する期間が必要以上に長期化してしまいます。最終的には、使途不明金について目をつぶり、死亡時の預金額で遺産分割をせざるを得ないケースもかなりあるのではないでしょうか。

 

「使途不明金」については、冷静に先の展開を予測して判断していく必要がありますので、専門家に相談されると良いでしょう。

当事務所へのご相談を希望される方はこちらからどうぞ!

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限定承認、本当にしますか? まずは法律と税金の専門家にご相談を。

親は財産をある程度残してくれているけど、財産を上回る借金があるかもしれないとか、多額の保証債務があるが将来支払いを請求されるかどうかは分からないというような場合なら、限定承認をすれば良い、そんなアドバイスを聞いたことはありませんか?

もちろん、まちがったアドバイスというわけではありますが、実際に限定承認するかどうかは一度よく考えてからの方が良いかもしれません。限定承認には注意すべき点がいくつもあり、一般の方がイメージする手続きと異なっていたり、専門家の手助けなしに実行するのが簡単ではない場合があるからです。

 

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最高裁判決、投資信託の預かり金は一部の相続人による法定相続分の支払請求ができない

最高裁は平成26年12月12日、一部の相続人が、故人の投資信託に関して発生し、故人の証券口座に入金された預かり金(元は収益分配金や元本償還金)について、相続人自身の法定相続分3分の1の払戻しを証券会社に求めた訴訟において、「上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の1人は、上記販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができない」と判断しました。

最高裁の判断の流れは、以下のようなものです。

共同相続された委託者指図型投資信託の受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく(最高裁第三小法廷平成26年2月25日判決)、元本償還金や収益分配金の交付を受ける権利はこの受益権の内容を構成するものなので、共同相続された受益権につき、相続開始後に発生した元本償還金又は収益分配金が預り金として販売会社の被相続人名義の口座に入金された場合にも、預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の1人は、販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができない、というものです。

 

この判決が出るまで、投資信託については、法定相続分の解約・払戻しができるか否かなどの点について、証券会社の取扱いや裁判所の判断も別れていたところですが、この判決により、実務上、相続人間で遺産分割について話がつかない場合に、故人の投資信託について、一部の相続人が自己の法定相続分だけの解約金や預かり金の支払を求めても証券会社はこれに応じない、という扱いが一般化するのではないかと思われます。

つまり、投資信託については、預かり金も含めて、相続手続きに全員の合意、遺産分割協議の成立が必要ということになりますね。

なお、今回の判決の事例は委託者指図型投資信託に関するものでしたので、それ以外のタイプの投資信託でも同じ結論となるのかは分かりませんが、今回の判決文の内容からすると、投資信託の種類・内容にはあまり左右されないのではないかとも考えられるところです。

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相続放棄について注意すべきこと

相続放棄について注意すべきことは色々ありますが、以下の点については特にお気をつけ下さい!

  1. 相続放棄をするには必ず家庭裁判所への申立てが必要です。
    関係者に相続放棄の意思を伝えるだけでは相続放棄にならず、負債を相続してしまいますので、ご注意を。
    最悪、遺産分割で資産を全くもらわなかった人が、負債だけを相続してしまうという事態になりかねません。
    なお、相続分皆無証明書の利用にはご注意を(詳しくは以前の「相続分なきことの証明書って何?」の記事をご覧ください)。

  2. 相続放棄の手続前に、相続財産の一部を処分してしまうと、民法上、相続を承認したものとみなされて(法定単純承認)、相続の放棄ができなくなります。相続財産の処分に当たるか否かはときどき問題となります。
     悩ましいのは、故人の預金口座から葬祭費用等を支出するようなケースでしょうか(結論的にはセーフ=相続放棄OKになることが多いと思いますが。)。可能ならば避けた方がよいということにはなりますね。

  3. 相続をするのか、放棄するのかは、原則として、「相続の開始(=死亡)を知った時」から3か月以内の「熟慮期間」にしなければならず、相続放棄をせずに熟慮期間をすぎてしまうと相続を承認したものとして、以後、相続放棄ができなくなってしまいます。そのため、死後3か月以上経ってからする相続放棄の申立てをする場合には、「相続の開始(死亡)を知った時」がいつかが問題となります。

  4. 亡くなった人とは遠く離れて暮らしていたため財産や負債の状況がよく分からず、調査のために時間がかかるような場合、熟慮期間については、家庭裁判所に延長を申し立てることも可能ですので(必ず認められるわけではありませんが。)、熟慮期間が経過する前にこの申立てをすることを検討した方がよい場合があります。

  5. 相続の放棄をした人は最初から相続人ではなかったことになります。
     他の同順位の相続人あるいは次順位の相続人(その相続放棄によって新たに法定相続人となる場合があります。)がいる場合は、その人たちが資産も負債も相続してしまうことになるので、誰も負債を相続しないようにするためには、全ての法定相続人(包括遺贈を受けた人を含みます。)が同時に又は順次、それぞれの熟慮期間内に相続の放棄の手続きを取っていくことが必要となります。
     ですので、その前提として、全ての法定相続人の調査・確定が必要となります。

  6. なお、相続時精算課税制度を利用しても、相続の放棄はできます。

  7. また、未成年者が相続放棄の申立てをする場合などには、特別代理人の選任が必要となるときがあります。

相続放棄でお悩みの方は、当事務所にご相談下さい!

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遺産の調査をしたい!そんなときは

相続人の一人が遺産を全て握っており、他の相続人が遺産の内容を知りたくても教えてくれない、そんなケースが多くあります。典型例は、亡くなった親の実家の近くに住んで親の身の回りの世話をしていた子どもが、家を出て遠方に住んでいる他の兄弟には全く遺産の内容を明かさない、といった場合です。


こんなときに、他の相続人は遺産の開示を求めたいと考えられるわけですが、なかなか応じてもらえないことが多いものです。実は、相続人が他の相続人に対して遺産の内容等を開示する義務を負っている(法律上の開示・報告請求権がある)といえるだけの法律上の根拠も直接的には見当たらないのです。

では、他の相続人はどうすべきでしょうか?

すばり、自分たちで遺産やそのヒントを探していかなければならない!のです。

 

  • 公正証書遺言が存在しているかどうかは、全国どこの公証役場でも探せるはずです。まずはこれを探してみましょう。遺言書には遺産の詳細についても載っていることもあります。
  • 不動産については、固定資産税の納税通知書(固定資産評価証明書)、市町村の名寄帳、法務局の地図・登記簿などから特定していきましょう。
  • 預貯金については、特に死亡時や過去の住居の近くや交通の便のよい場所にある金融機関に問い合せ、戸籍など所定の必要書類を提出して、相続人として口座の残高や履歴、貸金庫の有無などについて開示を求めましょう。
  • 証券会社については、心当たりのある会社に相続人として問合せ(照会)してみましょう。
  • 保険は、預貯金の取引履歴から保険会社を特定して照会するか、保険協会に対する弁護士会照会などの方法で調べましょう。
  • 負債については、信用情報機関(銀行系、消費者金融系、信販会社系)に登録されている信用情報の開示を求めましょう。

    ※車については、ナンバーや車種が分かっていれば、弁護士会照会で車の登録事項証明書は取りつけられます。
    ※退職金については、勤務先への問合せ(照会)をしてみましょう。

以上の作業はある程度、相続人ご本人でもできます。

ですが、手続きのために各所への問合せ、資料の準備・手続などで時間を取られるのを避けたい、調査をより確実に行いたいということであれば、弁護士などの専門家に依頼することも考えられます。

そもそも、遺産の開示を行わない相続人がいるようなケースでは、遺産分割協議でもめる可能性も高いわけですから、遺産調査から引き続いて遺産分割協議、調停、審判までの手続きを一貫して弁護士に委任されることが適切な場合が多いといえるのではないでしょうか。

弁護士の場合、弁護士会照会という調査手法もありますし、遺産分割調停・審判の代理人になることもできます。


当事務所でもお引き受けしておりますので、費用等については「遺産の調査」のページをご覧ください!

 

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生まれる前の胎児も相続できる場合があります

ご存じですか、生まれる前の胎児も相続人となれる場合があります。

民法第886条1項は、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と規定しています。そのため、胎児の親が胎児出生前に死亡した場合であっても、その相続との関連では、胎児は既に生まれた子どもとして取り扱われ、相続人となることができるのです(もっとも、不幸にも生まれてこなかった場合には,当初から相続人ではなかったことになります。)。 これを知らずに(忘れて)、胎児を相続人に含めずに、出生前に遺産分割協議をしてしまった場合、その協議はどうなるのでしょうか。

一部の相続人のみでなされた遺産分割協議は基本的に無効となりますので、胎児を除いてなされた遺産分割協議は、後に胎児が出生した場合には、無効になると一般的には理解されています。そうすると、出生前に遺産分割協議をしても無駄になってしまう可能性があるので、出生前に遺産分割協議をするのは控えた方が無難、ということになります。

とはいえ、相続税の申告期限は、死亡を知った日の翌日から10か月以内ですので、申告の必要がある場合、出生後は速やかに遺産分割協議から申告・納付までを終えなくてはならないことになります(遺産分割協議がまとまらない場合,間に合わない場合には、とりあえず法定相続分で申告・納付をすることになります。)。

考えてみると、過去になされた遺産分割協議でも、専門家が深く関わっていないものなどは、胎児に相続人の資格があることを前提にせずになされてしまっているものが結構存在するのかもしれませんね。


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特定の相続人に「相続させる」旨の遺言と代襲相続

一定の相続財産を相続人の「○○に相続させる」とする遺言については、最高裁が、特段の事情のない限り、遺産分割の方法が指定されたものと解すべきで、対象となる遺産は、死亡時に何らの行為を要せずに、直ちに相続により一般承継される旨の判断をしており、「遺贈する」とする遺言と比べて、取得者が単独で所有権移転登記ができる、登録免許税が安い、登記前でも取得者は第三者に権利主張ができる、借地権・借家権の承継についても地主・大家の承諾がいらない、などのメリットがあるため、実務上多用されていますが、この「相続させる」遺言をするに当たっては、以下の点に気をつけて頂きたいと思います。

それは、この「相続させる」遺言によって承継することとされた相続人(予定者)が、遺言者よりも先に(同時も含みます。)亡くなっていた場合には、特段の事情がない限り、その相続人(予定者)の子供らに「代襲」相続はされないと最高裁が判断しているという点です。

そのため、このような場合に、相続人(予定者)の子供らに代襲相続をさせたいならば、基本的にはその旨をきちんと遺言書に記載しておく必要があるわけです。

相続人(予定者)が亡くなった時点で、その子供らに(代襲)相続させる旨の遺言書に書き換えれば良いとも考えられますが、書き換える時間や判断能力がない場合に備えて、また書き換えの手間・費用も考慮して、予め遺言書に代襲相続についても記載しておくことをお勧めします。

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意外な課税(1):贈与した側が贈与税を納付しなければならない場合がある!

さて皆さん、贈与税は基本的に贈与を受けた側が支払うもの、ですよね。

ところが、贈与を受けた側が贈与税の納付をしなかった場合には、なんと贈与をした人もその納税義務を負担することになってしまうのです。これを連帯納付義務といいます。

 

相続税法第34条《連帯納付の義務等》第4項は、「財産を贈与した者は、当該贈与により財産を取得した者の当該財産を取得した年分の贈与税額・・・に相当する贈与税について、当該財産の価額に相当する金額を限度として、連帯納付の責めに任ずる。」 と規定しているのです。

税の徴収のためとはいえ、贈与税の連帯納付義務という制度は一般人にはなかなか理解しがたい制度ですよね。しかも、弁護士としては、連帯納付義務については正面切っては争いようがないケースがほとんど、というのが正直なところです。

 

しかも、連帯納付義務の負担には贈与税の延滞税などの附帯税まで含まれてくるので、贈与後長年が経過して、贈与税の額が膨らんだ後に突然税務署から通知があって、贈与者がその全額について連帯納付義務の履行を求められることになりかねません。

ですから、贈与をするときには、贈与を受けた人が確実に納税をしたかをきちんと確認しておいた方が良く、場合によっては贈与時点で代わって納付した方が良い場合すらあります。不動産などの資産を贈与する場合に、納税資金の現金も合わせて贈与する方法をとられる方もおられます。

 

皆さんも、贈与税が発生する贈与をするときは、連帯納付義務についても考慮に入れておいて下さい!

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平成27年から相続税の発生件数が1.5倍に!相続税対策はすんでますか?

  前回の記事に続いて相続税の話題です。

 

  国税庁の「平成24年分の相続税の申告の状況について」というHPによると、この年の死亡者数約 126 万人のうち相続税の課税対象となった人の数は約5万2千人であり(その割合は 4.2%)、死亡者1人当たりの相続財産の価格は2億557万円であるとされています。

 さて、平成27年1月1日以降に開始した相続については、相続税の基礎控除額が従来の6割に大幅減少となります。

たとえば、妻と子供2人が相続人に当たるという場合、従来なら基礎控除額が8000万円だったのに、平成27年からは4800万円しかなくなりますので、相続財産が4800万円~8000万円ほどあるという方は新たに相続税が発生する可能性が発生したことになります。つまり、保有資産が、不動産が2500~3000万円、預貯金や株式などの金融資産が合計3000万円というような「多少生活に余裕のあるご家庭」の方であれば、相続税の負担が発生する可能性があることになってしまったわけです。 

  基礎控除額の大幅減少に伴い、上記の相続税の課税対象となる人の割合が4%から6%ほどに増えるといわれております。以前から比べると50%も増えるわけですが、他方で、全体の2%しか増えないのか、それなら自分は関係ないのではないかとお思いの方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、これまで一人あたりの相続財産の価格が2億円を超えていたということから分かる通り、今まで相続税がかかっていた層の人はいわゆる富裕層の人が多く、税理士さんと相談して相続税対策もそれなりにしてきた人が多く占めていました。

 これに対して、新たに相続税がかることになる方々には、自分たちは富裕層ではないと認識しておられる方や(プライベートでは)税理士さんとの付き合いがないという方が多いため、相続税対策の必要性の有無についてきちんと認識しておられない、あるいはある程度は認識していても実行を後回しにしている方がたくさんいらっしゃるように感じます。

 相続税対策をしておけばさきほどの2%に入らなくてもすむかもしれませんし、入るとしても不要な相続税を払わずにすむかもしれません。後になって後悔することにならないように、また安心して今後の生活を送れるように、相続税対策は急いでしておくべきでしょう。相続税は多分かからないと思うという方でも、税務相談をして確認しておくべきだと思いますし、相続税対策が必要な場合に一定の費用がかかったとしても、それに見合う以上の経済効果が得られるのが通常です。

 

 まずは専門家に相談をしましょう!

 

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相続税の調査はいずれやってくる!

国税庁のHPには「平成24事務年度における相続税の調査の状況」がのっています。

これをみると、「実地調査の件数は12,210件、このうち申告漏れ等の非違があった件数は9,959件で、非違割合は81.6%(平成23事務年度80.9%)となっています。」との記載が。

相続税がかかる件数が年間約50,000件ですから、かなり高い確率(約4分の1)で税務調査が行われ、しかも調査が行われてしまうと8割以上の確率で相続税の追徴が発生することになっていることが分かります!

しかも、このHPには「追徴税額(加算税を含む。)は610億円(平成23事務年度757億円)で、実地調査1件当たりでは500万円(平成23事務年度549万円)となっています。」とも記載されています。

先ほど8割以上の確率で追徴が発生すると書きましたが、その金額は税額にして500万円以上という恐ろしい結果が!

 

今回は特に平成24事務年度をあげて説明していますが、例年その状況はさほど変わらないといって良いと思います。

このような調査の状況からすると、いずれは相続税の税務調査を受けるんだという意識で臨むことが必要です。ですから、許容範囲を超えた極端・危険な相続対策はしないこと、相続財産を漏らさずに適切に申告をしておくこと、そのために予め資料をきちんと整理・保存しておくことが大切だと考えられます。

 

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子どもら名義の預金の取扱いにはご用心

 昔から、親が相続対策の一環?で生前に子どもなどの名義で預金をしておくことがあります(なお、現在は金融機関での本人確認が厳しくなっているので、親が勝手に新たにこのような預金口座を作るのは以前より難しいと思います。)。

しかし、このような方法を取っていても、その預金が親の相続財産から外れるとは限りません。名義は子どもら名義でも実際には未だ親の財産であると税務署から認定され、相続税の対象財産(相続財産)とされることが度々あるからです。

さて、こういったことにならないようにするためには、きちんと子どもらへの贈与という形を取り、子どもらに預金の存在をきちんと知らせて自分のものとの認識を持っておいてもらうことや(税務署の調査があった場合には、親から贈与を受けていると回答してもらう必要があります。)、預金通帳や印鑑などを子どもらに渡しておくことなど、実態としても親の相続財産から外しておくための措置が必要だと考えられます。

 

子どもらの贈与税の観点からは、課税を完全に避けたいのであれば、毎年子供らそれぞれに対して贈与税の基礎控除額110万円の範囲内で贈与(口座への振込)をすることが必要となりますが、あえて多少の贈与税の申告・納付をして公的な証拠を残すという方法も考えられます(将来の相続税の減税という観点からも望ましい場合があります。)。

なお、毎年一定額(たとえば110万円など)の贈与をする場合に注意すべき点としては、最初の年に将来分も含めて贈与があったもので単にその支払いを分割で毎年しているにすぎないというような認定を受けることがないようにしなければなりません。仮にこのような認定を受けると、最初の年に全額の贈与があったものとされるため、税率が高くなってしまいますし、毎年の基礎控除を生かすことができず、子どもらの支払う贈与税が多額になるおそれがあるからです。ですから、毎年毎年、改めて贈与契約を行い、契約書を作成・保存するのが望ましいといわれているわけです。

 

もっとも、相続開始前3年以内の贈与財産については、法律によって相続財産とみなされて相続税が課されることになっていますので、この場合は、相続税の申告漏れに注意して下さい。なお、相続財産とみなされたものについて以前に支払った贈与税があれば、その分は相続税の額から差し引くことができます。

 

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包括遺贈の遺言をする場合の注意点

遺言をこれからしようとする際に、法定相続人が兄弟姉妹だけだと、遺留分(相続人が最低限相続を保障される分)を持つ相続人がいないことになるので、法定相続人以外の人たちに全財産を渡したいというような場合、その人たちに全財産を遺贈する内容の遺言をしておくことによって、死亡後、基本的にはその意思通りの遺贈がされます。遺言が非常に高い効果を発揮するケースだといってよいでしょう。

そういった場合、被相続人は遺贈を受ける人たちに対して、自分の全財産の全て又は2分の1ずつなどの一定割合で包括的に遺贈(包括遺贈)する内容の遺言をすることになるわけですが、包括遺贈については民法994条・995条に注意しなければなりません。

 

というのは、これらの規定によると、被相続人が死亡した時点で、包括遺贈の対象者(包括受遺者)が先に死亡していた場合、その遺贈は効力が生じず、結局、包括遺贈をするはずだった分は法定相続人に相続されることになっているのです。受遺者には代襲相続(法定相続人の代わりにその子孫が財産を取得すること)のような制度もありませんので、包括受遺者の子供たちにも引き継がれることはありません。

兄弟姉妹はいるが疎遠なので、是非とも非常に世話になった知人2名にすべての財産を(2分の1ずつ)遺贈したいというような場合に、遺言者よりも先に一方の受遺者が死亡した場合、その2分の1は他方の受遺者ではなく、法定相続人の兄弟姉妹に引き継がれることになると、遺言者の意思が完全には果たせなくなってしまいます。

 

しかし、そういったときのことも考えて、民法995条には「ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」との但し書きがきちんとありますのでご安心下さい。遺言書に自分が死亡した時点で受遺者の一方が死亡していた場合には、その分は他方の受遺者に帰属するという趣旨の条項をきちんと記載しておけば、想定外に法定相続人に財産が引き継がれることを防ぐことができるのです。また、こうしておくと、自分の生存中に受遺者の一方が亡くなったときにでも、遺言書を書き換えなくても良くなります。

ですので、包括遺贈をする場合には、こういった予備的な条項を遺言書に入れるかどうかについて、きちんと考えておかないといけませんね!

 

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平成26年税制改正大綱に、相続資産の譲渡に関する取得費加算特例の改正が。納税資金確保に影響!

昨年末に定まった平成26年税制改正大綱には、平成27年1月1日以後に開始する相続・遺贈により取得した財産を譲渡した場合の取得費加算特例に関する改正事項が盛り込まれています。

相続により取得した土地等を「相続開始のあった日の翌日」から「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日」までの間に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる租税特別措置法の特例があるのですが(詳細は国税庁の「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」をご覧ください。)、今回の税制改正大綱では、この特例について、取得費に加える金額を、「その者が相続した全ての土地等に対応する相続税相当額」から「その譲渡した土地等に対応する相続税相当額」に改める、とされています。
 つまり、A・Bの土地を相続し、Aのみを譲渡した場合、これまでであればA・Bについて納めた相続税をAの取得費に加算できましたが、改正後は、Aについて納めた相続税のみが取得費に加算されることになります。その結果、従来よりも相続人の譲渡所得及び所得税の額が増えることになります。
 相続人が複数の土地を相続する場合、その中の一部の土地を売却して納税資金を準備することが多いので、この改正が実現すれば相続人の納税資金確保の点では痛手といえるでしょう。

 

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神戸地裁で相続税法違反被告事件に無罪判決が!

 今月の17日、相続税約1億4千万円を脱税したとする相続税法違反の事件(いわゆる脱税事件です)で、神戸地裁が無罪を言い渡す判決が出されました。私の神戸の先輩弁護士が被告人の代理人をされていた事件です。なお、事件の内容については直接お聞きしておりませんので、以下は報道を見ての記事になります。

 無罪判決獲得、努力のたまものですね。弁護士なら一度は経験したいものですが、あいにく私にはまだ経験がありません。そもそも刑事事件はあまりやっていませんので(現在も引き受ける刑事事件は脱税事件くらいです)、当たり前なのですが・・・。

 本題に移ります。報道によると、裁判所は、被告人の誤解などによる過少申告で、不正に免れる意思はなかったとして、無罪を言い渡したようです。裁判所は、申告漏れの多くは夫の名義でない預金口座などにみられ、夫以外の名義の口座などを申告が必要と認識していなかった可能性は否定できないと判断したとのことです。

 本来は課税価格約10億6千万円、相続税額約2億2千万円のところ、被告人は預貯金などを課税価格から除外して、課税価格約7億3千万円、相続税額約8千万円と申告しており、相続税約1億4千万円の支払いを免れたとして起訴されていたようです。

 

 この事件のように、被相続人が生前に他人名義で預金をしている場合に、その預金を相続財産に含めずに申告すると、税務署からその預金は相続財産であるとして相続税の更正処分をされることになり、また他人名義を利用しているため仮装隠ぺい行為によるものであるとして重加算税の処分もされることも多く、さらには不正の行為によるものであるとして刑事事件として起訴されることもあります。

 こういった事件では、相続人が他人名義の口座の作出に関与していたか、預金口座の存在やその預金の原資が被相続人のお金であることを認識していたか、といったことが重要となります。

 

 今回とよく似たケースで、財産が相続人名義になっている例もかなりあります。この場合は、相続の問題なのか贈与の問題なのかかがよく問題になります。被相続人が生前に相続人に贈与したということで相続人名義の預金に振り込んでいるというのであれば、贈与税の問題はともかく、本来は相続税の場面ではないことになります(もっとも、相続・遺贈により財産を取得した人が相続開始前3年以内に受けた贈与財産については結局、相続税の課税財産になることには注意が必要です。)。贈与とされるためには、相続人がその預金口座の存在を明確に認識し、預金は自分のものと認識している、相続人が通帳やキャッシュカードを保有して管理しているといった事実関係が必要となります。

 そういった事実関係がない場合には、相続人名義の預金であっても相続財産に含めて申告しなければならないことになり、これをしてないと、相続税の更正処分のみならず、重加算税の処分、刑事事件の起訴まで受ける可能性があることになります。

 

 ところで、今回の裁判の報道を見て個人的に再認識したこと。それは、この件の被告人の相続財産の申告割合は7割近く(税額ベースの申告割合は36%程度ですが)ありますが、もしこれが逆の3割だったら争うこと自体が難しいのではないか(被相続人は相続税の軽減を狙って明らかに意図的に他人名義を利用しており、当然相続人にもその存在や意図を明らかにしていたはず、相続人も被相続人名義の財産が少なすぎるため調査して知っていたはず、などの推認がとても成り立ちやすくなるので。)、この類の事件では、相当割合以上の相続財産について適正に申告されていたという前提事実がない場合には、特別な事情(被相続人が相続税軽減以外の目的で他人名義を利用していた事実、相続人が被相続人の事情や他人名義の財産をおよそ知り得なかったことなど)がない限り、処分や刑事事件を争って勝つのは難しいのかも、という当たり前のことです。

 

 実例から再認識させられることは多いですね。

 

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相続時精算課税制度を利用すると、相続の放棄はできなくなるのか?

相続時精算課税制度を利用すると、相続の放棄はできなくなるのでしょうか?

 

いいえ、相続時精算課税制度を利用した生前贈与を受けていた場合でも、相続の放棄はできます(相続の放棄は被相続人の死亡及び自分が相続人であることを知ったときから、原則3か月以内にしなければならないという期間制限にはご注意下さい)。

相続時精算課税制度や相続放棄の関係では、注意すべき点もありますので、以下の記事をご覧下さい。

なお、相続時精算課税制度の概要は、国税庁のページなどをご覧下さい。 

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遺留分対策ってどうやればいいの?

遺留分対策としてはどのようなことが考えられるでしょうか?

代表例を挙げておきます。

 

〔※令和元年71日に施行される民法改正により、同日以降に発生する相続については、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と改められ、侵害額に相当する金銭の支払いを請求するものとなります。それに合わせて、対策内容も変更が生じることになります。以下は、民法改正前の対策となりますので、ご注意ください。〕

 

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遺留分って?侵害するとどうなるの?

 「遺留分(いりゅうぶん)」とは、亡くなった方の相続財産について、法定相続人に最低限保証される部分(割合)のことです。

 

 遺留分があるのは、法定相続人のうち兄弟姉妹以外の方です。

 相続人全体としての遺留分は2分の1(相続人が亡くなった方の父母や祖父母のみである場合は3分の1)で、それぞれの相続人の具体的な遺留分は、遺留分全体のうちそれぞれの相続分(相続人が相続財産について有する権利義務の割合)に応じた部分となります。

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相続分なきことの証明書って何?

相続分なきことの証明書(相続分皆無証明書)ってご存じでしょうか?

家庭裁判所に対して相続放棄の手続をしなくても(相続があったことを知った日から3か月を経過したため相続放棄の手続ができない場合であっても)、また正式な遺産分割協議・協議書の作成をしていなくても、不動産について簡便に相続登記ができるようにするために利用されているものです。東京高裁昭和59年9月25日判決でも、この証明書を用いた遺産分割協議の成立を認めています。

 

登記実務上、亡くなった被相続人が所有していた不動産を相続しない相続人が、この証明書と印鑑証明書を添付すれば、不動産を相続する相続人への所有権移転登記が可能となるのです。例えば、相続人が3名の場合に、2名による遺産分割協議書と、1名の相続分なきことの証明書という組み合わせであっても、相続登記の添付資料として認められるとされています。

 そういう意味ではこの証明書は便利なものです。

  

もっとも、本来、相続分なきことの証明書を利用することができるのは、限られた場合だけです。それは、『不動産を相続しない人が、亡くなった方から生前に相続分(以上)の贈与を受けていた(特別受益)ために、民法903条1項2項によって相続分を受け取れない場合』なのですが、実際には生前に贈与を受けておらず、そのような場合には該当しないにもかかわらず、相続登記のための手法としてこの証明書を利用している例も多いようです。

この点、事実に反した内容の証明書だったとしても、直ちに相続登記が無効であるとはいえず、証明書の作成者が自分の相続分を放棄あるいは取得者に対して贈与したものとみることができる場合には、実質的な遺産分割が成立しているとみて相続登記を有効とする考えが一般的なようです。

  

ただ、後になって困る場面もないわけではありません。例えば、実は亡くなった被相続人に借金があったにもかかわらず、それを知らずに、相続財産は被相続人と相続人のうちの一人が一緒に住んでいた不動産だけで、今後はその相続人が不動産を相続して引き続き居住していきたい、証明書に署名押印してくれれば良いだけだから、と聞かされ、納得して証明書に署名押印し、不動産の登記移転に応じてしまった場合に、後に債権者から相続人として借金を返すよう求められ、それに応じざるを得ない場合などがあります(相続放棄には期間制限があるため期間後は相続放棄もできませんし、証明書の作成は相続の単純承認とみなされるので放棄ができなくなるという見解も有力です。)。

証明書の作成は、民法上の相続の放棄ではなく、便宜的なものにすぎませんので、上記のような場合、きちんと借金を含めて財産調査をした上で家庭裁判所に対して相続放棄の手続を取るか、相続放棄はしなくとも借金があることを前提とした遺産分割協議を正式に行うか、いずれかを検討すべきであった(改めて遺産分割協議ができるのは限られた場合のみとなります。)、ということになるのではないかと思われます。

  

なお、国の機関に対して、亡くなった方から相続分以上の生前贈与を受けていたと自ら証明するわけですので、贈与税との関係でも問題が生じる余地があるように思われます。

 

相続分なきことの証明書、使いどころに気をつけましょう! 

 

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最高裁違憲判決の影響

 

9月4日、非嫡出子(婚姻関係にある男女間で生まれた嫡出子でない子)の法定相続分を嫡出子の2分の1する民法900条4号但し書きについて、最高裁の違憲判決が出されたことは、皆さんもご承知のところではないしょうか。
 この最高裁判決が、遅くとも平成13年7月当時においてこの規定が憲法14条1項に違反しているとしながら、他の相続について、この規定を前提としてされた遺産分割の審判その他の裁判、遺産分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない、という判断をしたことは、かなり注目されているところで、これによって、非嫡出子が相続人となっている多くの相続で遺産分割のやり直しが必要となる、という事態は避けられることとなったものと思われますが、この判決の内容からすると、以下の通り、今後もこの規定が違憲であることを理由とする紛争は少なからず起きてくるものと思われます。

 まず、最高裁自身がいうとおり、関係者間の法律関係が裁判、合意等により確定的な段階に至っていない事案については、この規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとすることになります。そうすると、本件と同じような相当古い時期に相続が起きていたが、遺産分割が長期間揉めてまとまらないまま、あるいはきちんと遺産分割をしないで放置したまま今回の最高裁判決を迎えた事案については、非嫡出子は嫡出子と同じ相続分であることを主張できることになります。

 ですので、相続の法律関係が確定的な状態に至っているか否かを巡って争いが生じる、あるいは、遺産分割の合意等の対象として相続財産の一部が除外されている場合などには、相続の一部は処理され確定的な法律関係となっているが、残る部分については確定的なものとなっていないなどとして、非嫡出子が嫡出子と同様の相続分を主張して残部についてのみ争う、といったことも起こってくるのではないでしょうか。

 なお、本件は平成13年の相続事案なのですが、最高裁判決によれば、同じような相当古い相続事案であっても、遺産分割等により既に確定的な処理がなされていれば、本件以外の事案では規定の違憲を理由とする処理のやり直しはきかないのに、遺産分割等をせずにいた場合には規定が違憲であることを前提とした処理が許されるという点においては、不公平な事態が生じることになると思われます。最高裁はそのような不公平よりも過去の法律関係の法的安定性を優先し、不公平な事態の発生はやむを得ないとして容認しているものと考えられます。

 

 また、最高裁は、預金債権のような可分債権(分割可能な債権)に関して、

「相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権又は可分債務については,・・・相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく,その後の関係者間での裁判の終局,明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて,法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当」としていますので、相続後の関係者間での裁判の終局、明示又は黙示の合意の成立等がない場合には、やはり非嫡出子は嫡出子と同様の相続分までの預金等の引き渡しを請求することが可能となります。

  

 以上のように、今回の最高裁判決の判断内容を踏まえると、本件以外の他の相続について違憲を前提とする紛争が今後も生じてくる余地は十分あるように思われます。

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最高裁で民法900条4号ただし書きに関する違憲判決が出されました

 正直、驚きました。昨日の民法900条4号但し書きに関する最高裁の違憲判決。判決の内容は最高裁のホームページをご覧下さい。

 違憲と判断されたのは予想通りですが、驚いたのは、遅くとも平成13年7月当時において憲法141項に違反しているとしながら、過去の確定的な法律関係には影響を及ぼさない!という判断をした部分ですね。私はこの点がどうなるかに注目しており、先日、過去の法律関係に影響を与える可能性があることを記事にしたところでしたが・・・。こちらの記事で触れていた論説が従来の判例学説に沿う比較的一般的な内容だったように思いますが、本件の最高裁判決はそう言ったものと一線を画す内容となっているといえるでしょう。

 過去の法律関係を覆すと法的安定性を著しく害するという価値判断は最高裁の判断でも明確に示されており、それは非常によく分かるのですが、法的な理屈らしいものが示されていないところに法律家としては違和感があります(補足意見には一定の理屈が記載されてますが、個人的には容易に理解しかねるところです。)。

 これはもう法の判断というよりも新たな立法というべきかもしれませんね。

 理屈はさておいてでも今後の法的安定性を優先したとも思える今回の判断は、最高裁にしかできない離れ技といえそうですが、私にとっては予想外でした。

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民法900条4号ただし書きの合憲性に関する最高裁の決定が9月4日に

 最高裁大法廷が、来る94日、結婚していない男女間に生まれた非嫡出子の相続分を、結婚している夫婦の子(嫡出子)の半分とする民法第9004号ただし書きの規定が、法の下の平等を定めた憲法第14条第1項に違反するかどうかが争われた裁判について、決定を下します。この規定を合憲とした従前の最高裁判例を見直し、違憲判断を示す可能性があります。

 

 さて、問題は、この規定を前提とした今までの判決、調停、協議その他の実務上の処理がどのような影響を受けるかという点です。この点について、以下の論説が参考になると思います。

http://www.j.u-tokyo.ac.jp/sl-lr/07/papers/v07part10(nakamura).pdf

 

この論説の内容が全て正しいということになるのかはともかく、少なくともこの論説の、1.当事者間の遺産分割調停ないし協議は事案により錯誤無効とされる余地があり、また2.相続財産中の可分債権(銀行の預金債権のような分割可能な債権)については消滅時効が完成しない限り当事者間での不当利得返還請求が認められる事態が生じる、という指摘については、十分に留意する必要があるのではないかと思われます。

 

 さて、そうなると、さらなる問題は、これまでに処理された相続税の取扱いです。違憲判決が出された場合、この点の検討も不可欠となると思われます。

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