課税処分の取消判決の拘束力と後続の相続税の更正の請求との関係について判断した東京地裁の裁判例(2)

前回の続きです。

 

東京地裁(平成30年1月24日判決)は、概ね以下のような判断をしました。

 

・相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告等における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等)を主張することはできないものと解され、その結果、更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告における価額となる(その後に更正処分があった場合で、申告における価額のうち、当該更正処分によって変更された価額があるときには、その価額を基礎にすべきである。)。また、相続税法35条3項に基づく更正処分における課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額もまた同様に解するべき。

 

・本件のように、相続税の申告後に個々の財産の価額を変更する更正処分がされた上、当該更正処分の取消しの訴えが当該申告をした相続人によって提起され、個々の財産の評価方法ないし価額が争点となり、判決がこの点について認定・判断をし、課税価格及び納付すべき税額につき当該更正処分における金額と異なる金額を認定して、当該更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではないのはもちろんであるが、かといって、当該価額を申告における価額と置き換えることも、当該価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではなく、根拠を欠く。

 

・上記のような場合には、争点となった個々の財産の評価方法ないし価額に係る認定・判断並びにこれらを基礎として算定される課税価格及び相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断として、行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じているということができる上、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分に係る事件についても、同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格及び相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当であって、従前の更正処分について、争点となり、その評価方法ないし価額が判決によって変更されるに至った個々の財産については、課税庁において、同判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならない。

 

 

以上のように、この東京地裁の判決によれば、(個々の財産の評価方法ないし価額を争点とする相続税の)課税処分の取消判決後に、同一事件について相続税法32条1号に基づく更正の請求等が税務署に対してされた際には、税務署に行政事件訴訟法33条1項の拘束力が及び、税務署は、取消判決による変更後の個々の財産の価額を基礎として課税価格を算定して、更正の請求に対する対応(減額更正処分又は拒否通知処分)を決めなければならないことになります。

 

 

今回の判決は、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告等における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等)を主張できず、更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告価額となる、という原則論は肯定した上で、相続税法32条1号に基づく更正の請求に行政事件訴訟法33条の拘束力が及び(行政庁が取消判決に拘束され)、その原則論が修正されることを明らかにしたものといえると思います。

 

行政事件訴訟法33条の取消判決の拘束力が税務において問題となった貴重な裁判例ですので、ご紹介いたしました。

 

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