遺産分割から抜ける方法、ご存じですか?

法定相続人であっても、親族間の紛争は嫌だ、長い間続いている遺産分割手続から少しでも早く抜けたいとか、裁判所の手続きに参加するのは負担だから抜けたい、などと考える方は少なくないものです。

そんな方は、「相続分の譲渡」や「相続分の放棄」について検討してみるとよいかもしれません。

法定相続人であっても、親族間の紛争は嫌だ、長い間続いている遺産分割手続から少しでも早く抜けたいとか、裁判所の手続きに参加するのは負担だから抜けたい、などと考える方は少なくないものです。

 

そんな方は、「相続分の譲渡」や「相続分の放棄」について検討してみるとよいかもしれません。

 

●まず「相続分の譲渡」について書きます。

「相続分の譲渡」とは、文字どおり相続人が有している自分の相続分を(他の相続人に)譲渡することです(民法905条参照)。

これにより、譲渡人は以後の遺産分割手続に参加する必要はなくなり、譲受人が遺産分割手続の当事者となります。

 

すでに家庭裁判所で遺産分割の手続中である場合には、譲渡後に裁判所に排除決定をしてもらいます(この決定を受けなければ当事者から外れません)。

 

譲渡は、譲渡人と譲受人の有償又は無償の譲渡契約(贈与契約、売買契約等)によって行い、譲渡人は相続分譲渡証書や印鑑証明書(裁判所の手続中である場合には即時抗告権放棄書も)を提出します。

 

なお、相続人以外の第三者に譲渡することも不可能ではありません(後の遺産分割手続きに第三者が参加することになるため、うまくいかなくなるおそれがありますが。)。

 

ただし、譲渡後であっても、譲渡人が法定相続人であること自体に変わりありませんので、相続人として相続税の申告が必要となるほか、被相続人が負っていた債務の法定相続分について債権者から履行を求められればこれを拒絶することもできません(この点は「相続の放棄」(民法939条)とは異なる点です。)ので、被相続人の負債の有無、金額に注意が必要です。

また、預貯金の相続手続きに当たっては、金融機関が法定相続人である譲渡人の署名、押印を求めてくることも多いようです。 

 

相続分の譲渡をする場合は、税金についても注意が必要です。

大まかに言うと、一般に以下のように考えられていると思います(ただし、相続に詳しい税理士への確認をお忘れなく。)。

 

ⅰ 第三者に相続分を無償で譲渡した場合

譲渡人:相続税(相続分に対して)

譲受人:贈与税

 

ⅱ 第三者に相続分を有償で譲渡とした場合

譲渡人:相続税+(譲渡)所得税

譲受人:-(※低額部分があればその部分について贈与税)

 

ⅲ 相続人に相続分を無償で譲渡した場合

譲渡人:-(ただし相続分をゼロとして相続税の申告をする必要あり)

譲受人:相続税(譲受後の相続分全体に対して)

 

ⅳ 相続人に相続分を有償で譲渡した場合

譲渡人:相続税(譲渡対価に対して)

譲受人:相続税(相続分全体から譲渡対価を除いたものに対して)

 

以上の取扱いからすると、第三者へ相続分を譲渡すると税負担が重くなるので、お勧めできません。

 

 

相続分の譲渡をする場合の登記関係について一言ふれておきます。

以下は一般的な考え方によるものです。

 

まず、相続人に相続分の譲渡をした場合について説明します。

 

1)相続分の譲渡前に、法定相続分による相続登記が行われていた場合

・相続分の譲渡者から譲受人に対する持分移転の登記をすることになります。

その後、遺産分割協議によってその不動産の帰属が決まった場合には、遺産分割を原因として取得者に対する持分移転登記をすることになります。

・相続分の譲渡による持分移転の登記をしないうちに、遺産分割協議が成立した場合であっても、相続分の譲渡による持分移転の登記、遺産分割による持分移転登記を順次することになります。

~どちらのケースでも同じことになります。

 

2)相続分の譲渡前に、法定相続分による相続登記が行われていない場合

・相続分譲渡後の持分で直接被相続人からの相続登記をすることができます。その後、遺産分割協議によってその不動産の帰属が決まった場合には、遺産分割を原因として取得者に対する持分移転登記をすることになります。

・相続登記をしないうちに、特定の相続人にその不動産を帰属させる内容の遺産分割協議が成立した場合には、直接被相続人から遺産分割による取得者に対する単独相続登記(相続を原因とする所有権移転登記)ができ、1回ですませることができます。

~ケースによって結論が異なります。

 

次に、第三者に相続分の譲渡をした場合について説明します。

この場合には、どのようなケースでも、法定相続分による相続登記、相続分の譲渡による第三者に対する持分移転登記、遺産分割による持分移転登記を順次行うことになります。

 

以上のとおり、ケースによって必要となる登記の手続きが変わってくることが分かってもらえたかと思います。

 

●次は「相続分の放棄」についてです。

「相続分の放棄」とは、法定相続人の自らの資産である相続分を放棄するものです。家庭裁判所で行われている手続きから脱退をするために利用されています。

自分の相続分を特定の人に譲渡したいという意図がある場合には「相続分の譲渡」を利用しますが、そうではなくて、自らの相続分を自分と同順位の他の相続人で按分してもらえばよいという考えの場合には、こちらの「相続分の放棄」を利用します。

相続分の放棄をすると、他の相続人の相続分は、当初から相続分を放棄した者が相続人ではなかった場合と同じになります。

 

また、相続分の放棄は、相続分譲渡のような契約ではなく、放棄する人の一方的な意思表示で効力が生じる単独行為ですので、放棄する人のみで手続き可能です。

 

放棄をする人は、手続きをしている家庭裁判所に、相続分放棄書、相続分放棄届出書(脱退申出書)、即時抗告権放棄書、印鑑証明書を提出します。

 

ところで、相続分の譲渡と同じく、相続分の放棄をした人も、法定相続人であること自体に変わりありませんので、例えば、被相続人が負っていた債務の法定相続分について債権者から履行を求められればこれを拒絶することはできませんので、放棄前に被相続人の負債の有無、額に注意が必要です。

 

名前がよく似た「相続の放棄」(民法939条以下)の場合は、相続開始を知ったときから3月以内に家庭裁判所に申述して受理されると、相続の放棄をした人は当初から相続人ではなかったものとみなされ、負債を相続することが一切ありません。

 

相続分の放棄は相続の放棄と名前が似ており、混同される方が多いですが、負債の相続の有無について異なっているので、お気をつけください。

 

なお、相続分の放棄の場合の税金は、以下のようになると思われます。

放棄者:-(ただし相続分をゼロとして相続税の申告をする必要あり)

他の相続人:相続税(放棄によって増加した後に取得した相続分に対して)

 

 

 

以上、参考になりましたでしょうか?

 

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