神戸地裁で相続税法違反被告事件に無罪判決が!

 今月の17日、相続税約1億4千万円を脱税したとする相続税法違反の事件(いわゆる脱税事件です)で、神戸地裁が無罪を言い渡す判決が出されました。私の神戸の先輩弁護士が被告人の代理人をされていた事件です。なお、事件の内容については直接お聞きしておりませんので、以下は報道を見ての記事になります。

 無罪判決獲得、努力のたまものですね。弁護士なら一度は経験したいものですが、あいにく私にはまだ経験がありません。そもそも刑事事件はあまりやっていませんので(現在も引き受ける刑事事件は脱税事件くらいです)、当たり前なのですが・・・。

 本題に移ります。報道によると、裁判所は、被告人の誤解などによる過少申告で、不正に免れる意思はなかったとして、無罪を言い渡したようです。裁判所は、申告漏れの多くは夫の名義でない預金口座などにみられ、夫以外の名義の口座などを申告が必要と認識していなかった可能性は否定できないと判断したとのことです。

 本来は課税価格約10億6千万円、相続税額約2億2千万円のところ、被告人は預貯金などを課税価格から除外して、課税価格約7億3千万円、相続税額約8千万円と申告しており、相続税約1億4千万円の支払いを免れたとして起訴されていたようです。

 

 この事件のように、被相続人が生前に他人名義で預金をしている場合に、その預金を相続財産に含めずに申告すると、税務署からその預金は相続財産であるとして相続税の更正処分をされることになり、また他人名義を利用しているため仮装隠ぺい行為によるものであるとして重加算税の処分もされることも多く、さらには不正の行為によるものであるとして刑事事件として起訴されることもあります。

 こういった事件では、相続人が他人名義の口座の作出に関与していたか、預金口座の存在やその預金の原資が被相続人のお金であることを認識していたか、といったことが重要となります。

 

 今回とよく似たケースで、財産が相続人名義になっている例もかなりあります。この場合は、相続の問題なのか贈与の問題なのかかがよく問題になります。被相続人が生前に相続人に贈与したということで相続人名義の預金に振り込んでいるというのであれば、贈与税の問題はともかく、本来は相続税の場面ではないことになります(もっとも、相続・遺贈により財産を取得した人が相続開始前3年以内に受けた贈与財産については結局、相続税の課税財産になることには注意が必要です。)。贈与とされるためには、相続人がその預金口座の存在を明確に認識し、預金は自分のものと認識している、相続人が通帳やキャッシュカードを保有して管理しているといった事実関係が必要となります。

 そういった事実関係がない場合には、相続人名義の預金であっても相続財産に含めて申告しなければならないことになり、これをしてないと、相続税の更正処分のみならず、重加算税の処分、刑事事件の起訴まで受ける可能性があることになります。

 

 ところで、今回の裁判の報道を見て個人的に再認識したこと。それは、この件の被告人の相続財産の申告割合は7割近く(税額ベースの申告割合は36%程度ですが)ありますが、もしこれが逆の3割だったら争うこと自体が難しいのではないか(被相続人は相続税の軽減を狙って明らかに意図的に他人名義を利用しており、当然相続人にもその存在や意図を明らかにしていたはず、相続人も被相続人名義の財産が少なすぎるため調査して知っていたはず、などの推認がとても成り立ちやすくなるので。)、この類の事件では、相当割合以上の相続財産について適正に申告されていたという前提事実がない場合には、特別な事情(被相続人が相続税軽減以外の目的で他人名義を利用していた事実、相続人が被相続人の事情や他人名義の財産をおよそ知り得なかったことなど)がない限り、処分や刑事事件を争って勝つのは難しいのかも、という当たり前のことです。

 

 実例から再認識させられることは多いですね。

 

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