生活保護を受けている人が相続に関係する場合に注意すべき点について、ご説明します。
(1)生活保護を受けている推定相続人は相続放棄や遺産分割が自由にできないときがある!?
相続を承認するのか、放棄をするか否かは、本来は推定相続人の自由です。
ただ、相続財産がプラスになる場合で、相続人が生活保護を受けている場合に、その相続人が相続放棄を選択すると、生活保護の受給資格を失う、返金を求められる、受給が停止されてしまうといった思わぬ結果を招いてしまうことがあるので、要注意です。
生活保護はあくまで十分な収入、財産がないひとの最低限度の生活を保障するために設けられている補助的な位置づけの制度ですので、相続できる財産があるのにこれを放棄して生活保護を受給することは許されないためです。
プラスの相続財産とマイナスの相続財産(負債)を合計して明らかにマイナスとなるようなときは、相続放棄をしても、生活保護に影響が出るようなことはあまりないでしょう。
何にしても、生活保護を受けている方が相続放棄をしたいと考えている方は予めケースワーカー、福祉担当者と相談しておかれるとよいでしょう。
(2)生活保護を受けている推定相続人は相続放棄や遺産分割が自由にできないときがある!?
前回お話ししたように生活保護を受けている推定相続人が、相続放棄をすることに問題があるのだとすると、遺産分割についても問題が生じる場合があるように思われます。
推定相続人の取得額が法定相続分を下回るような遺産分割をすることについても、やはり生活保護の受給資格を失う、返金を求められる、受給が停止されてしまうといった問題が起きかねないということになるでしょう。
遺産分割協議に参加しつつ、何も財産を取得せず、実質的に相続放棄をすることについては、当然大きな問題となりえます。
また、相続財産が多額で、生活保護者の取得額が法定相続分を大きく下回る場合にも、生活保護との関係で問題となる可能性が高まるでしょう。
他の相続人もこの点を分かっておく必要があるでしょう。
むしろ、逆の発想で、生活保護の受給が止まることを恐れたり、費消をおそれて、生活保護者には何も取得させないといった遺産分割をしがちですので、注意が必要です。
なお、相続によって取得した財産があるのに、それを秘密にしたまま、生活保護を受給するようなことは、刑事事件にもなりかねませんので、絶対にやめましょう。
(3)生活保護を受けている推定相続人に遺留分以下しか相続させない遺言をする場合に注意すべき点
まず、推定相続人の中に生活保護者がいるときに、遺言で生活保護者以外の相続人に相続財産を全て相続させるようなことはできるでしょうか?
たとえば、生活保護者が、遺言者の兄弟姉妹のように、遺留分を有しない推定相続人なのであれば、遺言で生活保護者以外の方に相続財産を全て相続させても、生活保護との関係では問題は生じないでしょう。
他方で、生活保護者が遺言者の配偶者、子供(孫)、親(祖父母)などで、遺留分(民法上最低限保証されている取り分)を持つ相続人に該当する場合には、遺言があったために相続によって遺留分を取得することができなかったのであれば、他の相続人等に対して遺留分侵害額請求権という金銭の請求権を取得することになります。
遺留分侵害額請求権も財産ですから、生活保護者である相続人がこれを行使せずにいる、あるいは放棄することもまた、やはり生活保護との関係で問題となる場合があるでしょう(福祉担当者、役所がそのことを知れば)。
そのため、生活保護との関係では、原則として生活保護者は相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使せざるを得ないという考え方になりそうです。
遺言をするに当たって、浪費などがたたって生活保護に至っているような相続人には相続をさせないといった判断をすることもあるかと思いますが、後に生活保護者から遺留分侵害請求がなされる可能性が高いことにご注意ください。
次に、別のケースで、故人の推定相続人ではない生活保護者に対してプラスとなる財産を遺贈する内容の遺言をした場合に、生活保護者が遺贈を放棄することはできるでしょうか?
この点につきましてても、これまでご説明したところからお分かりかと思いますが、やはり生活保護との関係で問題が起こり得る場合があり(福祉担当者、役所がそのことを知れば)、基本的には遺贈を放棄できないという考え方になりそうです。
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