前回の記事からの続きです。
今回は、納税地の管轄税務署ではない税務署の職員の実地調査によって収集した資料をもとに、納税地の管轄税務署が納税者に対する課税処分をしたというような場合には、その処分は違法として取り消されるのかという点です。
この点に関する平成28年10月31日付の国税不服審判所の裁決をご紹介します。
納税者が、生命保険契約の解約払戻金に係る所得について申告しなかったところ、原処分庁が所得税の更正処分等をしたのに対し、当該処分は納税者の納税地を所轄しない税務署長所属の職員による調査によって得られた資料に基づきされたものであるから、調査手続に違法があるなどとして、その全部の取消しを求めた審査請求の事案に関する裁決です。
審判所は、概ね以下のような判断をしました。
・ 調査手続の瑕疵は、原則として、課税処分の取消事由とはならないものと解されるが、通則法は、第24条の規定による更正処分、第25条《決定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、例外的に、課税処分の取消事由となるものと解される。
・課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法を帯び、調査を全く欠くに等しいとの評価を受ける場合も含まれる。
・ここにいう「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解され、いわゆる机上調査のような税務官庁内部における調査をも含むものと解される。
・請求人は、所得税法16条4項に規定する事業場等の所在地を納税地とする書類を提出していなかったのであるから、請求人の納税地は、原処分庁が所轄する住所地である。
・この点について、所轄外職員が請求人の納税地につき住所地であると認識しつつあえて請求人に対する実地の調査を実施したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、質問検査等の実施場所に関する請求人の要望を受け入れるなどしながら、全ての調査手続について請求人の任意の協力を得て履行していたことからすれば、所轄外職員は請求人の納税地を誤って認識していたにすぎない。
・請求人自身も税理士の記名押印がある平成20年分ないし平成26年分の所得税の各確定申告書を所轄外の税務署長に誤って提出していることから、所轄外職員による請求人の納税地についての認識の誤りは、請求人自身の行為によって誘発された側面があるといえることをも考慮すると、所轄外職員による実地の調査が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法を帯びるものであったとまではいえない。
・したがって、所轄外職員が調査により収集した証拠を原処分庁が課税処分の基礎として用いることは許されるのであり、原処分庁は、当該証拠を税務官庁内部において改めて検討した上で原処分をしたと認められるから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には当たらない。
・以上のとおり、本件調査手続に原処分を取り消すべき違法又は不当はない。
次回に続きます。