10年以上前の特別受益でも持戻しの対象です

 

本日は令和元年の民法の相続法制改正に伴って生じた誤解についてお話しします。

 

今回の民法改正では、遺留分の額を計算する際に含まれる贈与財産の範囲について変更がありました。

遺留分の額は、 「遺留分を算定するための財産」 に具体的遺留分を掛けて計算するのですが、「遺留分を算定するための財産」について、以下のとおり算定されます。

「遺留分を算定するための財産」=相続時に有していた財産+贈与財産(※)-債務

 

ここで、相続人に対する贈与(特別受益に限る)については、もともと期間の制限なく、古い贈与財産であっても上記の贈与財産に含まれることになっていましたが、令和元年7月1日に施行される民法改正により、同日以降に発生する相続においては、以下のとおり、原則として相続開始前の10年間にされたものに限られることとなったのです。

 

【現行の民法1044条】

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。〔略〕

2〔略〕

3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

 

 

さて、相続人の特別受益の額について相続財産の額に足し戻して計算をするのは、遺留分侵害額の計算のときだけでなく、相続人の具体的な相続分(それぞれの相続人の本来の遺産の取り分のことです)の計算のときも同様です。

 

もっとも、今回の改正で、特別受益の足し戻しの対象となる贈与を相続開始前10年間にされたものに限ることとされたのは、遺留分の計算のときだけであって、具体的相続分の計算のときについては、改正がされておらず、従来どおり特別受益について期間の制限はありません。

 

【現行の民法903条1項】

(特別受益者の相続分) 

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

現行の民法903条1項では、上記のとおり「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし・・・」とあり、加えられる贈与について、時期の制限はありません。

 

このように、令和元年の相続法制改正によって、具体的相続分の計算の際の持戻しの対象となる相続人の特別受益が、相続開始前10年間にされた贈与に限られたわけではないのですが、この点を誤解している人がおられます。

 

※具体的相続分の額は、従前どおり、10年以上前の生前贈与であっても特別受益として相続財産に持ち戻して算定し、それぞれの以下のような計算をすることになります(上記の民法903条1項のとおりです)。

(相続財産の額+特別受益の額)×法定相続分=具体的相続分

※特別受益を受けた相続人については、ここからその分を控除して計算します。

 

ややこしい話ですが、似たような場面の片方についてのみ改正がされてしまったため、このような誤解が生じるようになってしまったのでしょう。

皆さんは誤解しておられませんでしたか?

 

 

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