税金の申告はいつまでできるのかが争われた事件の判決(2)

前回の記事で紹介した千葉地裁平成30年1月16日判決の内容について、何点か考察を書いてみました。

 

・まず、今回問題となった期限後申告は、租税の具体的な税額の確定に関する納税者の自発的な行為であり、確定した租税の「徴収」や国家権力としての徴収「権」(国が税金を収納、回収する権限)の場面ではないのですが、今回の判決は「徴収権」の絶対的時効から結論を導いている点に注目しました。

 

この点については、賦課(権)と徴収(権)は別々の概念であるものの、国税通則法は、5年ないし7年を経過すると、抽象的な国税・納税義務・租税債権そのものが消滅することを(暗黙の)前提として、法72条で「徴収権」の時効が定めているとの理解が今回の判決にはあったのではないかと思われます。

そうだとすると、国税通則法72条などの背景、制度設計に関する部分の考え方で直接の解決を図ったものと考えられますが、条文上の根拠としてはやや弱いところがあるといわざるを得ないでしょう。

 

また、徴収(権)と賦課(権)は相互に密接に関連しており、一般的には賦課なくして徴収なしといわれているところですが、それにとどまらず、国に収納されない(徴収できない)国税では意味がないため、徴収がないところに国税の存在、賦課、税額確定はあり得ないとの解釈まで一般的に成り立つのか?は気になるところです。

そこまでいえるのであれば、今回の判決の結論は正当ということになるでしょう。

 

この点、一般的な国税通則法の書籍を見ると、法定納期限から5年ないし7年を経過すると、徴収権が絶対的に消滅し、納税申告書の提出は何らの利益を持たないため、納税者は納税申告をすることができず、税務官庁もこれを受理すべきではないとの解説がされていました。

今回の判決もこういった一般的な考え方に沿うものということになるかもしれません(ただし、損失が生じた今回の原告の平成20年分所得税の申告であっても、徴収権が消滅した後には、納税申告書の提出は何らの利益を持たないといえるのか?といった理論上の疑問は残るように思われます。)。

 

なお、論理的には、徴収「権」の時効により、国が納税者に対して強制的に徴収を図ることができなくなるということと、納税者が自発的に申告、納付できるか否かは、別問題ととらえる余地があるでしょう。

もっとも、今回の判決のように、(徴収権の時効により)抽象的な国税、納税義務、租税債権自体が消滅してしまうと考えれば、自発的な申告、納付もできないとの結論が導かれてもやむを得ないでしょう。

 

・原告が指摘していたように、今回の平成20年分のように損失のみが生じる場合には、税金を納付する義務やその徴収権は発生せず、徴収権の時効や納税義務の消滅を理由に申告の期限を制限することは論理的ではないかのようにも思えます。

しかし、裁判所は、平成20年分所得税についても、もともと抽象的な納税義務、租税債権自体というものはあったが、平成20年については結果として具体的な税金の納税義務が発生しなかったにすぎないとして、抽象的な納税義務、租税債権自体が消滅した後は期限後申告をすることができないとの判断をしているのだと思われます。

このような判断のもとでは、原告主張が独自の見解として排斥されてしまうのもやむを得ないということになるでしょう。

 

次回も引き続いて考察です。