最高裁で再転相続が起きた場合の熟慮期間の起算点について判決が出ています

民法では、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならないこととされております(民法915条1項)。

この3ヶ月の期間を一般に、熟慮期間といいます。

 

また、民法第916条では、相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算すると定めております。

 

一般に、甲が死亡し、その相続人である乙 が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡し、丙が乙の相続人となるような相続を「再転相続」といいますが、最高裁は令和元年8月9日、再転相続の場合の熟慮期間の起算点に関して判断した初めての判決を出しました。

最高裁は、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきであるとして、再転相続の相続人によってより手厚い法解釈を示したといえるでしょう。

 

判決文はこちらからご確認ください。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88855

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/855/088855_hanrei.pdf 

 

この事件の事実関係をざっくりと簡単に説明すると、以下のとおりです。

・Aの死後、Bは、自己がAの相続人となったことを知らず、Aからの相続について相続放棄の申述をすることなく、平成24年10月19日に死亡した。

・Bの相続人は、妻及び子である被上告人外1名であった。

・被上告人は、平成27年11月11日、「本件債務名義、上記承継執行文の謄本等の送達」を受け、BがAの相続人であり、被上告人がBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。

・被上告人は、平成28年2月5日、Aからの相続について相続放棄の申述をし、同月12日、申述が受理された。

 

この点、原審(大阪高裁)は、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、丙が自己のために乙からの相続が開始したことを知った時をいう」、「同条は、乙が、自己が甲の相続人であることを知っていたが、相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると解すべきであり、BがAの相続人となったことを知らずに死亡した本件に同条は適用されない。」との判断をしていました(甲、乙、丙は上記のとおりです)。

 

本件に関し、最高裁判所は、概ね以下のような判断をしました。

 

・民法916条の趣旨は、・・・丙の認識に基づき、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにある。

・再転相続人である丙は、自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって、当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。

・また、丙は、乙からの相続により、甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの、丙自身において、乙が甲の相続人であったことを知らなければ、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。

・丙が、乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず、丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって、甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。

・以上によれば、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。

・なお、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について、乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは、同条がその適用がある場面につき、「相続人が相続の承認又は放棄をしない で死亡したとき」とのみ規定していること及び同条の前記趣旨から明らかである。

 

以上のとおり、最高裁は、再転相続の場合の熟慮期間の起算点に関し、大阪高裁の法解釈を覆して、再転相続の相続人にとってより手厚い法解釈を示したといえるでしょう。

 

実務上重要な判例ですので、紹介致しました。

 

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