以前、相続人間での遺産分割と遺留分侵害額請求が併存する場合があること、「遺言がないまま死亡し、遺産はある程度あるものの、生前贈与によって相続人の遺留分が侵害されているというような場合には、遺言書はなくても、遺産分割以外にも、生前贈与による遺留分侵害額請求が問題となる場合があること」についてご説明しました。
今回は、相続人間での遺産分割と遺留分侵害額請求が併存するケースを具体例で説明します。
相続人間での遺産分割と遺留分侵害額請求が併存する可能性があるケースとしては、1)遺言書があるケース(一部の相続人に対して、一部かつ多額の相続財産の遺贈がされた場合)、2)遺言書がないケース(一部の相続人に対して多額の生前贈与がされていた場合)があります。
今回は、2)のケースを、具体例でご説明します。
例)父X死亡 母Y、子ABCD4人が相続人
遺産:預金2000万円
死亡2年前に、Aに4000万円を贈与(特別受益)していた
遺言書はなし 〜 遺産分割は必要
1 相続分
・みなし相続財産:遺産2000万+特別受益4000万=6000万
・本来の相続分
Y:6000万×1/2=3000万
A〜D:6000万×1/2×1/4=各自750万
・具体的相続分の額
通常の計算によれば、以下のとおりとなります。
Y:3000万
A:750万−特別受益4000万<0(マイナス) →0となる
B〜D:各自750万
もっとも、3000万+750万×3=5250万>遺産2000万となるため(遺産不足)、調整計算が必要になります。
Y: 遺産2000万×(3000万÷5250万)=11,428,571
A: 0
B〜D: 遺産2000万×(750万÷5250万)=各自2,857,143
合計:2000万
つまり、Aへの生前贈与(特別受益)があったため、Y、B~Dは遺産分割では、本来の相続分を取得することができない結果となるわけです。
2 遺留分の侵害
次に、生前贈与による遺留分侵害の有無、額について見てみましょう。
・遺留分
Y:6000万×1/2×1/2=1500万
B〜D:6000万×1/2×1/2×1/4=各自375万
・Aへの生前贈与による遺留分侵害額
Y:遺留分1500万−具体的相続分1142万8571=357万1429
B〜D:遺留分375万−具体的相続分285万7143=各自89万2857
●以上の計算を踏まえてご説明します。
Yでいえば、本来3000万円(最低1500万円)の遺産が取得できたはずですが、既に遺産は2000万円しかありません。
Yが本件で遺産の預金をいくらかでも取得するためには、Aら他の相続人との遺産分割協議が必要となります。
仮に相続人らが具体的相続分にしたがって遺産分割協議をしたとすると、Aは2000万円の預金の内1142万8571円を取得することになり、遺留分の1500万円にも満たないことになってしまいます。
したがって、Aへの生前贈与によってYには357万1429円の遺留分侵害が生じていることになり、相続人間の遺産分割協議に基づく預金1142万8571円の取得以外に、Aへの遺留分侵害額請求によって357万1429円をAから回収することで初めて、遺留分相当額1500万円の確保を図ることができるわけです。
このように、遺産分割と遺留分侵害額請求は併存することが時々あるわけですが、遺言があるときは遺留分侵害額請求の問題、遺言がないときは遺産分割の問題というように機械的に理解しているひとも多いので、注意が必要です。
※以上は、令和元年7月1日以降に発生した相続について記載しています。
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