カフェテリアプランに換金性があるとして税務署がした源泉所得税の納税告知処分等を取り消した裁決(1)

本日は、ある会社のカフェテリアプランに、財形貯蓄補助金メニューが含まれているため、換金性のあるプランであるとして、当該プランによる全ての経済的利益が課税対象になるとの理由で、社員が人間ドック等のメニューを利用したことによって得た経済的利益について、税務署が会社に対して行った源泉所得税等の納税告知処分を、取り消した国税不服審判所の裁決(令和2年1月20日)をご紹介します。

 

本件において、審判所は概ね、以下のとおり判断しました。

なお、裁決の詳細を知りたい方は、国税不服審判所のHPからご確認ください。

https://www.kfs.go.jp/service/JP/118/04/index.html

 

・本件プランは・・・使用人の福利厚生の充実等を目的として設けられたものと認められ、本件各使用人が本件各経済的利益として受ける額は、一律に1年間で20,000円を限度とするものであり、福利厚生費として社会通念上著しく多額であるとは認められない。

 ・本件財形メニュー(財形貯蓄補助金)は、本件各使用人のうち一定の期間内に財形貯蓄をした使用人に対して、その補助(サービス)として積立額の範囲内で申請したポイント数に相当する金銭が支給されるものであり、何ら要件なく本件ポイントを金銭に換えることを内容とするものとは認められない。

 ・そして、本件財形メニュー以外のメニューについても、自由に品物を選択できるものとは認められず、一定の要件を充足しなければサービスを受けられない内容のものであり、何ら要件なく金銭や商品券等の支給を受けることを選択できるものではない。

 ・また、残ポイントがある場合においても、残ポイント数に相当する金銭がE社から支給されることを内容とするものでもない。

 ・以上のことから、本件プランは、ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプランとは認められず、金銭を給付するのと同様とはみられないことから、現に選択したメニューにかかわらず、全ての経済的利益が課税対象となるものには該当しない。

 ・そうすると、本件各経済的利益は、本件各使用人が選択した現に受けるサービスの内容に応じて、課税しない経済的利益に該当するか否かを判断することになるところ、本件ドック等経済的利益(※〇社が非課税としていた人間ドック等の補助に関する経済的利益)は基本通達36-29又は基本通達36-30に定める「課税しない経済的利益」に該当すると認めるのが相当である。

 ・したがって、〇社には、本件ドック等経済的利益について源泉徴収義務はない。

 

 

まず、この裁決を理解する前提として、以下の点を押さえておいてください。

 

・財形貯蓄とは勤労者財産形成貯蓄のことで、法律に基づき、勤労者が貯蓄や住宅取得を目的に、賃金から天引きで行う貯蓄のことであり、税制上の優遇措置(一定額まで利子が非課税となる)を受けられます。

財形貯蓄をする社員には奨励金、補助金が支給される会社もあります。

 

・カフェテリアプランとは、一般的に、福利厚生の目的で、会社が外部のサービスを利用し、予め利用可能なサービスメニューを作成して、従業員に一定の補助金(ポイント)を支給し、従業員はそのポイントの範囲内でサービスメニューの中から選択し、利用できる制度です。

 

・所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において「給与等」の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、納付しなければならない旨規定しています。

 

・所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨、同条第2項は、給与所得の金額は、その年中の「給与等の収入金額」から給与所得控除額を控除した残額とする旨、それぞれ規定しています。

 

・所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上「収入金額」とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他「経済的な利益の価額」)とする旨規定しています。

 

・所得税基本通達(以下「基本通達」という。)36-29《課税しない経済的利益……用役の提供等》は、使用者が役員又は使用人の福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより、当該施設を利用した役員又は使用人が受ける経済的利益については、当該経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しなくて差し支えない旨定めています。

 

・国税庁の質疑応答事例「カフェテリアプランによるポイントの付与を受けた場合」には、要約すると概ね以下のようなことが記載されています。

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/36.htm

ⅰ 従業員に付与されるポイントに係る経済的利益については、原則として従業員がそのポイントを利用してサービスを受けたときに、そのサービスの内容によって課税・非課税を判断すること

ⅱ 役員・従業員の職務上の地位や報酬額に比例してポイントが付与される場合には、カフェテリアプランの全てについて課税対象となること

ⅲ 課税されないのは企業から現物給付の形で支給されるものに限られ、『ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプラン』は、その全てについて課税対象となること

 

長くなってきましたので、次回に続きます。