士業法人の社員を使用人兼務役員として損金処理をすると否認されるかもしれません

「使用人兼務役員」は、役員であっても使用人としての側面があるため、使用人給与の支給額を期中に増減したり、届け出をせずに使用人としての賞与を支払っても、法人の損金に算入されるため、使用人兼務役員の制度は法人にとって税務上のメリットがある便利なものといえます。

 

最近では、税理士法人、弁護士法人、司法書士法人など多くの士業で法人化ができるようになっていますが、このような士業法人の社員(一般の会社でいう役員に相当します。)の全部又は一部について、「使用人兼務役員」に該当するとして、その報酬の一部を使用人分給与として損金処理すると、税務署から否認されるおそれがあります。

 

今回ご紹介する東京地方裁判所の平成29年1月18日判決は、この点に関する判決です。

 

この判決の事案は、特許業務法人である原告が、社員3名に支給した給与のうち歩合給について、税務署長から、社員らが役員に該当し、かつ、「使用人としての職務を有する役員」(以下「使用人兼務役員」)に該当せず、また歩合給は法人税法第34条1項各号の給与のいずれにも該当しないから、損金の額に算入できないとして法人税の各更正処分等を受けたため、処分の取消しを求めて争っていたものでした。

 

裁判所は、概ね以下のような判断をしました。

 

・弁理士法によれば、特許業務法人の社員は、全ての社員が業務執行をする権利を有し、義務を負うとされ、また、各社員は連帯してその弁済の責めに任ずるとされることや、業務執行の対象には経営に係る業務を含むことから、本件社員らは、具体的な職務の内容にかかわらず、役員に該当する。

 

・業務執行役員と特許業務法人との関係には民法の委任の規定が準用され、両者は一般には雇用契約等に基づく使用人と事業主との関係に立つものではないから、役員が従事する具体的な職務の中に使用人である弁理士が行う職務と同種の職務が含まれている場合であっても、それは使用人としての立場で従事するものではないと一般的・類型的に評価し得るものであり、特許業務法人の社員は、一般には使用人兼務役員に該当せず、本件社員らは使用人兼務役員に該当しない。

 

裁判所は以上のような判断をしましたが、そもそも、一般の会社でも、法令上、代表取締役副社長、専務、常務その他これらに準ずる役員や、業務執行社員などは使用人兼務役員にはなれないこと(※1)や、このような士業法人における社員の権利・責任の大きさなどからすると、この結論はやむを得ないといえるでしょう。

 (※1)「No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人

 

また、国税庁は以前から、税理士法人の社員について、使用人兼務役員への該当性を全面的に否定しています(※2)。

(※2)「税理士法人の社員に係る使用人兼務役員への該当性

 このなかで、国税庁は、税理士法人においては、「①社員はすべて業務を執行する権利を有し、義務を負うとされており、この社員の業務を執行する権限は、定款によっても制限することはできないこと。」、「税理士法人の社員は、その権利義務について合名会社の社員と同様とされていますが、合名会社の社員と異なり、業務を執行する権限を定款で制限できないこととされていますので、税理士法人の社員はすべて、法人税法施行令第71条第1項第3号において使用人兼務役員になれない役員として明示されている合名会社の業務を執行する社員と同様に、業務執行を行うこととなります。」、などと記載しており、定款における業務執行権の制限の有無に着目していることが分かります。

 

士業法人の中には、たとえば、弁護士法人に関して、弁護士法第30条の12が「弁護士法人の社員は、定款で別段の定めがある場合を除き、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う。」と定め、第30条の13《法人の代表》が、「1 弁護士法人の業務を執行する社員は、各自弁護士法人を代表する。2 前項の規定は、定款又は総社員の同意によつて、業務を執行する社員中特に弁護士法人を代表すべき社員を定めることを妨げない。」と定めているように、定款で業務執行権(や代表権)を制限することができる士業法人もあります。

 

以上によりますと、まず、定款で業務執行権を制限できないとされている種類の士業法人においては、社員全員について使用人兼務役員として税務処理をする余地はなく、次に、定款で業務執行権を制限できるとされている種類の士業法人においても、定款で業務執行権が制限されている社員以外の業務執行社員は、使用人兼務役員として税務処理をすることはできない、と考えておいた方がよいかと思います。

 

士業法人の方々、ご注意を!