相続預金に使途不明の出金がある場合に、その使途不明金は遺産分割の対象となるのか否か?

遺産分割の対象となる財産は、亡くなった被相続人がその時点で有していた財産のみです。

ですが、相続人が亡くなった被相続人の預金の履歴を調べてみると、生前に、被相続人の生活状況からすると不自然な時期での多額な出金(一般的に「使途不明金」と言われています。)が見つかり、被相続人と同居したり、その看護をしていた一部の相続人が勝手に出金をして懐に入れてしまったのでは?という疑いが発生することが時々あります。

このような場合、他の相続人にとっては、死亡時の預金しか遺産分割の対象とならないとすると不公平であるため、その「使途不明金」も遺産に戻して遺産分割の対象とすべきだ、というような主張がされることになりますが、このような主張は通るのでしょうか?

色々なケースに分けて考えてみましょう。

  1. 前提として、その「使途不明金」について、亡くなった被相続人が自らのために出金していたことが立証された場合には、そのような主張は当然通りません。なお、出金当時、被相続人の判断能力に問題がなかったような場合には、被相続人が自らのために出金した可能性がある以上、遺産分割協議においてそのような主張は通らない可能性が高くなります。

  2. また、その「使途不明金」について、被相続人が一部の相続人から貸りていたお金を返済したものであるとか、立て替え払いをしていた一部の相続人にその支払いをしたものと立証された場合にも、そのような主張は通らないことになります。

  3. 次に、その「使途不明金」が、被相続人が自らの意思で一部の相続人に対して贈与したものと明らかになった場合には、その一部の相続人は「特別受益」を受けたことになりますので、計算上、使途不明金も相続財産に加えて相続人らの相続分を算定した上で、特別受益を受けた一部の相続人はその分について既に遺産の前渡しを受けていたものとして扱われることになります。
    したがいまして、基本的には、他の相続人の主張が通ったのと同じような形になります。
    なお、特別受益の有無について争いがある場合でも、家庭裁判所での遺産分割の調停や審判の中で最終的に解決されることになります。

  4. さらに、その「使途不明金」が、被相続人の意思によらずに、一部の相続人が無断で出金したもの(※被相続人が後に、出金されたお金を相続人のものとすることについて追認した場合には、3.のケースになります。)と明らかになった場合には、被相続人は死亡時点でその相続人に対して、「不法行為に基づく損害賠償請求権」や「不当利得返還請求権」といった金銭の請求権を持っていたことになり、これが被相続人の遺産に含まれていると考えられます。
    ただし、ここで注意をしなければならないのは、最高裁判所の判例では、こういった金銭の請求権は、死亡と同時に相続人らに法律上当然に分割され、相続分に応じて権利承継されることになっているため、原則として遺産分割協議の対象とならないところです。
    ですから、相続人全員が上記の請求権を遺産分割協議の対象とすることに合意した場合には、他の相続人の主張通り遺産分割協議の中で請求権を遺産として分配することが可能となるものの、そうでない場合には、他の相続人は各自、上記の請求権の自分の相続分について、遺産分割協議とは別に、出金をした一部の相続人に対して民事で支払いを求めていくことになり、場合によっては調停や裁判を要することになります。

 

さて、以上がおおまかな整理ですが、実際には、そもそも上記のどのケースに当たるのかの立証自体が困難なケースが多いのではないかと思います。

事実関係を明確にするための証拠が不十分であるのに、「使途不明金」にこだわり続けてしまうと、最終解決までに要する期間が必要以上に長期化してしまいます。最終的には、使途不明金について目をつぶり、死亡時の預金額で遺産分割をせざるを得ないケースもかなりあるのではないでしょうか。

 

「使途不明金」については、冷静に先の展開を予測して判断していく必要がありますので、専門家に相談されると良いでしょう。

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