役員に対する債務免除が税務上の給与に当たる場合、当たらない場合

今回ご紹介するのは、役員に対する債務免除によって役員が得た経済的利益が賞与に当たるとして税務署長がした源泉所得税の納税告知処分を取り消した、平成26年1月30日の広島高裁岡山支部の判決です。

法人が役員に対して債務免除をした場合に、債務免除による経済的利益の供与が税務上の「給与等」(※一般的な給与の概念よりも広く、雇用契約・委任契約などに基づいて役務の対価として支給されるもの全般を含みます)に該当するとなると、役員らにおいては、所得税や住民税の申告漏れが発生し、法人においても、その給与等の支払いが通常損金とならないほか、その給与等に対する源泉徴収漏れがあることになるなど、課税上重い負担が発生する場合があります。

一般的な感覚からすると、役員に対して債務免除をするときに、源泉徴収をしなければならないというのは、やや現実的ではないようにも思われますが、こういった税務上の扱いは認められているところですので、やむを得ないところです。

 

今回の裁判の概略は、平成19年にある青果荷受組合が理事長に対する48億円あまりの債務を免除したところ、税務署長がこの経済的利益を理事長に対する賞与と認定し、源泉所得税18億円余りの納税告知処分などを組合に行ったのに対して、組合がその取消しを求めて争ったというもので、広島高裁岡山支部は1審と同じく、組合の主張を認めて処分を取り消しました。

その理由としては、理事長はバブル崩壊後、貸付金の返済に窮して、平成2年以降、債務免除及び利息の減免を希望し、組合は利息を減免してその支払を受けていたこと、理事長の課税処分についての過去の異議決定(※税務署長への異議申立てに対する税務署長の決定です)において、平成17年の債務免除について理事長に資力がなく債務の弁済が著しく困難になっていたと判断されていたこと、その後も理事長に資産の増加がなかったこと、その状況下で平成19年の債務免除がなされた事実経過からすると、債務免除の主たる理由は理事長の資力喪失により弁済が著しく困難であることが明らかになったためであって、債務者が役員であったことが理由と認めることができないことから、平成19年の債務免除は、役員の役務の対価ではなく、「給与等」に該当するということはできないというものです。

 

個人的には、判決文を見る限り、本件の債務免除が「給与等」に該当しないとの判断はそれなりに合理的なものであるように思います。

皆さんも、税務署から給与等の認定をされそうになったときに、本件と類似の事情がある場合には、強く主張してみられてはいかがでしょうか。

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