税金の申告はいつまでできるのかが争われた事件の判決(1)

本日は、先物取引に係る損失に関して、法定納期限から5年経過した後の期限後申告の可否が問題となった千葉地裁平成30年1月16日判決の一部について、ご紹介します。

 

本件は、原告が先物取引の損益について平成22年分以降の所得税の期限後申告をしたところ、税務署から平成21年分の所得税についても申告義務があるとして所得税の決定処分等を受けたため争った事案です。

原告は、税務調査の際に、平成20年分の損失(2116万円)を平成21年に繰り越したいと述べたところ、時効により期限後申告をすることはできないと説明を受けたが、調査の時点では国税通則法25条の決定を受けていなかったから、期限後申告を行うことができたなどの主張をして争いました。

 

国税通則法は、以下のような定めを置いており、18条だけを読むと、税務署から決定処分を受けるまでは期限後申告を行うことができることになりそうです(原告はこのような解釈をもとに争っています。)。

本件はこの点に関して、納税者はいつまで期限後申告ができるのか(時効等による制限があるのか)が争われた事案です。

 

【国税通則法】

第18条(期限後申告)

1 期限内申告書を提出すべきであつた者(〔略〕)は、その提出期限後においても、第25条(決定)の規定による決定があるまでは、納税申告書を税務署長に提出することができる。

2 前項の規定により提出する納税申告書は、期限後申告書という。

 

第72条(国税の徴収権の消滅時効)

1 国税の徴収を目的とする国の権利(以下この節において「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限(〔略〕)から5年間行使しないことによつて、時効により消滅する。

2 国税の徴収権の時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。

 

 

裁判所はこの点につき、次のように判示して納税者の請求を棄却しました。

 

・国税の徴収権は、原則としてその国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅し(法72条1項)、その時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができない(同条2項)ことからすると、時効期間が経過した場合は、納税者が時効の利益を受ける意思があるか否かを問わずに絶対的に消滅し、課税庁は徴収手続をすることができないと解するのが相当である。

 

・確定申告は、納税者自らの判断と責任においてその納税額を自ら確定させる行為であると解されるから、法25条の規定による決定がされない場合であっても、当該申告の対象となる国税の時効期間が経過し、抽象的な納税義務自体が消滅し、具体的な納税義務の内容をおよそ確定することができなくなったときには、期限後申告をすることはできなくなると解するほかはない。

 

・したがって、納税者が期限後申告をすることができる期間は、原則として、当該国税に係る法定納期限から5年間(ただし、国税の徴収権で、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税等に係るものの時効は、当該国税等の法定納期限から2年間は進行しない(法73条3項本文参照)ので、この場合には、期限後申告をすることができる期間は、法定納期限から7年間)であると解するのが相当である。

 

・そうすると、本件調査時においては、平成20年分所得税の法定納期限から5年を経過し、原告の同所得税に関し法73条3項所定の事情が存するとは認め難いから、原告は、同所得税の期限後申告をすることができなかったこととなる。

 

・これに対し、原告は、平成20年分所得税の期限後申告の対象は損失のみであり、上記期限後申告に基づき原告に納税義務は生じず、国税徴収権も生じないのであるから、国税徴収権の時効期間によって申告の可否を判断することはできないと主張するが、当該納税の対象となる国税の徴収権自体が消滅時効の完成等によって絶対的に消滅した場合には、もはや期限後申告を認める余地はないと解するのが相当であって、仮に確定申告によって具体的に納付すべき税額が発生しない場合に当たるからといって、時効消滅後にも期限後申告が許容される旨の原告の主張は、独自の見解であって相当でなく、採用することができない。

 

 

以上のように裁判所は判断をしたわけですが、次回はこの判決についての考察を書いてみたいと思います。