自賠法とはどんな法律?(続)

 前回に引き続き、自賠法の話です。

 前回の2.の「自賠責保険」については、自動車を持っておられる方には馴染みがあると思いますが、人身事故について前回の1.の運行供用者責任を定めただけでは実際の被害者救済に不十分であるため、自賠法は、その実効性を持たせるために、車の保有者(自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自分のために自動車を運行に使用する者をいいます。)は自賠責保険を付けなければその車を運行に使用してはならないこととし、この自賠責保険によって一定の被害者救済を図ることとしたわけです。

 もっとも、自賠責保険の賠償限度額は、一事故当たり一被害者につき、死亡の場合は3000万円・後遺障害の場合は3000~4000万円(後遺障害の等級等によって75万円から4000万円までと大きな幅があります。)・傷害の場合は120万円となっており、一般的には必ずしも十分な金額とはいえません(その他の自賠責保険の概要は、国交省のHPをご覧ください。)

 そこで、実際の事故で被害者がこの自賠責保険を使用して損害賠償を受けようとする場合には、その被害者が何個の自賠責保険から損害賠償を受けられるかを考える必要があります。複数の車両による多重事故については、「2自賠」「3自賠」と、複数の自賠責保険が重ねて使用できる場合があり、その場合には、自賠責保険の賠償限度額も2倍、3倍となるわけですから、自賠責保険だけでより多額の損害賠償が受けられる可能性があります。たとえば、車2台の衝突事故であっても、被害者が一方の車の同乗者で、双方の車両の保有者に運行供用者責任があるような例では、その被害者は双方の車両の自賠責保険が使用できますから、死亡の場合は6000万円・後遺障害の場合は8000万円・傷害の場合は240万円が損害賠償を受けられる限度額となります。

 

 さて、前回の3.の政府の自賠保障事業(政府保障事業)については、あまり一般の方には知られていない制度かもしれません。政府保障事業については、自賠法72条で規定されており、自動車による人身事故が生じた場合に、事故を起こした自動車の保有者が明らかでないとき(ひき逃げされた場合などです。)や、運行供用者責任を負う者が自賠責保険に加入していないとき(なお、自賠責保険を付けずに車を運行に使用することは罰則の対象にもなっています。)は、被害者の請求によって、政府が一定金額の限度でその損害をてん補してくれるというものです。

 政府保障事業は、上記のように被害者が自賠責保険で損害賠償を受けることができないような場合に、政府が運行供用者に代わって被害者に一定の範囲で損害の補償をしてくれるという被害者にとっては非常にありがたい制度ですが、支払いまでにかなり時間を要する場合もあるようです。

 

 以上で、自賠法の骨子についての説明を終わりたいと思います。