遺留分対策ってどうやればいいの?

遺留分対策としてはどのようなことが考えられるでしょうか?

代表例を挙げておきます。

 

〔※令和元年71日に施行される民法改正により、同日以降に発生する相続については、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と改められ、侵害額に相当する金銭の支払いを請求するものとなります。それに合わせて、対策内容も変更が生じることになります。以下は、民法改正前の対策となりますので、ご注意ください。〕

 

1.遺留分の放棄

家庭裁判所の許可を得れば、生前に遺留分を放棄してもらうことが可能です(相続の放棄と異なり、生前の放棄が可能です)。

ただし、遺留分の放棄をする相続人自身が家庭裁判所に申立てをしなければなリません。

遺留分放棄者の納得や家裁での許可を得やすくするため、放棄の見返りとして、生前贈与等を行うことが考えられます(贈与税等税金にご注意を)。


※一度得られた遺留分放棄の許可について、家庭裁判所は許可を取消すことができるとされていますので、放棄されれば万全とまではいいきれません。
※遺留分の放棄だけでなく、遺言をしておかなければ目的は達成されません。遺留分の放棄では、生前に相続分を放棄したことにならないため、遺留分放棄者に相続をさせない内容の遺言をきちんとしておかなければ、遺留分放棄者も遺産分割協議で相続分を主張できることになってしまい、目的が達成されなくなってしまうからです。 

2.除外合意

生前贈与した中小企業の株式等については、遺留分を算定する際の基礎財産から除外する合意(中小企業経営承継円滑化法4条1項1号・5条)を推定相続人から取り付け、経済産業大臣への確認、家庭裁判所の許可などの要件満たすことによって、遺留分算定の基礎財産から除外することが可能です。これにより、遺留分侵害が生じないようにしたり、価額賠償で対応しやくなります。

この場合も、推定相続人の合意や家裁での許可を得やすくするため、推定相続人への生前贈与等を行うことが考えられます。

 

Cf.似たものに「固定合意」というものがあります。遺留分の計算の際に、生前贈与した株式の評価額を推定相続人が合意した時点での評価額とする合意のことです(中小企業経営承継円滑化法4条1項2号)。後継者が社長から同族会社株式の生前贈与を受け、頑張って会社の業績を上げたために、社長死亡時点で株式の評価額が上がっていた場合に、その上昇分だけ他の相続人の遺留分(侵害額)が増えてしまうという不公平を緩和するための制度です。一部の財産については除外合意、他の財産については固定合意をすることも可能です。 

3.生命保険の活用

遺言で相続人の遺留分を侵害する事態が避けられないようなら、代表者が予め現預金を利用して、自社株や自宅など主な財産を取得する相続人を受取人として、生命保険に加入することが対応策として考えられます。

①相続財産である現預金を減少させ(遺留分侵害額減少)、②遺留分減殺請求がなされても、保険金を使って価額賠償し、自社株等の重要な相続財産を渡さなくてもよいようにできます。

生命保険金は相続財産ではなく、受取人固有の財産となり(※税務上は相続財産とみなされるものの、一定額まで非課税です。)、死亡後比較的速やかに支払いを受けることができ、しかも原則として遺留分算定の基礎財産に含まれず、遺留分減殺請求の対象にもなりません。

 

その他、同族会社で代表者を被保険者、自社を受取人とする生命保険に加入しておき、相続発生後に会社が受け取った生命保険金を相続株式の買取資金として利用することによって、遺留分の侵害が発生しないように相続人に株式を相続させつつ、相続後に株式の集中を図ることが考えられます。

 

~生命保険は、節税対策、納税資金対策としても使えますが、遺留分対策にも使えます! 

4.養子縁組

 養子縁組は相続税の節税にも使われますが(基礎控除額の増加・税率低下のため)、相続人の身内を被相続人の養子にして、遺留分を持つ子供の数を増やすことにより、遺留分減殺請求をすることが予想される相続人の遺留分を減少させて遺留分の侵害が生じないようにしたり、遺留分減殺請求がされても価額弁償で対応できるようにすることも考えられるところです。

ただし、養子縁組は相続税対策、遺留分対策として一定の有効性はあるものの、身分関係に関するものですし、他の子供らの法定相続分を減少させることにもなり、親族の納得、公平感を得られず、あるいは税務署から偽装縁組の疑いをかけられるなどして、新たな紛争を生んでしまうおそれがあるため、相続税や遺留分対策のためだけの養子縁組についてはおすすめできません。

そもそも、当事者間に真正な縁組の意思がなければ、縁組は無効となりますので、ご注意を!

5.種類株式等の活用

 自社株式については、一定部分を議決権の無い種類株式(無議決権株式)とした上で、後継者以外の相続人には、「無議決権株式」を相続させることにより、遺留分侵害も生じさせないようにしつつ、普通株式を相続した後継者に経営権を集中させることができます。もっとも、総会の特別決議による定款変更や種類株主総会の特別決議が必要となります。

なお、遺留分の侵害が発生しないように相続人らに株式を相続させつつ、相続後に会社の後継者以外の少数株主を整理するための方法として、「全部取得条項付種類株式」(株主総会の特別決議で強制的に会社が取得できる種類株式)や「取得条項付株式」(予め定款に定めた一定の事由が生じたことを条件として、会社が強制的に取得できる種類株式)が利用できる場合もあると思われます。

 

また、これらの種類株式と似た株式として、非公開会社(定款で、発行株式の全てについて、会社の承認なしに譲渡できないという制限がされている株式会社のことです)では、定款で定めれば、配当等、議決権、残余財産分配請求権について株主ごとに異なる取扱いができます。こういった株式は株式が属する人(株主)によって株式の内容が異なるため、一般に「属人的株式」と呼ばれています。

たとえば、議決権に関する属人的定めとしては、経営者(後継者)が保有する株式については、議決権の個数を〇倍にするとか(※特定の株主だけが特別の権利を取得する株式は「VIP株」などといわれる。)、役員以外の株主は議決権を持たないというような定めをもうけることが考えられます。中小企業の大多数を占める非公開会社にとっては、多額の資金を要せず、定款変更の手続きだけで、遺留分の侵害が発生しないように相続人らに株式を相続させつつ、後継者の経営権獲得が可能となります。属人的株式は種類株式と似ており、会社法上も種類株式とみなして適用される面がありますが、①VIP株のような属人的株式について別の株主に譲渡された場合は、特別な権利が移転せず、譲り受けた株主に対応した内容の株式となる点で、種類株式と異なります(なお、譲渡されると特別な権利も移転する「比重株」などといわれるものも。)。また、②属人的株式に関する内容は登記には表示されない点(※登記費用も要しない。)でも、種類株式と異なります。

 属人的株式を導入するために定款変更をするに当たっては、総株主の過半数かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成による特殊決議が必要となるため、株主の大多数の賛成が得られるうちに導入するか、あるいはこの要件を満たすように株式を買い集める必要があります。 

6.相続株式の売渡請求

株式に譲渡制限をつけている会社では、定款で相続などの一般承継により取得した譲渡制限株式を会社が買い取ることができるよう定めることができ、会社が相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議に基づき、相続人に対して株式の売渡しを請求できます。最近の一般的な定款にはこの規定が入っていることが多いと思います。

もっとも、実際の売渡請求には特別決議が必要となることや、会社法による取得財源規制があることや、買取価格についての協議成立が容易ではなく裁判になるケースがあるという点、さらには、売渡請求の株主総会では、売渡請求の対象株主は議決権を行使できないため、親族外による支配権取得(クーデター)に利用される危険も一応あることに注意が必要です。

なお、自社株式を強制的に買い取るのではなく、会社が相続人と交渉して任意に買い取ることは、株主総会の決議を経れば、可能です。

  

なお、非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、譲渡者には所得の一定部分について「みなし配当課税」によって一般に税率の高い(最高55%)所得税等が課されるのが原則ですが、相続税を課された人が、相続税の法定申告期限後3年以内に相続株式を譲渡した場合は、「みなし配当課税」をせずに、すべて譲渡所得として税率20%の所得税の課税のみとすることができる特例があります。なお、その計算の際に、株式の相続税相当額を取得費に加算できる特例も併用できます。 

7.遺言書へ理由の記載

遺言書になぜそのような内容の遺言をしたのかについて記載し、相続人の納得を得るように努力してみることが考えられます。地道な方法で確実性はありませんが、実際には有効な場合もあります。

8.被相続人の保有する財産の削減

例えば、被相続人が会社の代表者で、自社株式が主要な相続財産である場合に、 従業員持株会や会社に代表者の株式等を一部取得してもらい、代表者の保有する株式等を減らしておくと、後継者に代表者の株式等を相続、贈与させたときの遺留分侵害額が減少することになります。ただし、株式を移動させる場合にはその対価の相当性や税金面には注意が必要となります。

9.価額賠償の資金策

遺留分減殺請求権を行使された相手方は、対象物件の全部または一部について価額賠償を選択できます。したがって、遺言者は生前に株式や自宅等を受け継ぐ後継者と協議して、少なくとも株式や自宅等については価額賠償で対応し、現物が分割されてしまったり、他の相続人との共有状態にならないように、予め価額賠償の資金策を検討することが適切だといえます。なお、対策資金を相続人に生前贈与してしまうと、それ自体が特別受益に当たり、遺留分侵害額が増えることになるおそれがあるため、生命保険金や死亡退職金など、相続人が(相続によって承継するのではなく)固有に取得し、遺留分の計算に取り込まれないお金で遺留分対策の準備をすることが適切と考えられます。

10.遺留分減殺方法の指定について

 遺留分減殺請求がされたとき、遺贈等の対象となった財産が複数ある場合には、原則として、その全ての財産の一部について(財産の価額の割合に応じて)遺留分減殺請求者に帰属することになってしまいます(対象財産すべてが共有となってしまう)が、遺言で別の扱いをするように意思表示することが可能とされています。 

遺言書で遺留分減殺請求の相手方、対象財産、その順位などを指定することによって、たとえば、自社株や配偶者が住んでいる自宅などの財産については最後に遺留分減殺請求するように指定することによって、結果的にこれらの財産の全部又は一部を遺留分減殺請求の対象から外すことができます。

以上のような対策が考えられるわけですが、そもそも遺留分の侵害があるのかないのか、侵害額がいくらくらいとなるのか、具体的にはどのような対応策が良いのか、など難しい判断が必要となりますから、必ず専門家にご相談下さい!