ストック・オプションに関する所得税法違反事件に無罪判決

 東京地裁は3月1日、ストック・オプション(一般に「会社の役員や従業員などが、一定期間内に予め決められた金額で、所属する会社から自社株を購入できる権利」を指します。)を行使して得た所得に関して、約1億3千万円を脱税したとして所得税法違反に問われた外資系証券会社の元部長に対して、「被告人が過少申告を認識していたか疑問が残る」として故意を認めず、無罪を言い渡したそうです。また、東京国税局の査察部が調査・告発した事件で無罪判決が出たのは極めて異例のことと報道されているようです。

 詳細は分かりませんが、被告人は、ストック・オプションを行使して得た所得に対してかかる所得税については、支払いを受ける際に源泉徴収されているものと認識して申告をしていなかったにすぎず、故意に申告しなかったものではないとして無罪を訴えていたようであり、地裁では被告人の主張が通ったことになります。

 

 ところで、ストック・オプションについては、従来、その行使によって得た所得が所得税法上の一時所得となるのか、給与所得となるのかについて学説や実務等において争いがあったところで(それによって税額の計算方法が異なります。)、最高裁の第三小法廷は、平成17年1月25日に給与所得に当たると判決しましたが、平成18年10月24日には、一時所得として申告していた納税者に対し過少申告であるとして加算税を課した処分(国税通則法第65条第1項)について、その納税者が一時所得として申告し、給与所得としていなかったことについては「正当な理由」(同条第4項、正当な理由がある場合には過少申告加算税は課されません。)があるから、違法な処分であると判決しました。この平成18年の最高裁判決は、一時所得とする見解にも相応の論拠があって、最高裁が給与所得と判断するまでは、下級審の裁判例においても判断が別れていたことなどから、納税者が一時所得に当たるものと理解して一時所得として申告したことには無理からぬ面があり、納税者の単なる法令解釈の誤りにすぎないということはできないと判断しています。なお、この平成18年の最高裁の判断は、あくまでこの事例に関するものであって、一般論ではありませんので、ご注意ください。

 

 さて、今回の東京地裁における事件と平成18年の最高裁判決の事件とでは、刑事事件と民事事件(行政事件)の違い、争点の違い(前者は被告人の「故意」の有無、後者は「正当な理由」の有無)など多くの違いがありますので、単純に関連付けることはできませんが、平成18年の最高裁判決が、納税者の理解や申告に無理からぬ面があるなどとして、過少申告加算税の処分を違法と判断していたことが、今回の東京地裁における刑事事件の無罪判決にも間接的につながっているのではないか、東京地裁の裁判官が無罪判決を書くに当たって後押しとなっていたのではないか、と思われます。

 

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